答申第104号 「平成11年11月14日越谷警察署内で発生した「乱闘」事件に関して埼玉県警察本部監察官室が行った調査及び処分に関する一切の文書」の不開示決定(平成19年1月31日)
答申第104号(諮問第123号)
答申
1 審査会の結論
埼玉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成17年12月8日付けで行った、「平成11年11月14日越谷警察署内で発生した「乱闘」事件に関して、埼玉県警察本部監察官室が行った調査及び処分に関する一切の文書」(以下「本件文書」という。)についての不開示決定は、妥当である。
2 審査請求及び審査の経緯
(1)本件審査請求に至るまでの経緯
- ア 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成15年5月7日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、本件文書の開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。
- イ これに対して、実施機関は、平成15年5月23日付けで、条例第13条の規定に基づき、本件文書については、その存否を答えること自体が個人の権利利益を侵害することとなり、条例第10条第1号に該当するとして不開示決定を行い、請求人に通知した。
- ウ 請求人は、平成15年7月22日付けの審査請求書により実施機関の上級庁である埼玉県公安委員会(以下「審査庁」という。)に対し、前記イの不開示決定の取り消しを求める審査請求を行い、審査庁は、平成15年10月22日付けで当審査会へ諮問を行った。
- エ 当審査会は、平成17年10月19日に審査庁へ答申を行い、審査庁は、平成17年12月7日に、前記イの不開示決定を取り消す裁決を行った。
- オ 実施機関は、平成17年12月8日付けで、条例第14条第2項の規定に基づき、本件文書が開示請求時点において既に廃棄されており、開示請求時保有していなかったとして不開示決定を行い、請求人に通知した。
(2)本件審査の経緯
- ア 請求人は、平成18年2月6日付けの審査請求書により、審査庁に対し、前記(1)オの不開示決定を取り消し、本件文書の開示を求める審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。
- イ 当審査会は、本件審査請求について、平成18年4月26日付けで審査庁から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。
- ウ 当審査会の本件審査に際し、審査庁から平成18年6月28日付けで開示決定等理由説明書の提出を受け、請求人から平成18年7月29日付けで反論書の提出を受けた。
- エ 当審査会は、平成18年8月1日に、実施機関の意見を聴取した。
- オ 当審査会は、平成18年11月10日に、請求人及び代理人から意見を聴取した。
3 請求人の主張の要旨
請求人の主張は、おおむね次のとおりである。
(1)本件文書は開示請求時点において既に廃棄されていたとの不開示理由は、とうてい信用しがたい。実施機関は、これまで本件文書の存否を答えることが「個人の権利利益を侵害する」と繰返し主張してきたのである。文書が存在しその内容を理解しているからこそ実施機関はこのような主張ができたのである。
また、本件文書は、警察署の留置場内で発生した留置人と警察官との乱闘事件に関して埼玉県警察本部監察官室(以下「監察官室」という。)が行った調査及び処分に関する文書であって、処分から3年程度の短期間の間に廃棄されるような性質の文書とは思えない。
(2)実施機関は「本件開示請求は上記懲戒処分等の実施から3年2ヶ月後になされたものであるが、開示請求受付の段階において公文書を検索したところ、既に廃棄済みであることを確認したものである」と主張しているが、廃棄の法的根拠を明らかにし説明すべきである。
(3)実施機関は「保存期間満了後、担当職員により適正に廃棄されたものである」と主張しているが、以下のことについて説明すべきである。
- 保存期間の法的根拠について
- 廃棄の時期について
- 「適正」とはどのような手続か
- 「担当職員」について
4 実施機関の主張の要旨
本件審査請求に対する実施機関の主張は、おおむね次のとおりである。
(1)本件開示請求は、その内容を「平成11年11月14日越谷警察署内で発生した「乱闘」事件に関して、監察官室が行った調査及び処分に関する一切の文書」として、平成15年5月9日になされたものである。
本件開示請求に対して実施機関は、当初、「開示請求された公文書については、当該公文書の存否を答えること自体が個人の権利利益を侵害することとなり、条例第10条第1号に該当する不開示とすべき情報を開示することとなるので、存否を答えることはできません。」との理由で、平成15年5月23日に公文書不開示決定(存否応答拒否)を行った。
この処分に対しては審査請求が提起され、当審査会から平成17年10月19日に「原処分を取り消すべきである」との答申がなされたため、審査庁は、実施機関の処分を取り消す裁決を行った。
このため、実施機関は、平成17年12月8日、改めて本件開示請求に対する処分として「当該公文書は開示請求時点において既に廃棄されており、開示請求時保有していなかったため。」との理由で公文書不開示決定(公文書不存在)を行った。
(2)本件開示請求の内容にいう「乱闘」事件とは、平成11年11月14日に越谷警察署留置場内で発生した被留置者による公務執行妨害及び傷害被疑事件を指しているが、当該事件の発生により判明した留置場の不適正管理について、平成12年3月30日、職員に対する懲戒処分及び監督上の措置が実施された事案である。
本件開示請求は上記懲戒処分等の実施から3年2ヵ月後になされたものであるが、開示請求受付の段階において公文書を検索したところ、既に廃棄済であることを確認したものである。
請求人は審査請求書に、「処分庁はこれまで本件文書の存否を答えることが個人の権利利益を侵害すると繰り返し主張してきたのである。文書が存在しその内容を理解しているからこそ処分庁はこのような主張ができたのである。」と記載しており、前回の処分が文書の存在を前提として前回の処分が行われたと考えられていると推察するが、前回の処分は、「開示請求の内容自体が個人識別情報であり、この請求に対して公文書が存在しているか否かを答えるだけで不開示情報を開示することとなり、個人の権利利益を侵害する結果となる。」と判断したものであり、本件文書の存在と関係して行ったものではない。
