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掲載日:2024年3月26日

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答申第54号 「療育手帳についての裁判記録のうち甲号証の一部」の不開示決定(平成17年9月13日)

答申第54号(諮問第57号)

答申

1 審査会の結論

埼玉県知事(以下「実施機関」という。)が平成15年8月13日付けで、平成12年(行ウ)第13号(療育手帳についての裁判)の裁判記録についてのうち甲第10号証及び甲第11号証並びに平成13年(行コ)第49号(療育手帳についての裁判)の裁判記録についてのうち甲第18号証(以下「本件文書」という。)について不開示とした決定は、妥当である。

2 異議申立て及び審査の経緯

(1) 本件異議申立人(以下「申立人」という。)は、平成15年8月1日、埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、「療育手帳交付にかかる裁判で、裁判所へ提出された文書の内、甲第8号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第18号証(家庭状況に関するものは除く)」の開示請求を行った。

(2) これに対して、実施機関は、ア平成12年(行ウ)第13号(療育手帳についての裁判)の裁判記録についてのうち甲第8号証及びイ本件文書を特定し、平成15年8月13日付けで、アについては全部開示とする決定、イについては「個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、条例第10条第1号に該当する」ことを理由として不開示とする決定(以下「本件処分」という。)を行い、申立人に通知した。

(3) 申立人は、平成15年8月16日付けの異議申立書により、実施機関に対し、本件処分について、その取消しを求める異議申立てを行った。

(4) 当審査会は、本件異議申立てについて平成15年8月26日付けで実施機関から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。

(5) 当審査会の本件審査に際し、実施機関から平成16年11月10日付けで開示決定等理由説明書の提出を受けた。その中で、実施機関は、本件文書を不開示とした理由として、下記4(2)イのとおり条例第10条第7号にも該当する旨の理由の追加をした。

(6) 当審査会の本件審査に際し、申立人から平成17年1月11日付けで意見書の提出を受けた。

(7) 当審査会は、平成17年4月15日に、実施機関の職員から事情聴取を行った。なお、申立人は、当審査会に対する口頭による意見の陳述を求めていない。

3 申立人の主張の要旨

申立人の主張は、おおむね次のとおりである。

(1) 裁判記録は、原則全面的に公開すべきである。本件文書に関する裁判の関係文書のうち、判決書は、既に申立人に開示されている。この判決書から、この裁判の原告である個人本人の障害は、軽度知的障害を伴う自閉症候群であることは明白である。本件文書のいくつかの記述は、単に自閉症についての説明であるにすぎず、個人の心身状況について言及しているとまではいえない。既に開示されている情報とプライバシーの程度が同じであれば又は人に知られたくないという程度が同じであれば、その部分は不開示情報と区別して開示すべきである。

また、この裁判の原告は、裁判を自身で提起し、上告状も提出することができる能力を持っている。このような能力がある人であれば、裁判制度についての知識を十分に持っていると考えられる。裁判を提起すれば、ある程度の個人情報が公になるということは、当然なこととして理解し、行政に対して提起した裁判記録が公開される情報であるという認識を持っていると考えられる。

(2) 自閉症児者への支援制度について、埼玉県(以下「県」という。)では、他のいくつかの地方公共団体で行われているような制度、例えば、自閉症と診断されIQが91までの者で児童相談所長が必要を認めれば療育手帳が交付される、IQが70であっても重度判定になる、自閉症の診断があれば障害者医療の対象になる、ある条件を満たせばIQに関係なく療育手帳が交付される等というような制度がないために、自閉症児者に対して知的障害の枠組みでのみの福祉サービスしか提供されていない。

上記(1)の裁判での原告の主張を読むと、原告は、県の療育手帳制度の運用、IQのみでの療育手帳の判定では、あまりにも硬直し柔軟な対応となっていないために、本当に困っている人に対する支援が無いあるいは少ないと考え、このように不利益を被る人の利益も守ることをも主張することも目的として、この裁判を提起したと理解すべきである。原告は、本来は公にしたくない事実ではあるが、公にしないと、現状の福祉施策の谷間にはまって障害の程度に応じた支援を受けることができないと判断して、裁判を提起し、県が制度運用を厳格にして自閉症児者への支援制度をつくっていないことを公にして問題提起をしたと、申立人は考える。

(3) 本件処分時にはなかった不開示とした理由をその後の異議申立てについての審査において追加することを認めると、開示請求者に不利な状況が生まれるので認めるべきではない。県が保有する公文書を開示請求しているのであって、裁判所が保有する文書を開示請求しているのではない。どうしても追加するのであれば、追加する必要性に気づいたときに、速やかに開示請求者に対して不開示とした理由の追加について連絡することが必要である。

(4) 裁判記録については、他のいくつかの地方公共団体では、県のような処分をしていない。開示対象の文書であり、情報公開条例に基づいた判断をしている。本件文書の不開示が維持されれば、自閉症、発達障害等に関する県の施策を理解することができず、自閉症、発達障害等の障害がある人が不利益を受けることになる。行政施策の是非を判断することができる程度の情報は、行政の説明責任を果たす上でも、開示することが予定されている情報であるということができる。知的障害の判定を適切に実施していることが理解できる文書を開示することは必要であるという認識をして、条例の解釈運用をすることが期待されているのである。

