答申第94号 「平成17年度埼玉県公立小・中学校等教員採用選考試験の第2次試験場面指導問題及び2次試験の結果を転記する得点一覧表(用紙)」等の不開示決定(平成18年9月7日)
答申第94号(諮問第112号)
答申
1 審査会の結論
埼玉県教育委員会(以下「実施機関」という。)が、平成17年1月11日に行った平成17年度埼玉県公立小・中学校等教員採用選考試験の「第2次試験 場面指導問題」、「2次試験の結果を転記する得点一覧表(用紙)」及び「2次試験における16領域のそれぞれの領域の実数」についての不開示決定については、妥当ではない。
2 異議申立て及び審議の経緯
(1)異議申立人は、平成16年12月27日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、別添の情報公開請求項目について公文書の開示請求(以下「本件開示請求」という。)をした。
(2)実施機関は、別添の情報公開請求項目のうち、埼玉県知事へ移送した1の1を除き、それぞれ対象文書を特定の上、平成17年1月11日に以下のとおり決定を行い、異議申立人に通知した。
- ア 2の1、2の2、2の3(場面指導問題を除く。)、3及び7については開示決定をした。
- イ 5については、公文書不存在(不作成)を理由に不開示決定をした。
- ウ 2の3のうちの場面指導問題、4及び6については、「開示することにより教員採用選考試験に係る事務に多大な支障を及ぼし、当該事務及び教育行政の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり、条例第10条第5号に該当するため。」として不開示決定(以下「本件不開示決定」という。)をした。
(3)異議申立人は、(2)のウの本件不開示決定に対して、公文書を開示すべきであるとして、平成17年1月17日付けで実施機関に異議申立て
(以下「本件異議申立て」という。)をした。
(4)当審査会は、本件異議申立てについて平成17年11月22日付けで実施機関から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。
(5)当審査会は、本件審査に際し、実施機関から平成17年12月26日付けの開示決定等理由説明書(以下「理由説明書」という。)の提出を受け、また、平成18年5月10日に実施機関から意見を聴取した。
(6)当審査会は、異議申立人から平成18年2月6日付けで反論書の提出を受け、また、平成18年5月10日に異議申立人から口頭意見陳述を聴取した。
3 異議申立人の主張の要旨
異議申立人の主張はおおむね次のとおりである。
(1) 「第2次試験 場面指導問題」について
- ア 開示しない理由としては、「係る事務に重大な影響を及ぼ」すことや「当該事務及び教育行政の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」という一般的な理由では不十分であり、具体的、個別的かつ明白な説明が必要である。
- イ 今まで実施機関は試験問題に関して基本的には第1次試験も第2次試験も同様に全面的に公開してきており、今回の不開示決定との整合性がない。
- ウ 全国的に教員採用選考試験の問題、結果等に関わる資料、結果における実数について情報公開が進んでいる。実施機関が「全国的にも今回不開示とした部分については、開示は行われているものではない。」とするのは事実誤認である。全国の多くの都府県・政令指定都市で公開されており、宮城県、島根県、仙台市は面接試験の問題を公開しており、名古屋市は全面的に試験問題を公開している。
- エ 平成14年10月11日最高裁判決によると「受審者の間では、従来から、過去の・・・出題例を編集した市販の問題集等を用いた受審準備が行われているのであるから、・・・問題と回答が開示されたからといって、受審者の受審準備状況が変わり、教員にふさわしい受審者を採用することが困難になるとはいい難い」。また、「問題とその解答の開示により問題作成者の負担が増大し、問題作成者の確保が困難になるということはできない。」とされ、開示することにより当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の実施の目的が失われ、又はこれらの事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるものには当たらないと明確に判断を下している。
- オ 試験問題の公開は、受験者のみでなく広く県民に対してもこの問題が埼玉県にとって優秀な人材を採用するに相応しい問題かどうかを問うているものである。多くの受験者が情報を交換し、ほぼ正確な問題を復元していたり、出題例を編集した市販の問題集等に掲載されているのが実態である。その受験対策がされている問題について、「今後も、同様な問題を使用」とか、「あらかじめ問題が分っていると受験者の真の教員としての人間性や指導性を適正に評価する人物重視の選考ができない」とする実施機関の主張は理由にならない。場面指導の問題は、現在の様々に発生している子供たちの問題からすれば、数多く出題することが可能である。
(2) 「2次試験の結果を転記する得点一覧表(用紙)」について
