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掲載日:2018年4月19日

埼玉新聞連載記事「自然との共生 埼玉の現状と課題」その10

2008年8月4日掲載

田んぼと生物多様性

生き物の宝庫ウェットランド(湿地)としての田んぼ

ラムサール条約という名称を耳にしたことがあるだろうか?湿地の保全に関する国際条約で、正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」という。条約の目的は、多様な生物、特に水鳥の生息地として重要な湿地を国際的に保全しようとするものであるが、その背景には、埋め立てや干拓が容易で、開発されやすい湿地を保全しなくてはならないという機運の国際的な高まりがあった。現在、日本を含む百五十二カ国が締結している。

では、湿地とはどのような場所を指すのだろうか。日本で湿地というと、釧路湿原や尾瀬ケ原などいわゆる湿原のイメージが強い。しかし、ラムサール条約で湿地としている範囲は大変広い。池、沼、河川、干潟、サンゴ礁、藻場など、川の源流から海の浅い場所まで水がある場所すべてを湿地と呼び、さらに、ため池や農業用水路など人間によって作られた二次的な環境も湿地としている。

この様に、日本語の湿地より広い範囲をラムサール条約では湿地としているため、湿地ではなくウェットランド(Wet land)という呼称を使うことも多い。

この湿地は生物にとって重要な役割を果たしている。多くの生物は水無しでは生きてゆけない。そのため、水が豊富にある湿地を生息の場としている生き物は多い。世界的な自然保護団体TNCなどがまとめた淡水生物マップでは、地表の0.8%を占めるにすぎない淡水域に、地球上の生物の約6%以上の種が生息するとしている。干潟や、サンゴ礁などの浅瀬を加えればさらに湿地で生息する種は増えるだろう。まさに湿地(ウェットランド)は生物多様性のゆりかごと言ってもよい。

さて、日本の湿地に目を向けてみよう。日本には釧路湿原をはじめ、伊豆沼・内沼、谷津干潟などラムサール条約登録湿地が三十三カ所ある。いずれも鳥の渡りの中継地となるなど重要な湿地だ。しかし、日本には条約には登録されていないが重要な湿地がある。それは、水田だ!日本の水田面積は二百五十三万ヘクタールあり、国土の6.7%を占めている。さらに、水田を維持するために農業用水路やため池など、多くの湿地が作られている。このような水田とそれを取り巻く二次的な湿地は、古くから生き物が暮らす場所としても独特の生態系を形作ってきた。日本の両生類やトンボの種数の多さは、水田に支えられてきたともいわれている。

埼玉県にはかつてこの豊かな水田生態系の象徴ともいえる場所があった。現在のさいたま市緑区上野田にあったサギの集団繁殖地(コロニー)「野田の鷺山」だ。野田の鷺山は江戸時代中期に形成され、多い時には巣の数が五千以上、個体数は四万羽に達したとも言われている。昭和初期には国の天然記念物にも指定されたが、一九七二(昭和四十七)年に消失し、その後、コロニーは形成されていない。消失の原因は明らかではないが、水田の減少も原因の一つではないかと考えられる。

野田の鷺山は見沼田んぼに面した場所にあったが、水田転作が始まると周囲の水田の多くが畑地へ転換され、今では水田はわずかしか残っていない。このことが水田で暮らすカエルやドジョウなどを主食とするサギ類にとっては致命的だったのではないだろうか。久喜市には今でも数百羽規模のコロニーがあるが、その周辺十キロメートル以内の約60%が水田であり、豊富な水田がコロニーの形成には欠かせないことがわかる。

水田の本来の機能は食糧生産にある。しかし、水田は人工的な湿地(ウェットランド)として多くの生きものやその多様性を支えてきた。現在の水田や水路は乾田化や三面コンクリート護岸化などが進み、かつての水田ほど生き物にとって暮らしやすい場所ではなくなってしまった。

しかし、これからは、水田の持つ多面的な機能にも目を向け、生物多様性保全にも配慮する必要があるのではないだろうか。水田に対してもラムサール条約が掲げる「賢明な利用(Wiseuse)」が求められている。

チュウサギ

代表的な田んぼの鳥 チュウサギ

鷺山

中川河川敷に形成された鷺山(サギの集団繁殖地)

埼玉県環境科学国際センター 自然環境担当 嶋田知英

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郵便番号347-0115 埼玉県加須市上種足914 埼玉県環境科学国際センター

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