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掲載日:2024年3月26日

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答申第12号 「平成7年度県立高等学校教職員事故報告(平成7年11月16日付け教高第3710号)」外1件の部分公開決定(平成15年1月16日)

答申第12号(諮問第9号)

答申

1 審査会の結論

次の文書について、埼玉県総務部公文書センター所長(以下「所長」という。)が部分公開とした決定は、妥当である。

(1) 「平成7年度県立高等学校教職員事故報告(平成7年11月16日付け教高第3710号)」(以下「本件文書1」という。)

(2) 「平成7年度県立高等学校教職員事故報告(平成7年12月22日付け教高第3713号)」(以下「本件文書2」という。)

2 審査請求及び審査の経緯

(1) 本件不服申立人(以下「申立人」という。)は、平成8年1月9日、埼玉県行政情報公開条例(昭和57年埼玉県条例第67号。以下「旧条例」という。)第5条第1項の規定に基づき、所長に対し「体罰報告書1995年6月29日から12月31日収受分(市町村教育課・高等学校教育課)」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

(2) 所長は、本件請求に対する行政情報を本件文書1及び本件文書2と特定した上で、平成8年2月22日付けで部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、申立人に通知した。
なお、公開しない行政情報及びその理由は、次のとおりである。

  • ア 公開しない行政情報
    1. 本件文書1について
      • 教諭の氏名、年齢及び性別
      • 学校名、当該校長の氏名及び印影
      • 生徒の氏名、年齢及び性別
      • 保護者の氏名、年齢及び住所
      • その他個人を特定し得る部分(文書記号、期日情報(事故発生日等))
    2. 本件文書2について
      •  教諭の氏名、年齢及び性別
      •  学校名、当該校長の氏名及び印影
      •  生徒の氏名、性別及び年齢
      •  保護者の氏名及び住所
      •  その他個人を特定し得る部分(文書記号、期日情報(事故発生日等))
  • イ 公開しない理由
    個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るものであり、旧条例第6条第1項第1号に該当するため。

(3) 申立人は、平成8年3月8日付けの審査請求書により、埼玉県教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、部分公開決定により公開しない行政情報とされた部分のうち、「学校名」について公開すべきであるとして、不服申立てを行った。

(4) 当審査会は、本件不服申立てについて平成13年9月11日付けで実施機関から埼玉県情報公開条例(平成12年埼玉県条例第77号。以下「新条例」という。)第22条の規定に基づく諮問を受けた。

(5) 当審査会の本件審査に対し、実施機関から平成14年2月13日付けの開示決定等理由説明書の提出を受けたが、申立人から実施機関の当該説明書に対する反論書の提出は受けていない。

(6) 当審査会は、平成14年7月18日に、実施機関の事務局である教育局の職員から事情聴取を行った。
なお、申立人は、当審査会に対する口頭による意見の陳述を求めていない。

3 申立人の主張の要旨

申立人は、公開しない行政情報とされた情報のうち、「学校名」について公開するよう求めるとともに、本件決定には非公開理由付記義務懈怠の瑕疵があるため、所長がなした本件決定は旧条例の理念と解釈を誤った違法・不当なものであり、本件決定は取り消されるべきであると主張している。
なお、申立人は、本件と同時期に諮問された職員の事故に関する報告書の部分公開決定に関する別の不服申立てにおいて反論書を提出し、同様の主張を行っているが、その要旨を引用すれば次のとおりである。

1 実施機関は、「学校名」の非公開理由につき、「個人識別情報」に該当するとしているが、「学校名」を個人識別情報に該当するかどうかで公開・非公開を判断することには大きな疑義があり、そのような判断は極めて安易なものといえる。また、基本的に「学校名」を明らかにして公開されなければ、県民の知る権利を保障することにならない。

2 行政機関の責任者(本件の場合学校長)によって作成された公文書は、原則的に作成者名を明らかにした形で公開されるべきである。公開された公文書が自治体のどの機関で作成・保有されているのかが分からなくては、記載内容の責任の所在が不明確で「不安定」になり、当該公文書の記載内容そのものの信憑性が疑われかねず、ひいては行政事務内容に対する県民の不信感を生みかねない。

3 「説明責任」の観点からも、原則的に「学校名」を公開しなければならない。学校教育の現状において、父母等関係者に対する説明責任は、第一義的には学校長にある。体罰という人権侵害事件についても、加害教員・被害生徒のプライバシーの保護を前提に、その発生原因と再発防止策を含め、学校長が説明すべきものである。

