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掲載日:2024年3月26日

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答申第83号 「生徒事故報告書」の部分開示決定(平成18年3月30日)

答申第83号(諮問第99号)

答申

1 審査会の結論

埼玉県教育委員会(以下「実施機関」という。)が、平成16年12月17日付けで行った「「生徒事故報告書(平成16年8月5日付け収受)」(以下「本件文書」という。)についての部分開示決定のうち、事故の発生日時・場所(ただし、建物の名称及び所在地を除く)、事故者の性別・年齢・所属する学科、試験の科目名・時間並びに「事実確認概要について」中「表題」欄、「日時」欄、「場所」欄及び「事実確認概要」欄中の時刻・教員の参加状況を記載した表の部分については、開示すべきである。

2 異議申立て及び審査の経緯

(1) 本件異議申立人(以下「申立人」という。)は、平成16年12月6日付けで、埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、埼玉県立所沢高校生徒自殺に関する事故報告書の開示請求を行った。

(2) 実施機関は、本件公開請求に対する対象文書を本件文書と特定し、「事故者の氏名、課程名、学科名、年齢及び性別並びに個人を特定しうる部分」を除き開示するのが適当と判断し、平成16年12月17日付けの公文書部分開示決定通知書により、本件文書の部分開示決定(以下「本件処分」という。)を申立人に通知した。

(3) 申立人は、平成17年2月13日付け異議申立書により、実施機関に対し、本件処分のうち、生徒名、課程名、学科名、年齢、性別、保護者名、現住所など個人を特定できる部分を記載した不開示部分以外の開示を求めるとして異議申立て(以下「本件異議申立」という。)を行った。

(4) 当審査会は、本件異議申立について、実施機関から平成17年3月16日付けで条例第22条に基づき、諮問を受けた。

(5) 当審査会の本件に係る審査に際し、平成17年11月29日付けで実施機関から開示決定等理由説明書の提出を受けた。
また、申立人からは平成18年1月10日に反論書の提出を受けた。

(6) 当審査会は、平成18年2月22日に実施機関から意見聴取を行った。
なお、申立人からの当審査会に対する口頭意見陳述の申し出はなかった。

3 申立人の主張の要旨

申立人の主張は概ね次のとおりである。

(1) 申立人は、地域社会構成員の一人として教育問題に強い関心を持って生きてきた。とりわけ、県立所沢高校は、長男の入学式時の問題を発端に特定の教諭処分問題などpta活動を通じて深く関わってきた。
この度の所沢高校生徒の自殺問題は、大きな驚愕をもって報道に接した。
この後、当該事件について各種の伝手から情報収集を試みた。しかし、ことの本質は厚いベールに閉ざされたままで、再発の防止や責任の所在に到達できていない。
最後の手段として埼玉県情報公開を求めたが、本件処分では所期の目的を果たせるものではなかった。

(2) 条例は、第1条で「県民の知る権利を保障するため公文書の開示、県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにする、県民の県政参加を一層進め、地方自治の本旨に即した公正で透明な開かれた県政の推進に寄与する。」としている。
個人のプライバシーに関わる部分でない県民の知る権利を最大限保障しなければ、情報公開は有名無実に陥ることになる。

(3) 当該事件は、教員から生徒に対する「いじめ」の可能性を強く感じる。先に開示された情報からもそのことが示されている。つまり、最大5人の教員が正午から1時間45分にわたり1人の生徒に事実確認と称して昼食時に昼食を保障せず「申告書」という名の反省文を書かせている。この「申告書」の内容が明らかになれば自殺に追い込まれた生徒の苦悩が明らかになろう。このことは同時に、教員のいじめの実態の間接証明となろう。「いじめ防止Q&A」(埼玉県教育委員会 平成9年3月)の「はじめに」には「いじめの原因やその背景には、学校だけでなく家庭や地域社会における様々な要因が複雑に絡み合っており、この問題を解決するためには、学校・家庭・地域社会がそれぞれの役割を十分に果たしながら、密接な連携のもとに取り組む必要があります。」とある。
また、44頁には、「Q1 いじめの予防のための教師の基本的認識や姿勢は、どうあればよいのでしょうか。」との問いに「A1 まずは、生徒の一人一人が、人間としてかけがいのない生命と人格をもつものであり、いじめは、これらのことを損なうものであって、決して許してはならないという基本姿勢を持つことです。この姿勢を生徒達に示し、いじめを起こさない集団づくりをすることが、いじめ予防の基本となります。
中学校・高校は、さまざまな生育歴や個性・価値観をもった生徒が思春期という時期にあって、自我をぶっつけあいながら成長していくわけです。そのためにはお互いがみな対等な人格をもち、自分と異なる考え方や存在を認め合いながら、共に学び共に生活していかなければなりません。そこには、当然、他者への思いやりや自制心、他者に追従しない公正な判断力が求められます。
また、正しい判断力をもち、単なる傍観者で終わることなく、集団の中で自立的な意識を高め、いじめに対して批判的な「学級・学校世論」を形成していくよう、強い教師の指導姿勢が望まれます。」としている。
以上の理念から当該情報公開内容を検討するとき、第一に、地域社会構成員を教育から排除する。第二に、教師の指導姿勢を隠蔽する。第三に、生徒の生命・人格を尊重しない。という結果をもたらし、不当性が顕現する。

