答申第139号 「平成18年度第2回警察官採用試験の人物試験の採点基準(1類)」等の不開示決定(平成21年1月28日)
答申第139号(諮問第155号)
答申
1 審査会の結論
埼玉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成19年11月16日付けで行った、「平成18年度第2回警察官採用試験の人物試験の採点基準(1類)」(以下「本件対象文書1」という。)及び「平成19年度第2回警察官採用試験の人物試験の採点基準(1類)」(以下「本件対象文書2」という。)について不開示とした決定は妥当ではなく、改めて公文書を特定し、速やかに開示等の決定をすべきである。
2 審査請求及び審査の経緯
(1) 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成19年9月18日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し次の開示請求を行った。
- ア 平成18年度第2回警察官採用試験の教養試験の正答番号が記載された文書、論文試験の採点基準、人物試験の採点基準、体力検査の合格基準、適性検査の合格基準(評価基準)(1類)についての開示請求(以下「本件開示請求1」という。)
- イ 平成19年度第2回警察官採用試験の教養試験の正答番号が記載された文書、論文試験の採点基準、人物試験の採点基準、体力検査の合格基準、適性検査の合格基準(評価基準)(1類)についての開示請求(以下「本件開示請求2」という。)
(2)これに対し実施機関は、平成19年11月16日付けで請求人に対し次のとおり通知した。
- ア 本件開示請求1のうち「平成18年度第2回警察官採用試験の人物試験の採点基準(1類)」に係る部分については、「公にすることにより、受験者が警察官として必要な資質及び能力を有しているかについて正確に評価することが困難となり、適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、条例第10条第5号に該当するため。」として公文書不開示決定(以下「本件処分1」という。)を行った。
- イ 本件開示請求2のうち、「平成19年度第2回警察官採用試験の人物試験の採点基準(1類)」に係る部分については、「公にすることにより、受験者が警察官として必要な資質及び能力を有しているかについて正確に評価することが困難となり、適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、条例第10条第5号に該当するため。」として公文書不開示決定(以下「本件処分2」という。)を行った。
(3) 請求人は、埼玉県公安委員会(以下「諮問庁」という。)に対し、平成20年1月15日付けの審査請求書により、本件対象文書1及び本件対象文書2について開示を求める審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。
(4) 当審査会は、本件審査請求について、平成20年3月26日付けで、諮問庁から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。
(5) 当審査会は、本件審査に際し、諮問庁から平成20年5月7日付けで「開示決定等理由説明書」の提出を受けた。
(6) 当審査会は、本件審査に際し、請求人から平成20年6月4日付けの反論書の提出を受けた。
(7) 当審査会は、平成20年6月19日に諮問庁から意見聴取を行った。
3 請求人の主張の要旨
請求人が主張している内容は、概ね次のとおりである。
(1)本件審査請求の趣旨
不開示決定の取り消し、開示を求める。
(2)本件審査請求の理由
- ア 人物試験において警察官として必要な素質及び能力を評価するという場合、その基準は民間企業等の採用試験における評価基準と著しく異なるということはないはずであり、一般的な採用試験において求められる能力は、書籍や予備校での授業等を通じて、あるいはそもそも一般常識として知り得るものであるため、既に公にされている情報と考えられ、不開示とすべき理由は存在しない。
- イ 具体的な細かい評価基準については不開示とすることはやむを得ないとしても、埼玉県が警察官として採用する者に求める人物像を表すような大まかな基準については公開しても支障ないものと考えられる。なぜなら、大まかな評価基準は、一般的な採用試験において求められる能力を示すもの、あるいは埼玉県警察が受験者に求める特別な資質であって受験者の自己研鑽を求めるべきものであると考えられるからである。
- ウ 条例は、公文書を公開することを原則とし、「不開示情報」に該当する場合にのみ例外的に開示しないことができるとしているのであって、「適正な採用試験業務の遂行に支障が生じるおそれ」という抽象的な危険性を根拠に「採用試験業務に支障を及ぼすおそれがある部分」という抽象的な範囲指定でもって「不開示情報」とすることは、「不開示情報」の範囲を著しく広げるものであって、知る権利の保障を目的とする条例の趣旨に照らして妥当でない。人物試験の評価基準が公表されなければ、国民(県民)はどのような基準で職員の採用が行われているのか知ることができず、公務員の採用が適切に行われているかどうか確認することはできない。
- エ 諮問庁は、人物試験の採点基準を開示した場合、試験委員が、受験者から評価の内容について説明を求められることを意識して、受験者に対する否定的な評価を記載することを差し控えるなどといった弊害が生じると主張している。しかしながら、本件につき問題となっているのは、あくまでも採点基準であり、個々の受験生の評価とは全く別のものである。
採点基準が開示されることにより、試験委員が受験者から説明を求められることを意識し、事実に反して否定的な評価を差し控えるなどということをすれば、それは基準を逸脱した評価となり、採点基準が開示されることとなれば、評価と採点基準の間に矛盾が生じ、適切でない評価をしたことが明らかとなり得るのであるから、採点基準の開示により、試験委員が否定的な評価の記載を差し控えるというようなことは起こり得ない。むしろ、通常の試験委員は、定められた採点基準に基づいて、客観的かつ公平な評価をしなければならないということを意識するはずであって、試験がより適正に実施されることになるものと考えられる。
