答申第120号 「特定共同住宅建築計画の確認処分に関連して、(1)特定法人から受けた文書(2)建築主から受けた文書(3)建築主に宛てた文書(4)国土交通省に宛てた文書」の部分開示決定(平成19年11月5日)
答申第120号(諮問第127号)
答申
1 審査会の結論
埼玉県知事(以下「実施機関」という。)が平成18年7月13日付けで行った、「特定共同住宅建築計画の確認処分に関連して、1特定法人から受けた文書、2建築主から受けた文書、3建築主に宛てた文書、4国土交通省に宛てた文書(ただし、位置図、配置図以外の建物の図面、写真、印影、構造計算書を除く)」(以下「本件対象文書」という。)を部分開示とした決定について、実施機関がなお不開示とすべきとしている部分のうち異議申立人が開示すべきとする特定指定確認検査機関の印影は開示とすることが妥当である。
2 異議申立て及び審議の経緯
(1) 異議申立人は、平成18年6月9日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、「特定共同住宅建築計画の確認処分に関連して、1特定法人から受けた文書、2建築主から受けた文書、3建築主に宛てた文書、4国土交通省に宛てた文書(ただし、位置図、配置図以外の建物の図面、写真、印影、構造計算書を除く)」の開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。
(2) 実施機関は、本件開示請求について、本件対象文書を特定し、次のアからウまでに掲げる情報はそれぞれに掲げる条項に該当するため不開示とし、その余の情報は開示とする部分開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、平成18年7月13日付け公文書部分開示決定通知書により、異議申立人に通知した。
- ア 氏名、職名、住所、電話番号、Eメールアドレス、印影及び構造設計士の発言
条例第10条第1号に該当するため。
- イ 法人の代表者の印影及び平面図
条例第10条第2号に該当するため。
- ウ 報告書(平成18年3月6日)の構造計算の不明点
条例第10条第5号に該当するため。
(3) 異議申立人は、平成18年10月12日付けの異議申立書により、実施機関に対し、本件処分について、その取消しを求めるとの異議申立てを行った。
(4) 当審査会は、当該異議申立てについて、平成18年11月21日に実施機関から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。
(5) 当審査会は、本件審査に際し、実施機関から、平成18年12月7日に開示決定等理由説明書の提出を、平成19年2月5日に補充の理由説明書の提出を受けた。また、同年1月11日に実施機関の職員から意見聴取を行った。
(6) 当審査会は、本件審査に際し、異議申立人から、平成19年1月9日に反論書の提出を、並びに同年1月26日及び2月19日にその追加資料の提出を受けた。また、同年1月26日に異議申立人の口頭意見陳述を行った。
(7) 実施機関は、平成19年6月19日付けで本件処分において開示しないとした情報のうちの一部を新たに開示することとする変更決定を行い、当審査会は、実施機関から、同年7月3日に補充の理由説明書(一部変更決定について)の提出を受けた。
(8) 当審査会は、異議申立人から、平成19年7月26日に意見書の提出を、及び同年9月28日にその追加資料の提出を受けた。
3 異議申立人の主張の要旨
異議申立人が主張している内容は、おおむね次のとおりである。
(1) 異議申立書及び反論書
- ア 本件マンションの確認検査を行った特定法人は、建築基準法に基づく指定確認検査機関として特定行政庁の確認検査業務を代行していた。指定確認検査機関による確認事務も、特定行政庁の建築主事による確認事務の場合と同様、地方公共団体の事務とされている(平成17年6月24日最高裁判所第二小法廷決定)。つまり、本件マンションの確認検査の事務は埼玉県の事務であり、埼玉県には、確認検査が適正かつ公正に実施されているかどうか県民に対して十分説明する義務がある。
- イ 指定確認検査機関から特定行政庁に報告される確認検査に関する情報は、条例第10条第1号ただし書ロ及び同条第2号ただし書に該当することが考えられる。
指定確認検査機関の確認検査員の氏名について、東京都情報公開審査会は、「確認済証を交付した旨の報告書一式」の一部開示決定に対する異議申立てについて開示すべき旨答申した(平成18年7月25日付け答申第344号)。この答申において、実際に確認検査を担当した確認検査員の役割の大きさ、近時の指定確認検査機関による建築確認に対する社会全般の関心の高さに鑑み、建築確認がどの確認検査員により行われたか公にすることは、人の生命、健康、生活又は財産上の利益を保護するため、公益上必要と認められると判断された。また、他の自治体においても、確認検査員の氏名を開示すべきとの判断を示している。