(4) 情報公開内容を再検討し、異議申し立ての趣旨に沿った裁決をすべきである。

(5) 開示決定等理由説明書にある不開示理由は、もっぱら生徒氏名など個人情報の不開示原則を理由としているが、申立人はそのような瑣末なことを求めているのではない。県立高校生の自殺といった、ほんらいあってはならない、悲しい事件の再発を防ぐのにはどうすればいいのか、真剣に考えていきたい。これらをまともに追求するのには、少なくとも次の2点をはっきりさせる必要がある。

  • ア そもそもこの事件(生徒自殺)が、なぜ発生したのかという事実関係を明らかにすること。
  • イ 学校当事者は、こうした事件を発生させないために、どのような対策を講じようとしているのかということ。

これら2点は、個人情報云々に関係なく公表できる。
学校事故報告書には、これらに関する記録・報告があったのか、なかったのか。あったとすれば、その内容を。なかったとすれば実施機関としては、そうした事故報告書に対し、どのような指導をしたのか、あるいはしなかったのか。
以上について、明確に答えられたい。

4 実施機関の主張の要旨

本件異議申立に対する実施機関の主張は、おおむね次のとおりである。

(1) 本件文書によって実施機関に報告された生徒事故の概要は、報道により広く知られているところであり、当該学校名も公表されていることから、実施機関は、本件文書の存否については、まず明らかにした。その上で、当該事故者の氏名、課程名、学科名、年齢及び性別並びに個人を特定しうる部分を、条例第10条第1号に該当する不開示情報とした本件処分を行った。

(2) 本件処分における不開示情報は、当該事故者の氏名、課程名、学科名、年齢、性別、保護者名、現住所、死亡年月日、事故発生場所、搬送先の病院、親族関係、事実確認概要、配置図、事実確認時に当該事故者が書いた申告書、当該事故者が使用した机等の写真、保護者の意見等であり、実施機関は、いずれも個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別できることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれのあるものであると判断した。
特に事実確認概要、配置図、事実確認時に当該事故者が書いた申告書及び当該事故者が使用した机等の写真については、個人の人格と密接に関連する情報が、他の情報と不可分の状態で含まれているため、本件文書中の当該頁をすべて不開示としたものである。

(3) また、条例第10条第1号は、プライバシーに関する情報を原則として不開示として扱うことを定めたものであるが、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」については、これを不開示情報から除くと規定している。
ここでいう「公にすることが必要であると認められる」とは、不開示とすることにより保護される利益と開示することにより保護される利益とを比較衡量し、後者が優越する場合であると言える。
本件処分に際し、実施機関は、この点においても不開示情報の妥当性を吟味し、不開示とすることにより保護される個人の人格的な権利利益と、本件文書中の個人に関する情報の持つ社会的性格とを比較衡量し、慎重に検討した結果、本件処分を行ったものである。

5 審査会の判断

(1) 本件文書について

本件文書は、埼玉県立所沢高等学校長が埼玉県教育委員会教育長にあてた「生徒事故報告書」と、この報告書の要点を記した「平成16年度県立学校生徒事故報告」からなっている。
また、「生徒事故報告書」には、「現場見取り図」のほか別添資料として「事実確認概要について」、「配置図」、「事実確認時に本人が書いた申告書」及び「事故生徒が使用した、机と○○○○(写真)」、更に事故関係者の意見として「保護者の意見」が添付されている。
当審査会で見分したところ、「事実確認概要について」には、事故者本人と教員とのやりとりが、時刻、発言内容、事故者本人の返答内容、補足事項及び教員の参加状況に分けて記載され、「配置図」には、教室及び事実確認が行われた部屋の平面図に参加者の位置関係が記載されていた。

