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掲載日:2024年4月2日
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答申第135号(諮問第151号)
答申
1 審査会の結論
埼玉県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成19年11月27日付けで行った、別紙の公文書(以下「本件対象文書」という。)を不開示とする決定について、不開示とした理由が妥当ではなく、これを取り消して改めて開示決定等をすべきである。
2 異議申立て及び審議の経緯
(1) 異議申立人は、平成19年10月29日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、「文科省、全国学力テストの結果のうち、(1)市区町村毎の調査結果(2)県立学校、市町村立学校毎の調査結果」について開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。
(2) 実施機関は、本件開示請求の対象となる公文書を別紙のとおり特定し、平成19年11月27日付けで以下の理由で公文書不開示決定(以下「本件不開示決定」という。)を行った。
(不開示とした理由)
国が行った本調査の結果の公表については、序列化や過度な競争につながらないよう特段の配慮が必要である。また、実施要領において、「都道府県教育委員会は、域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと」と定めており、各市町村教育委員会は、この実施要領を踏まえた上で本調査に参加している。
したがって、県教育委員会が全国学力・学習状況調査の市町村ごと及び学校ごとの結果についての情報を公にした場合、その性質上、本調査の適正な遂行に以下に掲げるような支障を及ぼすおそれがあり、埼玉県情報公開条例第10条第5号に該当するため、開示しないこととするものである。
実施要領の趣旨に反して、県教育委員会が個々の市町村名・学校名を明らかにした情報を開示することにより、本調査の実施方法に対する国民の信頼が損なわれるおそれがある。
市町村教育委員会は自らの判断で本調査に参加しているところ、県教育委員会が個々の市町村名・学校名を明らかにした情報を開示することにより、次年度以降市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど正確な情報が得られない可能性が高くなり、結果として全国的な状況が把握できなくなるおそれがある。
市町村名や学校名を明らかにしない場合でも、市町村ごと、学校ごとの調査結果を県教育委員会が公にすることは、各自の調査結果を有する市町村や学校に対して序列化や過度の競争を煽るおそれがある。
(3) 異議申立人は、本件不開示決定を不服として、平成20年1月25日付けで、実施機関に対して「本件情報を公開すべき」との趣旨の異議申立てを行った。
(4) 当審査会は、当該異議申立てについて、平成20年3月10日に実施機関から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。
(5) 当審査会は、実施機関から平成20年4月11日に開示決定等理由説明書を、平成20年6月19日及び平成20年7月18日に意見書を、更に、平成20年10月20日に補充の理由説明書の提出を受けた。
また、当審査会は、平成20年5月22日及び平成20年7月23日に実施機関から意見聴取を行った。
(6) 当審査会は、異議申立人から平成20年5月14日に理由説明書に対する反論書の提出を受けた。
また、異議申立人から口頭意見陳述の申立てはなかった。
3 異議申立人の主張の要旨
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
(1) 文部科学省による「不開示」の決定及び指導自体に問題があったとすれば、それを前提に県下の各市町村・各学校が参加したことは、もはや正当な理由とはなりえない。文部科学省が調査結果を不開示とした理由に説得力を持たない上、情報公開については国民の「知る権利」の保障、新教育基本法を踏まえた正当な解釈、政府の「規制改革会議」の答申等、それ以上に重要かつ正当な「理由」が存する。