- ウ 実施機関は、本件対象文書に記載された指定確認検査機関の確認検査員の氏名を条例第10条第1号に該当するとして不開示としたが、当該確認検査員は、特定行政庁の建築主事と同じ建築基準判定資格者であり、「みなし公務員」である。建築主事の氏名は公開されており、確認検査員の氏名も公開されるべきである。
- エ 「埼玉県中高層建築物の建築に係る指導等に関する要綱」等では、建築計画の事前公開を義務付け、建築主等の情報を記載した標識を、事前に工事予定地に設置しなければならないとしている。建築基準法第89条では、建築等の工事の施工者は、当該工事現場に、建築主、設計者、工事施工者及び工事の現場管理者の氏名等を表示しなければならないとし、同法第93条の2では、特定行政庁(本件では埼玉県知事)は「建築計画概要書」等の閲覧の請求があった場合には閲覧させなければならないとし、誰でも特定行政庁に請求すれば、建築主、設計者、施工者等の情報を得ることができる制度として運用されている。建設業法第40条では、建設業者は、その店舗及び建設工事の現場ごとに、公衆の見やすい場所に、建設業の名称等が記載された標識を掲げなければならないとし、建設工事の現場の標識には、工事監理者の氏名等が記載されている。以上のとおり、建築計画に関わる者(建築主、設計者、工事施工者、工事監理者、構造設計者など)の情報は、その公益性の高さから、個人に関する情報であっても公にされるべきものとして扱われていることとの対比から、「確認検査員の氏名」も公開されるべきものと考える。
- オ 実施機関は、本件対象文書に記載された構造設計士の発言を条例第10条第1号に該当するとして不開示としたが、構造設計士の発言は、事業を営む個人の当該事業に関する情報であり、個人に関する情報に当たらない。仮に同号に該当する場合でも、構造計算の不明点に関する情報は、人の生命、健康、生活又は財産上の利益を保護するため、公にすることが公益上必要であり、同号ただし書ロに該当する。
- カ 実施機関は、本件対象文書に記載された法人の情報を条例第10条第2号に該当するとして不開示としたが、法人等(本件対象文書では、宅地建物取引業者、建築士事務所、建設業者)の情報のすべてが、公にすることにより、その事業活動を害することになるわけではない。また、建築計画に関わる法人等の情報には、人の生命、健康、生活又は財産上の利益を保護するため公にすることが公益上必要であり、同号ただし書に該当するものもある。
- キ 本件マンション等のホームページでは、構造計算に不明点があることが明らかになっている。また、衆議院国土交通委員会における、これらの建築計画に関する質疑で、未完の構造計算書を提出後差し替えるという法律に違反する行為があったことが明らかにされている。
- ク 開示された文書には、あまりにも黒塗り部分が多い。本件処分の「開示しない部分」について、再度ご判断いただきたい。
(2)意見書
本件処分において不開示とされた多くの情報が、平成19年6月19日付けの一部変更決定により開示されたが、実施機関がなお不開示を維持するとした情報について、次のとおり意見を述べる。
- ア 実施機関は、例えば、特定法人が平成18年4月20日付けで埼玉県飯能県土整備事務所に宛てた報告書を開示する際に、報告した者の氏名を不開示としている。施工者の責任として埼玉県に報告書を提出した者の氏名を秘諾する利益・必要性はない。なお、建設業法第13条の規定により、建設業者の情報は公衆の閲覧にも供されている。
- イ 中間検査業務処理シートの工事監理者として立ち会った者の氏名を不開示としているが、本件マンションは、建築士法の規定により、一級建築士でないと設計・監理の業務を担当することはできない。また、中間検査に立ち会うことは、特定設計事務所にとって最も責任のある業務の1つであり、一級建築士資格を持つ者が一級建築士としての責任で立ち会ったはずである。責任の所在を明確にしておくために、中間検査に立ち会った者の氏名は開示されるべきである。(国土交通省の監理技術者制度運用マニュアルも、責任の所在を明確にするために策定されたものと考えられる。)
- ウ 建築工事施工結果報告書の構造設計者の氏名を不開示としているが、上記イで述べたように、本件マンションは、建築士法の規定により、一級建築士でないと設計・監理の業務を担当することができない。責任の所在を明確にしておくために、構造設計を行った者の氏名は開示されるべきである。
また、改正建築士法(平成18年6月14日成立、同月21日公布、平成19年6月20日施行)の規定により、建築士事務所の所属建築士の氏名は都道府県において閲覧に供しており、中間検査に立ち会った者の氏名、構造設計を行った者の氏名は開示すべき情報と考えられる。なお、建築士、建築士事務所及び指定確認検査機関の情報開示の徹底は、本件開示決定の時点で,既に予定されていたものである。