開示した場合、受験者がどのような項目が合否の決定につながるかを勘ぐったり、何のための項目なのか必要以上に疑念を抱いたりし、受験者が勝手に項目の使われ方を憶測しかねないとの実施機関の主張は理由になっていない。そもそも「合否の決定」は埼玉県教育委員会が公開している「教員採用選考方針」に基づき明確であるので、公開できないのであれば、逆に大きな問題をその項目がはらんでいると考えざるをえない。
(3) 「2次試験における16領域のそれぞれの領域の実数」について
「16領域のそれぞれの領域の実数」を求めているのであって、受験者個々人の合否の理由を求めているものではない。「理由を説明するには、他のすべての個人情報等を開示しなければ困難である」との実施機関の主張は情報公開制度と個人情報開示制度を混同したものであり、理由になっていない。
4 実施機関の主張の要旨
実施機関が本件不開示決定に係る対象文書が条例第10条第5号に該当するとの主張は、おおむね次のとおりである。
(1) 「第2次試験 場面指導問題」について
- ア 第2次試験は、受験者の教員としての人間性や指導性を評価する人物評価であり、多数の試験員により職務遂行の能力を総合的に判断するものである。したがって、第2次試験の場面指導の問題を開示した場合、受験者の真の教員としての人間性や指導性を評価する人物重視の選考に多大な影響を及ぼすとともに、公正かつ公平な審査を困難にする。
- イ 実施機関が第1次試験も第2次試験も同様に全面的に公開してきたとする異議申立人の主張は事実誤認である。第2次試験の問題については今まで開示していない。それは、第2次試験は人物重視を基盤として人間性や指導性を評価するために、校種、教科によって課題が異なり、実技試験を取り入れたり、面接試験を行っているからである。全国的にも今回不開示とした部分については、開示は行われていない。
- ウ 場面指導の問題については、今後も同様な問題を使用することが考えられることから開示に相応しくない。
- エ 場面指導を実施する目的は、受験者の臨機応変に対応できる指導性や判断力を問うものであるから、開示することによってあらかじめ問題がわかってしまうと、受験者の真の教員として人間性や指導性を適正に評価する人物重視の選考ができない。
(2) 「2次試験の結果を転記する得点一覧表(用紙)」について
公開した場合、受験者は選考に関わる項目を知りうることになり、受験者がどのような項目が合否の決定につながるかを勘ぐったり、何のための項目なのか必要以上に疑念を抱いたりし、受験者が自ら勝手に項目の使われ方を憶測しかねない。
(3) 「2次試験における16領域のそれぞれの領域の実数」について
領域の実数を開示した場合、合格可能な領域に属していると判断した受験者が不合格になる場合や、またその逆の場合も生じ、その理由を説明するためには、他のすべての個人情報を開示しなければならなくなるため、当該事務事業の適正な執行を著しく困難にするおそれがある。
5 審査会の判断
(1) 「第2次試験 場面指導問題」について
- ア 対象文書について
平成17年度埼玉県公立小・中学校等教員採用選考試験第2次試験で行われた場面指導試験に出題された問題である。
- イ 条例第10条第5号該当性について
異議申立人から提出された市販の問題集を当審査会で見分したところ、実際に場面指導試験に出題された問題の復元がされている。この復元問題は、受験した者からの情報によるものと思われるが、実際に出題された問題の仔細な部分まで完全に復元するまでには至っていないものの、出題の趣旨においては相当程度まで復元されている。実質的には場面指導問題のかなりの部分が事実上明らかにされていると認められ、さらに、受験者間の情報交換により、市販の問題集に掲載されている問題以外についても明らかにされていることが推測される。
実施機関は、あらかじめ問題がわかっている受験者がいると受験者の真の教員として人間性や指導性を適正に評価する人物重視の選考ができないこと、及び、今後も同様な問題を使用することが考えられることから開示に相応しくないことを主張する。しかし、これらの主張は受験者が問題を全く知りうることがない状況を前提としており、上述の状況においては合理性を欠くものといわざるを得ない。
また、場面指導問題を開示した場合、確かに、今後の教員採用選考試験の問題作成において、同様の出題を繰り返さないように多様な場面指導問題を作成しなければならなくなるなどの支障が生じることになる。しかし、そのような支障はあらゆる試験においてあり得るものであって、教員採用選考試験に限ったものではない。臨機応変に対応できる指導性や判断力を問う選考方法という場面指導試験を実施する目的を果たすためには、試験を実施する側が不断の創意工夫及び努力をすべきものであって、当然そのような負担は受忍すべきものである。
一般的に、およそ試験を受けるに当たって、受験者は受験案内等を参考にすることはもとより、過去の出題された問題が公表されている試験においては、過去の出題を分析すること等が、広く行われているものである。受験者は過去の出題の分析を通して自己に不足している知識等を補う学習をするとともに、試験に合するためには、過去の出題を分析するだけでは足りず、平素の基礎的能力の向上に努める必要があると考えられる。
したがって、これらのことを勘案すると、場面指導問題が開示された場合、受験者は出題の予想や対策を行うことになると考えられるが、仮にそのような対策等が行われたとしても、これをもって直ちに場面指導試験の目的が損なわれると判断し得るまでの具体的な根拠は認められない。
(2) 「2次試験の結果を転記する得点一覧表(用紙)」について