4 実施機関の主張の要旨

異議申立てに対する実施機関の主張は、おおむね次のとおりである。

(1) 本件文書について

本件異議申立ての対象となる文書は、県が行った療育手帳の交付決定処分について、交付を受けた者が当該交付決定を不服として提起した処分取消等請求訴訟において、浦和地方裁判所(現さいたま地方裁判所)及び東京高等裁判所に提出し、裁判所から送付を受けて県が収受した陳述書である。

(2) 不開示とした理由について

  • ア 条例第10条第1号該当性
    本件文書は、障害者個人の非常に詳細な日常生活の状況や行動の内容が記されているものであり、たとえ、氏名や個別施設の名称等を伏せて公開をした場合でも、本人や家族等はもとより、本人の日常生活や行動等を共にし、日ごろ接する機会の多い近隣に住んでいる者や同一の施設を利用している者等には、日ごろ接している情報等と比較し、特定の個人の情報であるものと認識することは、容易なものと考える。そのため、もし、県がこれを公開した場合、本人や家族が最も知られたくないと思っている面識者など、多くの者に、本人等の個人情報が知られることになる。本件文書は、本来は公表をしたくない事実について、裁判で主張を認めてもらうため、裁判の資料として利用することの前提に、特に提出されたものであり、これを裁判の一方の当事者である県が、このような状況が想定できるにもかかわらず、敢えて裁判の目的外で公開をすることは、このような本人等の気持ちを傷つけるのみでなく、障害者福祉行政を担う県としての信用や信頼を損なうものと考える。
  • イ 条例第10条第7号該当性
    本件文書は、上記(1)のとおり訴訟を提起した者が裁判所に提出し、裁判所から送付を受けて県が収受した文書である。裁判所が保管する訴訟記録の交付は、民事訴訟法第91条第3項及び第4項の規定により、当事者及び利害関係を疎明した第三者に限定しており、単なる第三者からの交付請求は認められていない。よって、本件文書は交付することができない情報であると判断し、条例第10条第7号にも該当するので、不開示とした理由の追加をする(上記2(5)参照)。

5 審査会の判断

(1) 本件文書について

本件異議申立ての対象となる文書はいずれも、裁判所における訴訟記録で一方の当事者である県が保有する相手方当事者の提出に係る書証のうち、当該相手方当事者である障害者個人の日常生活の状況や行動の内容等が非常に詳細に記載されていると認められる陳述書である。

(2) 条例第10条第1号該当性について

  • ア 当審査会において、本件文書を見分したところ、同文書の記載内容は、全体にわたって、相手方当事者である障害者個人の日常生活の状況や行動の内容等が非常に詳細に記載されていることが認められる。これらの情報は、当該個人に関する極めて機微にわたる情報であり、通常、他人に知られたくない性格の情報であると認められる。このような本件文書の性格にかんがみると、本件文書を公にした場合には、たとえ、氏名等の個人識別性のある部分を不開示とし残りの部分を開示したとしても、当該個人の権利利益が害されるおそれがあると考えられる。したがって、本件文書に記録されている情報は、全体として、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものであると解するのが相当である。
  • イ ところで、申立人は、本件文書は、訴訟記録であるから一般に公にされるべきものであり、したがって、その記載内容は条例第10条第1号ただし書イに該当する旨主張していることが認められる。
    しかし、裁判の公正と司法権に対する国民の信頼を確保する要請に基づいて、原則として訴訟手続が公開法廷で行われ、訴訟記録が一定の範囲で閲覧に供されているが、他方で、個人のプライバシー保護の観点から制約を受ける場合があることは否定できない。このような趣旨で定められている訴訟記録の閲覧等の制度は、情報公開条例に基づく開示請求制度とは趣旨・目的を異にするものである。裁判の公開や一定の要件の下に認められる訴訟記録の閲覧によって知ることのできる情報であるとしても、そのことだけで、直ちに当該情報が法令により公にされ、又は公にすることが予定されているとまで言うことはできない。したがって、本件文書の記載内容が条例第10条第1号ただし書イに該当するとする申立人の主張は採用できない。そのほかに、本件文書に条例第10条第1号ただし書イからハまでのいずれかに該当する情報が記録されているとは認められない。
  • ウ よって、本件文書は、条例第10条第1号に該当し、不開示とすることが妥当である。

(3) 本件処分の妥当性について

以上のことから、本件文書は、条例第10条第1号に該当すると認められるので、同条第7号該当性について判断するまでもなく、不開示としたことは妥当と認められる。

よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
野村武司、藤田由紀子、馬橋隆紀

調査審議の経過

年月日

内容

平成15年8月26日

諮問の受理(諮問第57号)

平成16年11月15日

実施機関から開示決定等理由説明書を収受

平成17年1月11日

異議申立人から意見書を収受

平成17年4月15日

実施機関の職員から事情聴取及び審議(第1回第二部会)

平成17年5月19日

審議(第2回第二部会)

平成17年6月16日

調査

平成17年7月22日

調査

平成17年8月18日

審議(第3回第二部会)

平成17年9月13日

答申

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