4 体罰報告書の「学校名」が被害生徒のプライバシー保護などを名目として秘匿・隠蔽されれば、体罰教員及び監督責任者としての校長は、体罰行為自体が保護されたと思いこみ、体罰に対する反省意識や責任意識が希薄になるおそれがある。
逆に、情報公開制度に基づき「学校名」が公開されてしまうと知れば、体罰教員や学校長は責任の重さをより強く自覚し、体罰横行に対する抑止的な効果を生むと考えられる。

5 たとえ「学校名」が公開されても、体罰被害を受けた児童生徒の特定可能性は相対的に高まるとはいえ、「識別され得る」とまではいえない。従って、「学校名」の公開が直ちに被害生徒のプライバシー侵害につながらない。

6 親や県民は、学校教育全般よりも個別の学校の実態に関心があり、この点からも、学校情報の公開の際には「学校名」の公開を伴わなくては、公開の意味が半減してしまう。

7 体罰報告書などの事件・事故報告書の「学校名」が公開されることによって、校長や教職員は、親・県民・教育委員会に対して一層の「緊張した気持ち」を持つようになる。また、親や県民の側にとっても、「学校名」が公開された形で事件・事故報告書を入手できれば、事実関係の正確性についてチェックすることが容易になり、事故後の学校側の対応・指導についても、それが適正かつ適切に行われたのかどうかについて意見することが容易になる。従って、報告書の「学校名」が公開されることによって、報告内容がより正確となり、事件・事故の再発防止に確実につながっていくはずである。

4 実施機関の主張の要旨

本件不服申立てに対する実施機関の主張の要旨は、次のとおりである。

(1) 旧条例第6条第1項第1号の該当性について

  1. 旧条例第6条第1項第1号に規定する「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得る」とは、当該情報から直接識別できる場合のほか、当該情報のみでは識別できないが、他の情報と組み合わせることにより特定の個人が識別され、又は識別され得る場合を含むものであるとともに、一般の人にとっては識別できないが、一定の知識・経験を有する者であれば特定の個人を識別することができる場合を含むものである。
  2. 「学校名」を公開すると、当該体罰事故の発生した学校の生徒や教師など一定の者は、当該教諭や被害生徒を識別することができ、旧条例第6条第1項第1号に該当する。

(2) 非公開理由付記義務懈怠の瑕疵について

  1. 旧条例第10条第4項で、公開請求に係る行政情報を公開しないことと決定したときは、その理由を記載すべきであると規定しているのは、公開の可否について、実施機関の判断の公正妥当を確保としてその恣意を抑制するとともに、非公開理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えるためである。
    したがって、部分公開決定通知書等に付記すべき理由としては、公開請求者において旧条例6条第1項各号所定の非公開理由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならない。
  2. 本件決定通知書の「公開しない理由」欄には、非公開の根拠規定である旧条例第6条第1項第1号の規定をそのまま記載しているのみである。
    しかし、旧条例第6条第1項第1号の意義は一義的であることから、公開請求者においては、本件部分公開決定通知書の「公開しない行政情報」及び「公開しない理由」の各欄の記載だけで、旧条例第6条第1項第1号に該当することを、その根拠とともに了知し得るというべきであり、理由付記義務懈怠の違法はない。

(3) 体罰に係る事故報告書開示請求に対する現在の対応について

  1. 体罰に係る事故報告書の公開請求については、本件請求がなされた当時は、「学校名」を非公開とした処分を行っていたが、平成10年5月に、埼玉県情報公開監察委員から実施機関に対して「職員事故報告書の作者名が公開されないことは、公文書の責任性の観点から問題であると考えられるため、「学校名」が公開できるかどうかも含めて、職員事故報告書の公開・非公開についての基準の見直しを検討すべきである。」との意見書が提出された。
  2. この報告書を受け、公文書の責任性の観点から、学校事故報告書全般についての公開等基準のあり方について検討を行った結果、平成12年7月1日以降実施機関が収受する体罰に係る事故報告書については、原則として「学校名」を公開するよう基準を見直したところである。
  3. 以上のとおり、体罰事故については平成12年7月1日以降「学校名」を公開してきているところであるが、本件請求がなされた当時、条例上の判断に誤りは認められず、本件決定は適法である。