- ア 対象文書について
異議申立人は「2次試験の結果を転記する得点一覧表」を開示請求した。一方、実施機関が対象文書として特定した「2次試験の結果を転記する得点一覧表(用紙)」は、最終的な合格者を決める選考作業を行うために、選考対象者(受験者)の第2次試験の論文・実技試験等の結果だけでなく、その他の選考するための資料を転記する用紙である。
異議申立人が開示請求したのは、「(個人のものが記載されていない用紙そのもの)」であるが、実施機関は、個々の選考対象者(受験者)のデータが記載されていない白紙の用紙は存在しないため、データが記載されたものを対象文書として特定した。
特定した公文書は、「個人のものが記載されていない」ものではないが、実施機関が各記入欄に記載された個人のデータを除いた当該一覧表の「項目名」(各記入欄の見出し)及び表枠を請求対象とし、対象文書を特定したことは適当であると認められる。
- イ 条例第10条第5号該当性について
実施機関は、当該対象文書である一覧表の「項目名」には、氏名等必然的に設定されるものもあるが、その他のものは教員採用選考試験の最終的な合格者を選考するための資料として設定したものであって、最終的な選考の方法が示されているものであるとする。したがって、この「項目名」を開示した場合、受験者は選考に関わる項目を知りうることになり、受験者がどのような項目が合否の決定につながるかを勘ぐったり、何のための項目なのか必要以上に疑念を抱いたりし、受験者が自ら勝手に項目の使われ方を憶測しかねないと主張する。
しかし、開示した「平成17年度埼玉県公立小・中学校等教員採用選考試験第2次選考方針」(以下「選考試験第2次選考方針」という。)の「2 選考基準及び方法」の(4)で選考するための資料は示されているものであり、当該一覧表の「項目名」を開示しないのであれば、むしろ、逆に「選考試験第2次選考方針」に示された資料以外のことも参考にされるのではないかとの疑念が生じるだけである。「選考試験第2次選考方針」に示された選考基準及び方法に基づいて選考をしているのであれば、当該一覧表の「項目名」に挙げられているものは、論文・実技の試験科目や面接等の評点、出願の際に受験者が記載した内容及び提出した書類の範囲の中で一覧表に整理して表記できるものでしかありえない。当該一覧表において、(一)「項目名」として挙げられているものが、それぞれ選考作業において具体的にどの程度選考に加味されるものであるのか、(二)「項目名」に挙げられていなければ選考に加味されないか、また、(三)各項目の選考対象者の各記入欄にどのような記載がなされるのか、などについては当該一覧表を見ただけでは直ちには分からないものである。
さらに、表枠についても各記入欄の作り方(形状等)から受験者にその意味を推定されると実施機関は主張するが、当該一覧表を見分したところ、それはせいぜい受験者がどのように使用するものか疑問を抱く程度のものである。そもそも最終的な合否の選考作業において選考するための資料がどのように用いられるかという具体的な選考過程は公にしないのであるから、受験者は各記入欄の意味を推定しようがない。
したがって、実施機関の主張は、当該対象文書である一覧表の「項目名」及び表枠を開示することにより教員採用選考試験の実施に関して事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす選考に支障が生じると判断し得るまでの根拠とは認められない。
(3) 「2次試験における16領域のそれぞれの領域の実数」について
- ア 対象文書について
「第2次試験における16領域」とは、「選考試験第2次選考方針」の「2 選考基準及び方法」で示されているものである。最終的な合否の選考のために、選考対象者(受験者)を論文・実技試験の得点と面接試験による評定をそれぞれ4段階に分割し、その相関により選考対象者を分割してランク付けをする16段階の領域である。
実施機関の説明では、各選考の区分ごとに選考対象者は16領域のランク付けをされているが、異議申立人が開示を求める「それぞれの領域の実数」は数えていない。そのため、各選考対象者それぞれについて16領域のランク付けした記載全部が請求対象であるとし、各選考対象者のランク付けが記されている上記(2)と同一の「2次試験の結果を転記する得点一覧表」を対象文書と特定したとのことである。
実施機関が請求対象としたものは、厳密には「実数」ではないが、選考対象者全員に付された16領域のランク付けの数値をランクごとにすべてを数えることにより、請求内容が満たされることになることから、対象文書を「不存在」とはせず、「2次試験の結果を転記する得点一覧表」を対象文書としたことは適切であったと認められる。しかし、公文書不開示決定通知書における「開示しない公文書の名称」として「2次試験における16領域のそれぞれの領域の実数」との記載は、その記載が「公文書の名称」とは認められないため、不適当である。
- イ 条例第10条第5号該当性について
「第2次試験における16領域」のランクについては、「選考試験第2次選考方針」の「2 選考基準及び方法」の(1)に示されているとおり、最終的な合否の選考のために、選考対象者を論文・実技試験の得点と面接試験による評定の相関による16領域のランクに分割するものである。