(2) 平成18年度末に改正された新教育基本法第2条は「教育の目的」だけでなく、「教育の目標が達成されたかどうか」を問うものになった。各自治体・各学校がその責任を十分果たしているかどうかについて、県民には「知る権利」があり、この権利を保障するためにも、本件情報は当然開示されなければならない。
新教育基本法第13条は「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする」と定めており、本件学力テストの結果を含む地域の教育情報を可能な限り住民に公開することは、地域住民が学校との連携・協力を行っていく上で不可欠である。
更に、平成19年6月に改正された新学校教育法では、当該小学校〔中学校〕の教育活動その他の学校運営の状況に関する情報を積極的に提供すると定めている。(新学校教育法第43条、第134条第2項)
(3) 文部科学省の「実施要領」では、「調査の目的」として、第二に、「各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図る」と定めている。しかしながら、各県レベルの大雑把な情報が公開されただけでは、各市町村・各学校としては「全国的な状況との関係」つまり比較において自らの成果や課題を具体的に把握したり、具体的な改善を図ったりすることはできないはずである。
各自治体、各学校の判断で公開するというのではあくまで「情報提供」にとどまり、県民の「知る権利」の保障にはならない。たとえ文部科学省の指導があったとしても、県教育委員会としてあくまで本県情報公開条例にのっとり、県民の「知る権利」を保障すべく、文部科学省の「実施要領」の妥当性を検討し、新教育基本法の正しい解釈に立って判断をするべきである。
(4) 政府の「規制改革会議」は、平成19年12月25日、「規制改革推進のための第2次答申」で次のとおり本件学力テストの結果は公開すべきとしている。「調査結果の公表にあたっては、文部科学省が、学校独自の判断で自校の結果を公表することは認めたものの、都道府県教育委員会に対し域内の個々の市町村名や学校名を明らかにした公表をしないように求めるとともに、市町村教育委員会に対しても域内の個々の学校名を明らかにした公表をしないように求めた結果、多大な公費が投入されたにも係わらず、それに見合う情報が納税者である国民に公開されていない。
学力調査結果はあくまで個別の学校に関する情報公開の一環として学校選択のための基本情報となるものであり、教育サービスを受ける学習者及び納税者に対する説明責任の観点からも各学校の学年、学級、教科等毎の結果を公表すべきと考える。また、噂や風評に依らない学習者の公正な選択を促すために、学力調査結果を含めた客観的な情報を十分に公開し、その一方、望ましい評価が得られなかった学校に対しては様々な教育支援を併行して行う必要がある。」
(5) 文部科学省の調査によれば、平成16年度に学力調査を実施した自治体数は、39都道府県・11指定都市に及ぶが、このうち市町村レベルまで結果を公表した自治体数は8県(宮城、福島、東京、新潟、鳥取、広島、長崎、大分)、学校レベルまで結果を公表した自治体は1県(和歌山)あり、「個々の市町村名・学校名を明らかにした情報を開示すること」は決して不可能でないはずだ。
各学校は調査結果を公表しないとの条件で学力テストに参加したのだから、それを後になって公表することは県教育委員会と各市町村・学校との信頼関係を損なうとの理由は一理あり、理解できないわけではない。しかし、だからといってそのような市町村の消極的な姿勢をそのまま是認していたのでは、教育の改善や改革は覚束ない。
県教育委員会は、消極的な市町村・学校があれば、新教育基本法・新学校教育法の精神を踏まえ、より積極的な対応と指導を行い、支障が生じないよう努めるべきである。
(6) 現に格差や序列が存在することと、学力テストの結果の公開によって更に序列化が進行するかということとは、別問題である。
「過度の競争」を煽ることになれば、それは問題であろうが、教育分野に限らず、人間社会においては「節度ある競争」は、その進歩向上のため不可欠である。それゆえ、単に「過度の競争を煽るおそれがある」というだけの理由でもって「節度ある競争」まで排斥してしまうことになれば、かえって問題である。
(7) 本件と事案は異なるが、大阪地裁及び大阪高裁は、大阪府枚方市教育委員会が平成15、16年度に枚方市小中学校の生徒を対象にして行ったテスト結果の公表を命じて、次のように述べており、学力テストの公表が「過度の競争」や「序列化」を生むといった抽象的・観念的批判だけでは説得力がない。
4 実施機関の主張の要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