5 審査会の判断

(1) 答申するに当たっての適用条例について

新条例は平成13年4月1日に施行されたが、本件は旧条例に基づきなされた処分に対する不服申立てであるため、当審査会は、旧条例の規定に基づき本件不服申立ての検討を行う。

(2) 本件文書1及び2について

本件文書1及び2は、平成7年6月29日から同年12月31日の間に県立高等学校長から実施機関に提出された職員事故に関する報告書であり、その内容は、教師の生徒に対する暴力行為の記録が記載されたものである。

(3) 旧条例第6条第1項第1号の該当性について

本件決定で公開しない行政情報とされた情報のうち、申立人が公開を求めたのは「学校名」であり、当該情報については、旧条例第6条第1項第1号本文に該当しないと主張しているので、この点について検討する。
旧条例第6条第1項第1号本文では、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」については、原則として公開しないと規定している。
本号は、個人のプライバシーを最大限に保護するため、個人に関する情報の内容のいかんを問わず、特定の個人が識別され又識別され得る限りにおいて、当該情報を原則公開しないことができるとするものであるが、ここでいう「特定の個人が識別され、又は識別され得る」とは、当該情報から直接識別できる場合のほか、当該情報のみでは識別できないが、他の情報と組み合わせることにより特定の個人が識別され、又は識別され得る場合も含むものと解せられる。
実施機関は、「学校名」を公開すると、当該体罰事故報告の発生した学校の生徒や教師など一定の者は加害教諭や被害生徒などを識別することができるので、本号本文に該当すると主張している。
本件文書1及び2に記載されている情報のうち、被害生徒の学年、組などは既に申立人に公開されており、これらの情報に加え「学校名」が明らかにされると、加害教諭や被害生徒の氏名を識別することができるものであると考えられ、本号の「特定の個人が識別され、又は識別され得る」ものに該当する情報であるといえる。

(4) 非公開理由付記義務懈怠の瑕疵について

申立人は、本件決定には非公開理由付記義務懈怠の瑕疵があることから、取り消されるべきであると主張している。
旧条例第10条第4項では「実施機関は、公開請求に係る行政情報を公開しないことと決定したときは、その理由を記載した書面により、前項の通知をしなければならない。この場合において、公開しないことと決定した行政情報が一定の期間の経過により第6条第1項に規定する行政情報に該当しなくなることが明らかであるときは、併せてその該当しなくなる時期を記載しなければならない。」と規定している。この規定の趣旨は、公開等の決定について、慎重かつ合理的な判断を確保するとともに、非公開決定等が争訟の対象となる不利益な処分であることから、処分の内容を明確にし、それを請求者に知らせて争訟の便宜を図るためのものである。
具体的には、請求者がその通知だけから了知し得る程度、すなわち、非公開とされた情報が旧条例第6条第1項各号のどれに該当するのか、また、なぜ当該非公開条項に該当するのかを知ることができる程度に記載されていることが必要である。そこで本件決定についてみると、旧条例第6条第1項第1号に該当する理由として記載している内容は、当該条文とほとんど同じであるが、本件決定が部分公開決定であり、公開しない行政情報が個別具体的に記載されていること及び本件文書1及び2が事故報告(体罰)に関するものであり、公開された情報から公開しない部分にどのような情報が記載されているかを概ね推定することができることから判断すれば、このような概括的な記載であっても、請求者は各非公開情報がなぜ旧条例第6条第1項第1号に該当するかを了知し得ると考えられ、本件決定を取り消さなければならない程度に理由付記の不備があるとまではいえない。

以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

審議の経過

年月日

内容

平成13年9月11日

諮問を受ける(諮問第9号)

平成14年2月14日

実施機関より開示決定等理由説明書を受理

平成14年6月24日

審議

平成14年7月18日(第14回審査会)

実施機関より意見聴取及び審議

平成14年8月2日(第15回審査会)

審議

平成14年9月2日(第16回審査会)

審議

平成14年10月4日(第17回審査会)

審議

平成14年11月11日(第18回審査会)

審議

平成14年12月19日(第19回審査会)

審議

平成15年1月16日

実施機関に答申

タイトル:埼玉県情報公開審査会委員名簿(平成15年1月16日現在)

氏名

現職

備考

礒野 弥生

東京経済大学教授

 

遠藤 順子

弁護士

会長職務代理者

大森 彌

千葉大学教授

会長

田村 泰俊

東京国際大学教授

 

馬橋 隆紀

弁護士

 

(五十音順)

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