- エ 鉄筋及びコンクリート工事における施工管理状況報告に試験機関の検査者として記載された者の氏名について、最高裁判所平成10年(行ヒ)第54号公文書非公開決定処分取消請求事件平成15年11月11日判決では、「個人に関する情報」の解釈として、(b)法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。)の代表者若しくはこれに準ずる地位にある者が当該法人等の職務として行う行為に関する情報又はその他の者が権限に基づいて当該法人等のために行う契約の締結等に関する情報その他の法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報は、「個人に関する情報」に当たらない等と判示し、また、三重県情報公開審査会答申第271号(平成19年5月11日)では、法人等の代表者が職務として行う行為など当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については、個人に関する情報ではなく法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報の該当性を検討すべきであり、「試験機関内部で責任ある立場にある者が、その試験に関し試験機関を代表して当該試験機関の職務として行う行為に関する情報についても、同様である」として、試験結果報告書に試験者又は整理担当者として記載された者の氏名を開示すべきと判断している。このことから、当該検査者の氏名は開示すべきである。また、上記ア~ウで述べた氏名についても、法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報と考えられるため、条例第10条第1号でなく、同条第2号の該当性を検討すべきである。
- オ 指定確認検査機関の代表者の印影については、行政庁の長と同視すべきものであり、行政庁の長の印影が開示されていることとの対比から考えると開示されるべきであると考えられる。(特に、本件の指定確認検査機関の場合、本件開示請求の時点ですでに廃業していたため、代表者の印影が営業上守るべき秘密に該当することもない。)
- カ 確認申請書、中間検査申請書、中間検査業務処理シートなどの決裁欄にある確認検査員の印影を不開示としているが、確認検査員の職務は公務員の職務と同視すべきものであり、公務員の職務による印影が開示されていることとの対比から考えて、確認検査員の印影は開示されるべきと考えられる。また、印影を不開示とする場合でも偽造を抑止するという目的であれば印影を部分的に黒塗りすれば十分であり、どの確認検査員が決裁したかわかる程度の黒塗りにすべきである。
以上のように、実施機関が、本件一部変更決定でなお不開示を維持するとした情報について、貴審査会に判断いただきたい。
4 実施機関の主張の要旨
実施機関が主張している内容は、おおむね次のとおりである。
(1)開示決定等理由説明書
- ア 本件対象文書に係る建築物は、特定法人が建築基準法に基づく指定確認検査機関として確認処分を行った物件である。県は、当該法人から、当該確認処分の内容に疑義がある旨報告を受け、現在調査を行っている。
- イ 指定確認検査機関で確認検査を行う確認検査員の氏名は、建築基準法に基づく工事現場における確認の表示や建築基準法令による処分等の概要書など法令により公にすることが予定されている情報ではない。また、確認検査員は、情報公開条例上の公務員等でもなく、その氏名は公にすべきでない。
- ウ 構造設計士の発言について、構造計画の検討経過に関する情報を公にすることは、構造設計者の知的財産に当たる部分を公にすることとなり、財産権その他の個人の正当な利益を害すると考える。
- エ 本件対象文書に記載される法人情報について、本件建築物に関しては、建築基準法の違法部分等を検証作業中であり、関係人である建築主、設計者、工事施工者などの法人に対する今後の社会的評価に影響を与えるおそれがある。
- オ その他異議申立人は開示された文書は、黒塗り部分が多いと主張しているが、本件対象文書に関わる法人等については、現時点で、建築基準法の違法部分等を検証作業中であり当該違法部分等の検証結果に基づく関係人の処分が確定していない段階では、それら関係人に対する必要以上の風評被害が考えられる。その他の不開示部分は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものと考える。
(2)補充の理由説明書(不開示決定部分に係る見直しについて)
本件処分において不開示とした情報について再検討した結果、当該情報のうち、アに掲げるものは新たに開示できるが、イに掲げるものは不開示が妥当と考える。
- ア 開示できる情報
- (ア)個人の氏名のうち、指定確認検査機関である特定法人の確認検査員の氏名、工事現場責任者の氏名、設計会社等の取締役の氏名及び管理建築士の氏名
- (イ)構造設計士の発言
- (ウ)報告書(平成18年3月6日)の構造計算の不明点
- イ 開示できない情報
- (ア)法人の従業員の氏名、職名、住所、電話番号、Eメールアドレス、印影