- オ 国(人事院)は、国家公務員の採用に関し、その採点基準は公のものとなっている。実際の人物試験において使用されている評定票が、インターネット上の人事院のウェブサイトにおいて公開されており、そこには評価基準についても記載されている。もし、人物試験における評価基準の開示が諮問庁の主張するような弊害を持つものだとしたら、このようにして評価基準が公になっている国家公務員の採用試験は適正に行われていないということになる。しかしながら、実際には、人物試験における評価基準が公になっていても、国家公務員の採用試験は適正に行われているものと考えられる。諮問庁が主張する、「適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれ」は現実には存在せず、条例が例示的に認める不開示の根拠とはなり得ない。
4 諮問庁の主張の要旨
諮問庁が主張している内容は、概ね次のとおりである。
警察官採用試験について職員の任用は、地方公共団体の能率性を確保するため、地方公務員法第15条により、成績主義の原則を任用の根本基準としている。成績主義の基本となる能力は、客観的に実証しうるものでなければならず、同条の受験成績とは、職員の採用試験又は昇任試験における受験者の成績である。一方、競争試験については、同法第20条により、職務遂行の能力を有するかどうかを正確に判定することをもってその目的とし、筆記試験により、若しくは口頭試問及び身体検査並びに人物性行、教育程度、経歴、適性、知能、技能、一般的知識、専門的知識及び適応性の判定の方法により、又はこれらの方法をあわせ用いることにより行うものとされている。
人物試験の採点基準を開示した場合、受験者は、当該採点基準について過度に意識し偏った受験対策を講じることが予想され、受験者が警察官として必要な資質及び能力を有しているかについて正確に評価することが困難となり、適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから条例第10条第5号に該当する。
また、人物試験では、受験者の面接時の発言、態度、所作など少なからず人格的な部分を評価することが求められていることから、試験委員が行う評価については、受験者自らが抱いている自己の人格の認識と食い違うことが当然想定される。そのため、人物試験の採点基準を開示した場合、試験委員が、受験者から評価の内容等についての説明を求められるような事態の発生を意識し、また、受験者との間に後日生じるかもしれない信頼関係上のトラブルの発生に配慮して、受験者の否定的な評価についてありのままに記載することを差し控えたり、画一的な評価、記載に終始し、採用試験に必要な本人の正確な情報の記録がされなくなるなど、適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから条例第10条第5号に該当する。
5 審査会の判断
(1)本件対象文書1について
- ア 実施機関が特定した公文書について
本件対象文書1を見分したところ、個別面接試験に関しての表題が記載された表紙及び個別面接試験の評定の基準が記載されたページ並びに集団討論試験に関しての表題が記載された表紙及び集団討論試験の評定の基準が記載されたページである。個別面接試験の評定の基準が記載されているページ及び集団討論試験の評定の基準が記載されているページは、振られているページが連続しておらず、見出しの符号も途中から始まっている。また、文書中で指し示す対象が当該文書内に記載されていないものもある。
このため、当審査会は諮問庁を通して、実施機関が特定したもの以外にページがある場合、そのページの提出を求めたところ、個別面接試験に関して表紙のついた文書(以下「提出文書1」という。)と集団討論試験に関して表紙のついた文書(以下「提出文書2」という。)の二つの文書の提出を受けた。
提出文書1及び提出文書2を見分したところ、実施機関が特定したとする文書は提出文書1及び提出文書2のそれぞれ公文書の一部のページであることを確認した。また、提出文書1及び提出文書2の実施機関が特定したページ以外のページには、個別面接及び集団討論の試験の進め方や評定方法等がそれぞれ記載してあることを確認した。
- イ 本件処分1について
実施機関は本件処分1において公文書不開示決定通知書の開示しない公文書の名称欄に「平成18年度第2回警察官採用試験の人物試験の採点基準(1類)」と一つの公文書名を記載し、文書を特定している。しかし、実際に実施機関が特定した文書は、個別面接試験の評定の基準を記載した文書と集団討論試験の評定の基準を記載した文書の二つの文書であり、提出文書1及び提出文書2の一部のページをそれぞれ抜き出したものである。
本来開示請求に対する公文書の特定は文書単位で行うものであり、表題がある文書であれば表題等の文書名をもって決定するのが通例である。本件開示請求1の場合、仮に二つの文書が独立した文書としての形態を備えているのであれば、二つの文書をそれぞれ特定し決定をすることになる。
また、実施機関が特定した文書は文書の表題が記載された個別面接及び集団討論の各表紙とその一部のページであるが、後に諮問庁を通して提出を受けた提出文書1及び提出文書2には実施機関が特定したページ以外のページに試験の進め方や評定方法等がそれぞれ記載されていることから、実施機関は文書の一部のページではなく文書ごとに特定すべきである。
なお、本件対象文書1として決定している「平成18年度第2回警察官採用試験の人物試験の採点基準(1類)」の名称は、本件開示請求1の公文書開示請求書の開示請求する公文書の名称の欄の記載のままであり、実施機関が特定した公文書の表紙の表題等とも一致していない。
以上のように、本件処分1において本件開示請求1に該当する公文書の特定及び決定書の開示しない公文書の名称の記載も適当ではなく、公文書が特定されているとは言えない。
(2) 本件対象文書2について
- ア 実施機関が特定した公文書について
本件対象文書2を見分したところ、個別面接試験に関しての表題が記載された表紙及び個別面接試験の評定の基準が記載されたページ並びに集団討論試験に関しての表題が記載された表紙及び集団討論試験の評定の基準が記載されたページである。個別面接試験の評定の基準が記載されているページ及び集団討論試験の評定の基準が記載されているページは、振られているページが連続しておらず、見出しの符号も途中から始まっている。また、文書中で指し示す対象が当該文書内に記載されていないものもある。
このため、当審査会は諮問庁を通して、実施機関が特定したもの以外にページがある場合、そのページの提出を求めたところ、個別面接試験に関して表紙のついた文書(以下「提出文書3」という。)と集団討論試験に関して表紙のついた文書(以下「提出文書4」という。)の二つの文書の提出を受けた。