(2) 条例第10条第1号本文該当性について

条例は、公正で透明な開かれた県政を推進のため、県民に対し説明する責務を実施機関に課し、公文書を原則として公開することとしている。このような原則公開の例外である個人に関する情報は、条例第10条第1号に定めるところであり、これは個人の尊厳という憲法原理に立脚し「いわゆるプライバシー」に関する情報を原則不開示とするものである。また、「個人に関する情報」とは、個人に関するすべての情報をいい、個人には死者も含まれるものである。
本件処分で開示しない情報とされた「事故者の氏名、課程名、学科名、年齢及び性別」は、特定の個人を識別することができる情報(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなる情報を含む)であり、条例第10条第1号本文に該当すると認められる。
また、本件処分で開示しない情報とされた「個人を特定しうる部分」とは、「生徒事故報告書」及び「平成16年度県立学校生徒事故報告」にあっては、事故の発生日時・場所、その他の日時、疑われる行為があったとされる試験の科目名・時間及び疑われる行為についての情報を指すものである。また、「事実確認概要について」、「事実確認時に本人が書いた申告書」、「事故生徒が使用した、机と○○○○(写真)」及び「保護者の意見」にあっては、その文書全体の情報を指すものである。
当審査会でその内容を見分したところ、これらの情報は、特定の個人を識別することができる情報(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなる情報を含む)、あるいは、特定の個人を識別できないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であり、いずれも条例第10条第1号本文に該当すると認められる。

(3) 条例第10条第1号ただし書イ該当性について

条例第10条第1号ただし書イは、法令若しくは他の条例により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報を開示するものであるが、本件処分で開示しない情報とされた各情報がこれに該当するとは一般的には認められない。
しかし、実施機関が説明によると、本件文書に記載された生徒事故の概要は報道により広く知られている、とのことであり、実施機関は本件処分において学校名を開示している。
本件事故当時の新聞報道記事には、学校名の外、死亡事故の発生日時及び状況、並びに死亡事故の原因として定期試験においてあったとされる疑われる行為及び教員が行った事情聴取の要点が記載され、これらについては実施機関が報道機関の取材に対応したものと強く推測される。
そうだとすれば、事故の発生日時・場所(ただし、建物の名称及び所在地を除く)、事故者の性別・年齢・所属する学科、疑われる行為があったとされる試験の科目名・時間並びに「事実確認概要について」中「表題」欄、「日時」欄及び「場所」欄並びに「事実確認概要」欄中の時刻及び教員の参加状況の記載については、条例第10条第1号ただし書イに該当し、開示するのが適当と認められる。

(4) 条例第10条第1号ただし書ロ該当性について

条例第10条第1号ただし書ロは、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」を開示するもので、いわゆるプライバシーを中心とする個人の正当な権利利益は、その性質上、手厚く保護されるべきであるが、なおこれに優越する公益があるときは開示するものである。
ところで、本件文書に記載された情報は、事故者である生徒が死亡するに至った事故に関する情報であり、本件処分で開示しないこととした情報は個人の機微に関する情報である。事故者が未成年者であることもあり、ただし書ロの適用に当たっては、個人の人格的な権利利益の保護に欠けることのないよう慎重に判断せざるを得ない。
高校生の自殺の再発を防ぐため、事実関係を明らかにするべきという申立人の主張にはもっともな点もあるが、それでもなお、このような公益が事故者に生じる不利益に優越するとして本件情報を公にする合理的な理由があるとまで認めることはできない。このため、本件処分で不開示とした各情報は、条例第10条第1号ただし書ロには該当しない。

(5) 条例第10条第1号ただし書ハ該当性について

条例第10条第1号ただし書ハは、公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る情報を開示するものであるが、「事実確認概要について」に記載された情報以外の各情報は、事故者あるいは事故者の家族の情報であり、事故者らは公務員ではないので、これらの情報は条例第10条第1号ただし書ハに該当しない。
「事実確認概要について」には、事故者本人と教員とのやりとりが、時刻、発言内容、事故者本人の返答内容、補足事項及び教員の参加状況に分けて記載されている。これらの情報は、公務員として教員の職務の遂行に係る情報という性質ととともに、公務員ではない事故者の個人に関する情報という性質を密接なものとして併せ持っている。このため、本件処分で不開示とした各情報は、条例第10条第1号ただし書ハには該当しない。

(6) 条例第10条第1号による判断

上記(2)から(5)までの検討のとおり、事故の発生日時・場所(ただし、建物の名称及び所在地を除く)、事故者の性別・年齢・所属する学科、疑われる行為があったとされる試験の科目名・時間並びに「事実確認概要について」中「表題」欄、「日時」欄及び「場所」欄並びに「事実確認概要」欄中の時刻・教員の参加状況の記載については開示すべきである。

(7) 申立人の主張について

申立人は実施機関の指導姿勢等について意見を述べるが、これらは条例に基づく公文書の開示請求に関することではないので、本件の結論を左右するものではない。

以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
城口美恵子、田村泰俊、山口道昭

審議の経過

年月日

内容

平成17年3月16日

実施機関から諮問を受ける(諮問第98号)

平成17年11月29日

実施機関から開示決定等理由説明書を受理

平成18年1月20日
(第三部会第10回審査会)

審議

平成18年2月22日
(第三部会第11回審査会)

実施機関から意見聴取及び審議

平成18年3月17日
(第三部会第12回審査会)

審議

平成18年3月30日

答申(答申第83号)

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郵便番号330-9301 埼玉県さいたま市浦和区高砂三丁目15番1号 埼玉県衛生会館1階

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