個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもので、条例第10条第1号に該当するため。
- (イ)法人の代表者の印影
法人の対外活動において重要な意義を有するものであって、また特定の法人の取引内容に関する事項を開示することにより当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり、条例第10条第2号に該当するため。
- (ウ)平面図
設計者の技術及び知識に基づいて創作されたものであって、開示することにより設計者の正当な利益を害するおそれがあり、条例第10条第2号に該当するため。
(3)補充の理由説明書(一部変更決定について)
- ア 平成19年6月19日付けで、本件処分のうち、開示しないとした情報のうち「氏名」の一部、「職名」の一部、「住所」、「電話番号」、「Eメールアドレス」の一部、「構造設計士の発言」及び「報告書(平成18年3月6日)の構造計算の不明点」について新たに開示することとし、開示の実施をしたので、報告する。
- イ 当該一部変更決定により新たに開示した部分以外の部分については、上記(2)イの理由により、なお不開示を維持する。
5 審査会の判断
(1) 本件対象文書について
本件対象文書は、建築中の特定共同住宅に係る建築計画の確認処分に関連して、1実施機関が当該共同住宅の確認検査をした指定確認検査機関である特定法人から受けた文書(計10件)、2実施機関が当該共同住宅の建築主である特定法人から受けた文書(計3件)、3実施機関が当該共同住宅の建築主である特定法人に宛てた文書(計2件)及び4実施機関が国土交通省に宛てた文書(計10件)である。
実施機関は、当審査会への諮問後に、本件処分において不開示とした情報のうち「氏名」の一部、「職名」の一部、「住所」、「電話番号」、「Eメールアドレス」の一部、「構造設計士の発言」及び「報告書(平成18年3月6日)の構造計算の不明点」を新たに開示する一部変更決定を行った。
当該一部変更決定を受けて、当審査会は、異議申立人に対して、本件異議申立てに関してさらに付け加える意見がある場合には、意見書の提出をするよう求めたところ、上記3(2)のとおり、実施機関がなお不開示を維持するとした情報の一部について審査会の判断を求めるとの意見書が提出されたところである。
そこで、当審査会においては、当該意見書の内容に鑑み、異議申立てに係る部分が上記3(2)アからカまでに掲げる情報に限られたものと理解し、当該情報についての不開示情報該当性について、以下検討する。
(2) 不開示情報該当性について
実施機関は、本件処分等において、個人の氏名及び印影については条例第10条第1号に、法人の代表者の印影については同条第2号に該当するため、不開示とすることが妥当であるとしているので、当該該当性について以下検討する。
- ア 平成18年4月20日付け埼玉県飯能県土整備事務所あて「報告書」の報告者の氏名
本件対象文書を見分したところ、当該氏名は、当該報告書のほか、平成18年5月15日付け埼玉県都市整備部建築指導課担当者あてのFax送信御案内の発信元欄などにも記載があり、これらの内容から特定建設会社の東京事業開発部に属する従業員の氏名と認められる。
当該氏名は、条例第10条第1号本文の個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものに該当すると認められることから、同号ただし書イからハまでの該当性について検討する。
当該氏名について、実施機関に確認したところ、当該従業員は、当該特定建設会社の部長相当職に当たる者であり、取締役等の役員や支店長等支店を代表する職にある者ではなく、法令等により公にされ、又は公にすることが予定されているものではないとのことであり、また、実施機関の説明を覆す事情をうかがうことはできなかった。
よって、当該氏名は、条例第10条第1号ただし書イには該当せず、同号ただし書ロ又はハに該当すべきとする事情も認められないことから、当該氏名について不開示としたことは妥当である。
- イ 「中間検査業務処理シート」の工事監理者欄の氏名
当該文書を見分したところ、当該氏名は、特定指定確認検査機関が特定共同住宅に係る中間検査業務に関する事務を処理するために使用したと見られる「中間検査業務処理シート」の立会者欄中の工事監理者欄に記載されているものであり、特定共同住宅の設計、工事監理を担当する特定設計事務所の従業員のものと認められる。
当該氏名は、条例第10条第1号本文の個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものに該当すると認められることから、同号ただし書イからハまでの該当性について検討する。
異議申立人は、当該中間検査に立ち会った当該従業員は一級建築士の資格を有するはずであり、平成18年6月21日に公布され、平成19年6月20日に施行された改正建築士法により、建築士事務所に属する建築士の氏名は都道府県において閲覧に供することとなったこと、また、本件処分時においては、当該建築士法の改正は公布されており、建築士の氏名は公にすることが予定されている情報であることから、当該氏名は開示すべきである旨主張している。