(1) 文部科学省の「実施要領」は、「国民の代表機関である国会や審議会等において議論が行われ、それらを踏まえて」定められたものであり、各自治体、各学校の調査結果については「公表しない」ものとしている。にもかかわらず、これを公表してしまえば、かえって「国民の信頼」を失うおそれがある。
(2) 政府の「規制改革会議」が平成19年12月25日に示した「規制改革推進のための第2次答申」に関する、異議申立人による引用部分は、当該答申における【問題意識】に記載されている事項、すなわち、規制改革会議の主張であり、政府内で合意を得た事項を示すものではない。当該答申の【具体的施策】は、「調査結果については、少なくとも教員、校長、教育委員会が情報を共有し、経年変化の比較や教科毎の集計分析など調査結果の積極的な活用・分析を通じて、指導計画への反映や校内研修の実施など、学校毎の教育施策や教員の指導方法の改善に資する資料として活用するよう引き続き周知すべきである。」としており、開示決定等理由説明書で述べた内容とは矛盾していない。
(3) 教育基本法第13条及び学校教育法第43条は、学校からの情報提供の必要性・重要性を理念的に規定したものである。したがって、学力調査結果などの特定事項について学校側に情報提供の義務を課したものではなく、保護者等に学校への情報公開を要求する新たな権利を付与したものではない。
(4) 県教育委員会が個々の市町村名・学校名を明らかにした情報を開示することはできないが、各自治体、各学校が「それぞれの判断」で調査結果を公表することまでは禁じていない。
都道府県レベルでの調査結果は、既に公開されており、それによって各市町村教育委員会や各学校は全国的な状況との関係において自らの成果と課題を把握し、改善を図ることは可能である。
県としても、県全体の情報を公開するとともに、具体的な課題の把握や改善に結びつけるためのプログラムソフトや資料を配布するなど、各学校が具体的な課題の把握や改善をできるように手立てを講じている。
(5) 事後において参加する条件を破って市町村名や学校名を明らかにした結果を県教育委員会が公表することは、県教育委員会と市町村又は学校との信頼関係を壊すものであり、ひいては県の教育行政に対する県民の不信感や不安感をかえって増大させる。
(6) 公表されることを前提に市町村の参加を求めたのでは、参加を躊躇することは容易に想像できる。「実施要領」にある「調査の目的」の第一「全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」ことを考えたとき、協力が得られないケースを増やすことは、本件調査の適正な遂行に対する「具体的な支障」と考える。
(7) 43年ぶりに実施された全国規模の調査であり、大きな影響を社会に及ぼすことが十分に予想される。実際、学校別の結果を公表している学力調査において、改ざんなどの事実が発覚している。
県がまとめて公表した場合、市町村や学校の序列化が公のものとなってしまう。公表された調査結果をどのように取り扱うかは、受け取った側の判断によりなされるものであり、県が調査結果を公表することにより、公表された調査結果のみが独り歩きして、序列化や過度の競争を助長する結果につながる可能性は否定できない。
昭和30年代に行われた全国学力調査の際には、テスト準備、学校予備校化、差別教育、学校格差を拡大し、民主教育を破壊するという批判がされ、教職員組合等による阻止行動もあり、実際に調査実施の大きな支障となった。
県教育委員会が市町村及び学校の調査結果を公にすることにより、「適度な競争」に留まらず、「過度の競争」につながるおそれがあることは否定できない。
(8) 枚方市教育委員会が市内の小中学校の児童生徒を対象とした学力テストは、国が実施主体となり市町村が基本的な参加主体となって実施された本件調査とは、前提が異なる。むしろ、住民の訴えが棄却された岩手県花巻市の事例である、岩手県教育委員会が実施した学習定着度状況調査の方が、実施主体と参加主体の関係などにおいて本件に近い。
平成19年12月20日の仙台高裁判決によると「良い成績を残せない児童生徒に学力テストの受験を控えさせたいとする教師や学校が出てくることなどにもなりかねない。」「児童生徒の能力を理由とした差別的取扱いを助長させることにもなりかねない。」という判断が出されている。