最終的な合否の選考は、「選考試験第2次選考方針」の「2 選考基準及び方法」の(4)で示されている資料を参考にして、ランクの順に選考を行うこととしているのであって、各選考対象者の16領域のランク付けが直ちに最終合格になるわけではないことは明らかである。
実施機関は、合格可能な領域に属していると判断した受験者が不合格になる場合や、また、その逆の場合も生じるため、その理由を説明するためには、他のすべての個人情報を開示しなければならなくなると主張するが、「16領域のそれぞれの領域の実数」を開示することが個々の選考対象者(受験者)のランク付けに直ちに結びつくものではない。したがって、当該対象文書における選考対象者全員の16領域のランクの記載を開示することにより、個々の受験者の合否の理由を説明するために他のすべての個人情報を開示しなければならなくなるような事態は想定できず、その他、当該対象文書の選考対象者全員に付された16領域のランク付けの数値を開示することにより教員採用選考試験の実施に関して事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすと判断し得るまでの具体的な根拠は認められない。
以上のことから、「1審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
城口美恵子、田村泰俊、山口道昭
審議の経過
年月日
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内容
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平成17年11月22日
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諮問を受ける(諮問第112号)
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平成17年12月26日
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実施機関より開示決定等理由説明書を受理
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平成18年2月6日
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異議申立人より反論書を受理
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平成18年5月10日
(第三部会第14回審査会)
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実施機関より意見聴取及び審議
異議申立人より口頭意見陳述及び審議
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平成18年6月7日
(第三部会第15回審査会)
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審議
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平成18年7月25日
(第三部会第16回審査会)
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審議
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平成18年9月7日
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答申
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別添
情報公開請求項目
- 臨時教職員に関わって
非常勤(県費負担)の事務所ごとの実数(5月1日付け文部科学省の基本調査で報告してあるはず。)
- 平成17年度埼玉県公立小学校・中学校等教員採用選考試験に関わって
(以下、すべて平成17年度の採用選考試験に関わって)
- 第2次選考方針
- 第2次試験におけるすべての要項【論文試験要項、面接試験要項(○個人面接 ○場面指導 ○集団面接)、実技試験(○音楽1 ○音楽2 ○体育1水泳 ○体育2鉄棒等中学校教員のすべての教科ならびに養護教員の実技も)】
- 第2次試験のすべての問題
例:論文の課題、すべての面接における発問(問い)あるいは質問例、場面指導における資料
すべて、中学国語の1教材作りの課題、2模擬授業の課題等すべての教科のもの、養護教員のもの。
- 1次試験の結果を転記する得点一覧表
(個人のものが記載されていない用紙そのもの。「開示しない」場合は「かかる事務に多大な影響」とか「教育行政の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」等の一般論ではなく、具体的にどういう「影響」であり、どういう「おそれ」なのかを明らかにすること。)
- 2次試験の結果を転記する得点一覧表
(個人のものが記載されていない用紙そのもの)
- 一次試験あるいは二次試験における当日使用された監督者あるいは試験管が持つマニュアルのような文書すべて。
- 2次試験における16領域のそれぞれの領域の実数。
- 特別選考(経験者特別選考ならびにスポーツ・芸術特別選考)のそれぞれの受験者数ならびに合格者数。