このことは、前回処分の審査請求に関する審議の過程で審査会に提出した開示決定等理由説明書にも明記しており、請求人の主張は失当である。
(3)請求人は、本件文書は短期間に廃棄されるような性質の文書とは思えないと主張するが、公文書は、事務の性質、内容等により事後における当該文書利用の必要性を勘案し、保存しているものである。
本件審査請求に関して、懲戒処分に関係する文書についてみれば、根拠規定である地方公務員法(昭和25年法律第261号)においては、懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から2年を経過しない者については当該地方公共団体の職員となることができない旨の欠格条項を規定するとともに、懲戒等の不利益処分を受けた職員は、不服があるときは、人事委員会に対して審査請求を提起することができ、裁決を経た後になお不服があるときは、処分の取消訴訟を提起することができることを規定している。
このため、上記の期間内においては、関係文書を再度必要とする可能性があることから、保存の必要性が認められるが、期間が経過した後は保存の必要性がなくなるものである。
本件文書については、上記理由により、保存期間満了後、担当職員により適正に廃棄されたものである。
5 審査会の判断
(1)本件文書について
本件文書は、平成11年11月14日に越谷警察署内で発生した「乱闘」事件に関して、監察官室が行った調査及び処分に関する公文書である。なお、この「乱闘」事件に係る懲戒処分及び監督上の措置は、平成12年3月30日に実施されている。
(2)本件文書の不存在について
- ア 本件文書について
実施機関が「当該公文書は開示請求時点において既に廃棄されており、開示請求時保有していなかったため。」として不開示決定をしたことから、当審査会は、本件文書の廃棄について検討を行う。
- イ 本件文書の管理について
- (ア)実施機関の文書管理は、埼玉県警察文書管理規程(以下「現行規程」という。)によって行われているところ、同規程は、平成14年7月に定められている。実施機関は、「条例の実施機関」に係る部分の施行向けて、公文書の適正な管理に資するため、検索性の向上及び保存、管理及び廃棄の的確化を目的として、文書管理関係規程の改正を図るとともに、ファイリングシステム及び電算システムによる文書管理の導入に着手し、平成13年1月から検索資料の作成及び公文書の分類整理を始め、平成13年10月1日に情報公開制度の運用を開始し、これに伴い、平成14年7月に、これまでの埼玉県警察文書規程を全部改正し、現行規程を定めた。
なお、条例の附則によれば、公安委員会及び警察本部長が保有している公文書については、「一 平成13年1月1日以後に作成し、又は取得した公文書 二 平成13年1月1日前に作成し、又は取得した公文書で、これを検索するための資料が作成されたもの」について条例を適用するとされた。
- (イ)これにより、平成13年1月1日以後に作成され、又は取得した公文書については、文書の廃棄を含めて記録するファイル基準表を作成し管理を行い、平成13年1月1日より前に作成し、又は取得した公文書については、条例の附則第2号第1項の対象外であることからファイル基準表の作成は行わなかったが,現行規程の附則が「この訓令の規定は、この訓令施行日前に職員が作成し、又は取得した文書等について適用する。」と規定していることから、現行規程に基づき管理が行われ、原則として警察本部の各所属及び警察署において文書引継台帳に記載の上、警察本部文書課が管理する警察本部書庫等にて保存を行い、前年若しくは現年に作成・取得した文書のほか、常時使用する必要がある文書等については、所属の事務室において保管することとなっていた(現行規程第37条)。
監察官室においては、懲戒処分に関係する公文書は、職員の不利益にわたる情報が記載されていることから、多数の職員が出入りする警察本部書庫において保存することは不適当であるとして、警察本部文書課に引き継がず、同室の事務室において廃棄に至るまで保管を行い、保存期間を経過した後に同室において廃棄を行っていたが、同室においては、文書引継台帳のような文書保管に関する帳簿等による文書管理を行っていなかった。
- (ウ)以上の次第であるから、平成13年1月1日前に作成された本件文書は、現行規程に基づくファイル基準表による管理は行われていない。また、警察本部書庫に保存するための文書引継台帳に記載がない上、監察官室において本件文書の保存期間及び廃棄年月を記録したものも存在しないことが認められた。
- ウ 本件文書の廃棄について
- (ア)保存期間について
実施機関は、公文書を事務の性質、内容及び必要性から保存しており、懲戒処分に関係する文書についてみれば、当該文書を再度利用する可能性を勘案し、現行規程第41条第1項及び第2項の規定に基づき、所属長(監察官室長)が3年の保存期間が必要と認めるものとして保存していた。この理由については、次のとおりである。
地方公務員法において、懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から2年を経過しない者については当該地方公共団体の職員となることができない旨の欠格条項を規定している。
1と同様の地方公務員法において、懲戒等の不利益処分に不服があるときは、処分のあったことを知った日の翌日から起算して60日以内又は処分の日の翌日から起算して1年を経過していない場合に人事委員会に対して審査請求をすることができると規定している。
行政事件訴訟法において、審査請求の裁決を受けた後に、当該審査請求に対する裁決があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内又はこの裁決の日の翌日から起算して1年を経過していない場合に処分の取消しの訴えを提起することができると規定している。
上記のことから、実施機関が本件文書を再度利用する可能性から3年保存としていたことについては、不合理であるとはいえない。
- (イ)廃棄時期について
次に、廃棄の時期について、実施機関によれば、本件文書を保有していた監察官室では、現行規程第46条「所属長又は文書等の保存責任者は、文書等の保存期間が満了したときには、当該文書等の内容又は媒体に応じた方法により、これを廃棄するものとする」との規定に基づき廃棄を行うこととしており、監察官室において保管していた文書については、保存期間が満了し次第直ちに、統括課長補佐が次席を通じて監察官室長の了承を得た上で、統括課長補佐が部下職員に対して当該文書の廃棄を命じ、当該職員が事務室内の裁断機を使用して文書を廃棄処分した。そして、統括課長補佐が確認ののち廃棄した旨を口頭により次席を通じて監察官室長に報告していたところ、本件文書についても、保存期間が満了した平成15年3月30日以降速やかに廃棄することとなり、監察第一係の職員が廃棄を行ったものであるが、同年4月は、年度文書の整理時期と重なっていたことから、これらの文書の廃棄とともに、4月中に廃棄が行われたことは間違いないが、どの職員が本件文書を廃棄したかまでは特定に至らなかったとのことであった。