(9) 東京都足立区教育委員会が区内の小中学校で実施した区独自の学力テストにおいて小学校1校が障害のある3人の児童の答案用紙を無断で集計から除外、また、テスト中に教員が誤答している児童の机をたたいて気づかせたりする事実が発覚している。不正を行っていた元校長のインタビューも放映されている。インタビューでは、不正のきっかけとなったのは東京都の学カテストで足立区が23区中最下位であったことが公表され、足立区は学力が低いといわれて子どもたちが誇りを失っていたことや、下流社会・下層社会、バカ学校と言われることであると話している。
広島県三次市が市内の全小中学校についての学力到達度検査を実施し、学校別の結果を公表しているが、平成17年度の検査において、前年の問題を不正にコピーして模試を事前に実施していたこと、中学校教務主任が途中退席した生徒の答案用紙の未回答部分に答えを書き込んで改ざんしたこと、小学校校長が答案用紙の誤答を正答に書き換えて正答率を上げていたこと等の一連の不祥事が発覚している。中国新聞(平成19年7月9日「社説」)ではこのことについて、「市広報に学校名を明示して、結果を掲載していたことがプレッシャーになったようだ。」と述べている。
埼玉県鳩ケ谷市が市内全小中学校で実施している総合学力調査において、一部の小学校が「特別支援学級適」の児童の成績を集計から除外したことが、平成20年3月に報道された。鳩ケ谷市では、この調査結果に関して、学校別平均点などが公表されている。
このように埼玉県内の事例を含む複数の事例があることから、市町村名や学校名を明らかにした公表が「過度の競争」や「序列化」を生むという懸念は現実的なものであり、決して抽象的、観念的なものということはできないと考える。
5 審査会の判断
(1) 本件対象文書について
本件対象文書は、文部科学省が平成19年度に小学校第6学年及び中学校第3学年の全児童生徒を対象に行った全国学力・学習状況調査(以下「本件調査」という。)の結果として実施機関(以下「県教育委員会」ともいう。)に提供されたもののうち、埼玉県内の市町村ごとの調査結果及び県立学校、市町村立学校ごとの調査結果として特定された別紙に記載した公文書である。
(2) 本件調査について
(3) 本件対象文書の条例第10条第5号該当性について
実施機関は、本件対象文書を「性質上、本件調査の適正な遂行に以下に掲げるような支障を及ぼすおそれ」として、3つの「おそれ」を挙げて条例第10条第5号に該当するとしているので、順次その理由の適否について検討する。
(4) 再検討事項
当審査会としては、実施機関の主張する理由をいずれも認めることはできないことから、本件対象文書は原則として全部開示にすべきものと考える。
しかし、実施機関は、本件対象文書の全部を不開示とする主張しか行っておらず、個々の公文書、各公文書の中に記載されている個々の情報について不開示とする理由を整理して説明していない。このことから、当審査会として、審議を尽くすことができなかったため、本件対象文書をすべて開示せよとの答申までは行わない。
実施機関が行った本件不開示決定における開示・不開示の検討については、十分に検討が尽くされているとはいえないことから、再度、速やかに、実施機関で本件対象文書の開示・不開示を検討すべきであり、その際には、以下の点を十分に検討し、判断すべきであると考える。
以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
磯部 哲、白鳥 敏男、渡辺 咲子
審議の経過
年月日 |
内容 |
---|---|
平成20年3月10日 |
諮問を受ける(諮問第151号) |
平成20年4月11日 |
実施機関から開示決定等理由説明書を受理 |
平成20年4月17日 |
審議(第二部会第34回審査会) |
平成20年5月11日 |
異議申立人から反論書を受理 |
平成20年5月22日 |
実施機関説明及び審議(第二部会第35回審査会) |
平成20年6月19日 |
実施機関から意見書を受理 |
平成20年6月19日 |
審議(第二部会第36回審査会) |
平成20年7月22日 |
実施機関から意見書を受理 |
平成20年7月23日 |
実施機関説明及び審議(第二部会第37回審査会) |
平成20年9月18日 |
審議(第二部会第38回審査会) |
平成20年10月20日 |
実施機関から補充の理由説明書を受理 |
平成20年10月21日 |
審議(第二部会第39回審査会) |
平成20年11月25日 |
審議(第二部会第40回審査会) |
平成20年12月16日 |
審議(第二部会第41回審査会) |
平成20年12月24日 |
答申 |
別紙
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