提出文書3及び提出文書4を見分したところ、実施機関が特定したとする文書は提出文書3及び提出文書4のそれぞれ公文書の一部のページであることを確認した。また、提出文書3及び提出文書4の実施機関が特定したページ以外のページには、個別面接及び集団討論の試験の進め方や評定方法等がそれぞれ記載してあることを確認した。
- イ 本件処分2について
実施機関は本件処分2において公文書不開示決定通知書の開示しない公文書の名称欄に「平成19年度第2回警察官採用試験の人物試験の採点基準(1類)」と一つの公文書名を記載し、文書を特定している。しかし、実際に実施機関が特定した文書は、個別面接試験の評定の基準を記載した文書と集団討論試験の評定の基準を記載した文書の二つの文書であり、提出文書3及び提出文書4の一部のページをそれぞれ抜き出したものである。
本来開示請求に対する公文書の特定は文書単位で行うものであり、表題がある文書であれば表題等の文書名をもって決定するのが通例である。本件開示請求2の場合、仮に二つの文書が独立した文書としての形態を備えているのであれば、二つの文書をそれぞれ特定し決定をすることになる。
また、実施機関が特定した文書は文書の表題が記載された個別面接及び集団討論の各表紙とその一部のページであるが、後に諮問庁を通して提出を受けた提出文書3及び提出文書4には実施機関が特定したページ以外のページに試験の進め方や評定方法等がそれぞれ記載されていることから、実施機関は文書の一部のページではなく文書ごとに特定すべきである。
なお、本件対象文書2として決定している「平成19年度第2回警察官採用試験の人物試験の採点基準(1類)」の名称は、本件開示請求2の公文書開示請求書の開示請求する公文書の名称の欄の記載のままであり、実施機関が特定した公文書の表紙の表題等とも一致していない。
以上のように、本件処分2において本件開示請求2に該当する公文書の特定及び決定書の開示しない公文書の名称の記載も適当ではなく、公文書が特定されているとは言えない。
(3)結論
上記(1)及び(2)のことから、本件処分1及び本件処分2は妥当ではなく、それぞれ改めて公文書を特定し、速やかに開示等の決定をすべきである。
以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
磯部 哲、白鳥 敏男、渡辺 咲子
審議の経過
年月日
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内容
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平成20年3月26日
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諮問を受ける(諮問第155号)
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平成20年4月17日
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審議(第二部会第34回審査会)
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平成20年5月7日
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諮問庁から開示決定等理由説明書を受理
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平成20年5月22日
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審議(第二部会第35回審査会)
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平成20年6月6日
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審査請求人から反論書を受理
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平成20年6月19日
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諮問庁からの意見聴取及び審議(第二部会第36回審査会)
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平成20年7月23日
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審議(第二部会第37回審査会)
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平成20年9月18日
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審議(第二部会第38回審査会)
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平成20年10月21日
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審議(第二部会第39回審査会)
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平成20年11月25日
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審議(第二部会第40回審査会)
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平成20年12月16日
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審議(第二部会第41回審査会)
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平成21年1月20日
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審議(第二部会第42回審査会)
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平成21年1月28日
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答申(答申第139号)
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