異議申立人が述べていると考えられる建築士法第23条の9の規定を見ると、当該規定は、平成18年6月21日に公布され、主に平成19年6月20日に施行された「建築物の安全性の確保を図るための建築基準法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第92号。以下「改正法」という。)により、同日改正されている。この改正により、都道府県知事は、建築士事務所に係る登録簿のほか、新たに、1建築士法第23条の6の規定により提出された設計等の業務に関する報告書(当該事業年度における建築士事務所の業務の実績の概要、当該建築士事務所に属する建築士の氏名、当該建築士の当該事業年度における業務実績等が記載事項として定められている。)及び2建築士事務所に属する建築士の氏名並びにその者の一級建築士、二級建築士又は木造建築士の別及び登録番号を記載した書類(同法第23条の2の登録申請書に添付される書類)を一般の閲覧に供さなければならないこととされた。これにより、建築士事務所に属する建築士の氏名については、改正前は管理建築士以外の建築士の氏名は当該閲覧に供されていなかったが、改正後は上記1の設計等の業務に関する報告書又は2の建築士の氏名等を記載した書類に記載される管理建築士以外の建築士の氏名も、一般の閲覧に供されることとなっている。
当該氏名に係る従業員は、実施機関に確認したところ、一級建築士であるが管理建築士ではないとのことであり、本件処分が行われた平成18年7月13日の時点においては、改正法の施行前であり、管理建築士以外の建築士の氏名が公にされる情報とする法令等の規定又は慣行の存在は認められないことから、当該氏名は、本件処分時において、法令等により又は慣行として公にされている情報とは認められない。
次に、上記のとおり、異議申立人は、本件処分時において、改正法の内容は公布により明らかであり、当該氏名は公にすることが予定されている情報に該当する旨主張している。
そこで、建築士法第23条の9の規定により新たに一般の閲覧に供されることとなった書類の適用範囲について、実施機関に確認したところによれば、上記1の設計等の業務に関する報告書については、改正法の附則により改正法の施行日である平成19年6月20日以後に開始する事業年度に係るものから建築士事務所の開設者はこれを作成し都道府県知事に提出しなければならないとされているため、同日以後に開始する事業年度に係るものから、また、上記2の建築士の氏名等を記載した書類については、同日以後に建築士法第23条の2の規定により都道府県知事に提出されるものから、一般の閲覧に供されることとされているとのことである。
以上のことから、改正法の公布により、改正法が施行された場合には、改正法の施行日以後に提出された上記1の設計等の業務に関する報告書等に記載される建築士の氏名の情報は公にすることが予定されているとは言うことができる。しかしながら、本件処分は改正法の施行前であり、少なくとも、本件処分時において、改正法の施行前のある時点に建築士事務所に属している管理建築士以外の建築士の氏名の情報についてまで公にすることが予定されているとすべき法令等の規定があったとは認められず、さらに、このような慣行があったとも認められない。このことから、当該氏名について、公にすることが予定されている情報とまでは言えない。
さらに、異議申立人は、当該氏名は、建設業法第40条の規定により工事現場に掲示される標識に記載される監理技術者等の氏名に該当する旨主張しているが、実施機関に確認したところによれば、当該標識に記載される氏名には、特定共同住宅の建設工事を施工する別の会社の工事現場責任者の氏名が該当するとのことである。
よって、当該氏名は、条例第10条第1号ただし書イには該当しないと認められ、同号ただし書ロ又はハに該当すべきとする事情も認められないことから、当該氏名について不開示としたことは妥当である。
- ウ 「建築工事施工結果報告書」の構造設計者欄の氏名
当該文書を見分したところ、当該氏名は、特定共同住宅の工事監理を担当する特定設計事務所らが特定指定確認検査機関に対しその建築工事の施工結果を報告した標記報告書の構造設計者欄に記載されているものであり、当該特定設計事務所に属する従業員のものと認められる。
当該氏名は、本件条例第10条第1号本文の個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものに該当すると認められることから、同号ただし書イからハまでの該当性について検討する。
上記のとおり、当該氏名は、当該従業員が属する特定設計事務所らが作成したと認められる報告書に構造設計者として記載されている。このことから、異議申立人の言うように、当該従業員は建築士の資格を有する者であると推察することができるが、上記イと同様の理由により、当該氏名は条例第10条第1号ただし書イに該当しないと認められる。
