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掲載日:2018年4月18日

埼玉新聞連載記事「持続可能な社会目指して」その21

淡水の森の再生を

人工浮島で湖沼環境改善

県では、「みどりと川の再生」を重点課題として取り組んでいる。本稿では、湖沼などの水面下に広がる沈水植物(根、茎、葉がすべて水中で生活する植物)が繁茂している状態を「淡水の森」にたとえ、低炭素社会との関係を解説する。

憩いの場として親しまれている山ノ神沼(蓮田市)や別所沼(さいたま市)は、現在ではアオコが発生するまでに富栄養化が進み、水は緑色に常に濁っている状態である。

ところが、かつては沈水植物が繁茂し、底まで水が澄んでいた。筆者が行った山ノ神沼を対象としたアンケート調査によると、多くの方が子供の頃、山ノ神沼で泳いだりエビをとって遊んだ経験をお持ちである一方、昭和40年代から50年代頃水が汚れてきたと感じたとする回答が最も多かった。また、別所沼においては、やはり子供の頃、対岸まで泳いで遊んだという方にお会いした。30年ほど前までは、山ノ神沼や別所沼において「淡水の森」が存在していたようだ。

沈水植物は、リンや窒素を栄養源として、光合成により水中の二酸化炭素を取り込み、酸素を放出し、水質改善や炭素の固定に寄与する。その上、魚、エビや昆虫などの水生生物のすみかとして重要な働きをしている。50年ほど前までは、全国的に「藻刈り」と呼ばれる、水田や畑の肥料としての沈水植物の採集が全国的に行われていた。沈水植物には肥料の成分となる窒素とリンが含まれている。したがって、藻刈りは、湖沼に流入したリンや窒素を吸収した植物体を通じて陸上に回収することになり、湖沼の浄化に一役買っていた。その後、便利で安価な化学肥料が使われるようになると、藻刈りは行われなくなっていった。本シリーズで既に紹介したように、我が国は肥料に不可欠なリン資源に乏しく、すべてを海外に依存している。海外から資源の輸送には、大量にエネルギーを消費(二酸化炭素を排出)するのに対し、藻刈りが行われていた当時は、身近な沈水植物を資源(肥料)として循環利用した、正に低炭素社会であった。

ところで、枯れた沈水植物をそのままにしておくとリンや窒素が溶出するだけでなく、分解時に酸素が消費され、水質が悪化する。さらに、台風時などに切れた植物体が岸に打ち上げられると、腐って悪臭を放つなど生活環境が悪化する恐れがある。藻刈りが行われなくなった現在では、例えば、琵琶湖では行政がお金をかけて、増えすぎた沈水植物を刈り取って、沿岸の管理を行っている。「淡水の森」の再生は、湖沼の環境回復を図ることに効果があるが、繁茂しすぎた場合の対応を検討しておく必要がある。

センターでは、環境省の研究資金を得て、平成19年度から21年度までの3年間、沈水植物再生方法及び刈り取った沈水植物の資源化に関するプロジェクトを福島大学、東北大学及び株式会社フジタ技術センターの4者で実施した。その結果、山ノ神沼及び別所沼に設置した実験施設では、植物を植えた人工浮島を設置することで、水が濁る主要因の植物プランクトンが減少して沈水植物の成長に必要な水中の光条件が改善し、「淡水の森」の再生に成功した(図1、2)。また、ゴミ袋を使った簡便な水草堆肥の作り方を考案した成果は、地元の加須市立騎西中学校との水草堆肥活用プロジェクトに引き継がれている。この水草堆肥活用プロジェクトが種火となり、やがては県下、全国へと展開し、低炭素社会構築への学習動機として貢献できれば望外の喜びである。

山ノ神沼の実験施設および再生した「淡水の森」(沈水植物エビモ)
図1 山ノ神沼の実験施設および再生した「淡水の森」(沈水植物エビモ)

別所沼の実験室で再生した「淡水の森」(沈水植物イトモ)
図2 別所沼の実験施設で再生した「淡水の森」(沈水植物イトモ)

埼玉県環境科学国際センター 水環境担当 田中仁志

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