以上の次第であるから、本件文書の廃棄がいつ行われたかについて記録された文書が存在しないため、廃棄時期を確認することは困難であり、正確に判断することは難しい。しかし、前記ウ(ア)から本件文書を3年の保存期間としていたことが認められる上、平成13年3月に監察官室が作成した本件文書と同種の懲戒処分に関する公文書が平成13年ファイル基準表に保存期間3年及び平成16年4月廃棄と記載されていたことから、本件文書が3年の保存期間を満了した平成15年3月30日の翌月である平成15年4月に廃棄されたことは、優に推認することができる。
請求人は本件文書が処分から3年程度の短期間の間に廃棄されるような性質の文書とは思えないと主張しているが、以上によれば、請求人が本件開示請求を行った平成15年5月7日において、「当該公文書は開示請求時点において既に廃棄されており、開示請求時保有していなかったため」とする実施機関の主張は、不合理であるとはいえない。
なお、当審査会が本件文書の廃棄について実施機関に確認したところ、本件文書は現行規程に基づき通常の廃棄を行う場合と同じように保存期間が満了した翌月に機械的に廃棄を行ったとのことであった。当審査会は、本件文書に現行規程43条第2項による必要的保存期間の延長事由の存在は認められないとしても、本件処分の原由となった事件について訴訟が提起されているなどの事情が存したのであり、今後、実施機関が公文書の保存・廃棄をより一層慎重に取り扱うよう配慮を求めるものである。
(3)条例第14条第2項該当性について
- ア 条例第14条第2項によれば、「実施機関は、開示請求に係る公文書の全部を開示しないとき(前条の規定により開示請求を拒否するとき及び開示請求に係る公文書を保有していないときを含む。)は、開示をしない旨の決定をし、開示請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。」と規定されている。
- イ したがって、上記(2)及び前記アから、本件開示請求のあった平成15年5月7日の時点において、実施機関が本件文書を保有していないことが認められるため、条例第14条第2項に該当するとして、実施機関が決定した不開示の判断は、是認できる。
よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
白鳥敏男、野村武司、渡辺咲子
審議の経過
年月日
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内容
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平成18年4月26日
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諮問の受理(諮問第123号)
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平成18年6月28日
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審査庁から開示決定等理由説明書を収受
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平成18年7月11日
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審議(第13回第二部会)
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平成18年7月31日
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審査請求人から反論書を収受
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平成18年8月1日
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実施機関の職員からの意見聴取及び審議
(第14回第二部会)
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平成18年9月7日
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審議(第15回第二部会)
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平成18年10月10日
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審議(第16回第二部会)
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平成18年11月10日
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審査請求人及び代理人からの意見聴取及び審議
(第17回第二部会)
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平成18年12月19日
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審議(第18回第二部会)
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平成19年1月26日
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審議(第20回第二部会)
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平成19年1月31日
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答申(答申第104号)
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