さらに、同号ただし書ロ又はハに該当すべきとする事情も認められないことから、当該氏名について不開示としたことは妥当である。
- エ 「鉄筋及びコンクリート工事における施工管理状況報告」の試験機関の検査者の氏名
当該文書を見分したところ、当該氏名は、特定共同住宅の鉄筋工事について試験検査を行った特定試験機関の検査者として標記報告書に記載されているものであり、当該氏名は、条例第10条第1号本文の個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものに該当すると認められることから、同号ただし書イからハまでの該当性について検討する。
当該検査者の氏名について、実施機関に確認したところ、法令等により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているような事情はないとのことであり、また、当該説明を覆す事情も確認できないことから、条例第10条第1号ただし書イに該当せず、同号ただし書ロ及びハにも該当すべきとする事情も認められないことから、当該氏名について不開示としたことは妥当である。
- オ 特定指定確認検査機関の印影
本件対象文書を見分したところ、当該印影は、特定共同住宅の建築計画に係る確認検査の業務を行った特定指定確認検査機関の法人名が彫られた角印の印影であり、当該角印は、当該特定指定確認検査機関が建築基準法の規定に基づき実施機関を含む行政機関に対し提出した報告等の書類のほか、建築基準法第6条の2第1項の規定による確認済証、同法第7条の4第3項の規定による中間検査合格証にも使用されていることが認められる。このような状況から、当該印影は、誰でも当該特定指定確認検査機関に建築物の確認申請を行い、確認済証が交付される場合は、開示されているものと考えられ、また、代表者印の印影であると認めるべき事情も見当たらないことから、これを公にしても、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められない。
したがって、当該印影は、条例第10条第2号の不開示情報に該当しないと認められ、開示することが妥当である。
- カ 確認検査員の印影
本件対象文書を見分したところ、当該印影は、特定共同住宅の建築計画に係る確認検査の業務を行った特定指定確認検査機関の確認検査員個人の印影であり、条例第10条第1号本文の個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものに該当すると認められることから、同号ただし書イからハまでの該当性について検討する。
当該印影は、特定共同住宅の建築計画に係る確認申請書及び中間検査申請書の下部にある処理欄や、中間検査業務処理シート及び確認検査業務処理シート等、特定指定確認検査機関が確認検査の業務を処理する際に内部的に使用している処理欄等において、確認検査員が当該特定指定確認検査機関内部における決裁のため押印したものの印影であると認められる。このような使用状況を考えると、少なくとも、当該印影は公にすることを予定されたものであるとは言えず、条例第10条第1号ただし書イに該当しないと認められる。
さらに、条例第10条第1号ただし書ロ又はハに該当すべきとする事情も認められないことから、当該印影について不開示としたことは妥当である。
以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
磯部 哲、白鳥敏男、渡辺咲子
審議の経過
年月日
|
内容
|
平成18年11月21日
|
諮問を受ける(諮問第127号)
|
平成18年12月7日
|
実施機関から開示決定等理由説明書を受理
|
平成19年1月9日
|
異議申立人から反論書を受理
|
平成19年1月11日
|
実施機関からの説明及び審議(第二部会第19回審査会)
|
平成19年1月26日
|
異議申立人の口頭意見陳述及び審議(第二部会第20回審査会)
|
平成19年2月5日
|
実施機関から補充の理由説明書を受理
|
平成19年2月6日
|
審議(第二部会第21回審査会)
|
平成19年2月27日
|
審議(第二部会第22回審査会)
|
平成19年3月15日
|
審議(第二部会第23回審査会)
|
平成19年4月19日
|
審議(第二部会第24回審査会)
|
平成19年5月15日
|
審議(第二部会第25回審査会)
|
平成19年6月21日
|
審議(第二部会第26回審査会)
|
平成19年7月3日
|
実施機関から補充の理由説明書(一部変更決定について)を受理
|
平成19年7月26日
|
異議申立人から意見書を受理
|
平成19年7月27日
|
審議(第二部会第27回審査会)
|
平成19年9月13日
|
審議(第二部会第28回審査会)
|
平成19年10月9日
|
審議(第二部会第29回審査会)
|
平成19年11月5日
|
答申
|