答申第38号 「万引きと疑われる行為の処分」の部分開示決定(平成16年11月10日)
答申第38号(諮問第38号)
答申
1 審査会の結論
埼玉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が、平成14年6月14日付けで行った「万引きと疑われる行為の処分について(公安委員会資料平成13年8月8日付け)」(以下「本件文書」という。)の部分開示決定のうち、別紙2に掲げる情報については開示すべきである。
2 審査請求及び審査の経緯
(1) 本件審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成14年4月15日、埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、「警察庁公安委に対する報告書ならびに広報の対応文書47月32日」の開示請求を行った。(以下「本件請求」という。)
(2) 実施機関は、本件請求に対する公文書を本件文書と特定した上で、平成14年6月14日付けで部分開示決定を行い、請求人に通知した。開示しない情報及びその理由は、別紙1のとおりである。
(3) 請求人は、平成14年7月18日付けの審査請求書により、実施機関の上級庁である埼玉県公安委員会(以下「審査庁」という。)に対し、不開示とした事案の概要及び調査結果欄の1、3、4及び処分案(以下「本件不開示情報」という。)を開示すべきであるとして審査請求を行った。
(4) 当審査会は、本件審査請求について平成14年11月6日付けで審査庁から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。
(5) 当審査会の本件審査に対し、審査庁から平成16年3月24日付けの開示決定等理由説明書(以下「説明書」という。)の提出を受けた。
(6) 当審査会は、平成16年10月1日に実施機関の職員から意見聴取を行った。なお、請求人は反論書の提出をせず、当審査会に対する口頭による意見陳述も求めていない。
(7) 審査庁から平成16年9月22日付けの意見書及び参考資料の提出を受けた。
3 請求人の主張の要旨
請求人は、本件不開示情報中、以下の情報を開示するよう主張している。
(1) 万引きと疑われる行為をした者の購入した本の書名
(2) 調査した事案の概要
(3) 「戒告」処分の妥当性の是非がわかる部分
4 実施機関の主張の要旨
審査請求に対する実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
(1) 条例第10条第1号本文の該当性について
関係職員の氏名や身分の取扱い上の処遇、事案の発生場所及び購入書籍の情報は、開示することにより特定の個人が識別することができるもの、又は個人の趣味、嗜好に係る情報であって個人を識別できないが、なお個人の権利利益を害する
と認められる情報であり、条例第10条第1号本文に該当する。
(2) 条例第10条第5号について
監察官室の調査結果、処分に至る判断要素に係る情報は、公にすることにより今後の同種監察事案の調査及び処分の決定に際し、正確な事実の把握を困難にするおそれがあり、また人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障をきたすおそれがあり、監察業務の適正な執行に支障を及ぼすおそれがあり、条例第10条第5号に該当する。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を保障するため公文書の開示に関し必要な事項を定める等情報公開を総合的に推進することにより、県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民の県政参加を一層進め、もって地方自治の本旨に即した公正で透明な開かれた県政の推進に寄与することである。また、条例は原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、個人の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した不開示事由を定めている。
(2) 当審査会は、条例の理念を尊重し、条例を次のとおり厳正に解釈する。
- ア 条例第10条第1号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権を最大限保護しようとする趣旨の規定であり、不開示の基準を個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて不開示とすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて不開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則不開示としたうえで、個人の権利利益を侵害しないので不開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優先するため開示すべきものを同号ただし書で例外的事項として列挙している。
- イ 条例第10条第5号(事務事業情報)の意義について
条例第10条第5号は、県、国又は他の地方公共団体の機関が行う事務又は事業に関する情報であって、その性質上、公にすることにより、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられるものを不開示情報としている。そして、「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」とは、当該情報を公にすることによる利益と支障とを比較衡量した結果、公にすることの公益性を考慮してもなお、当該事務又は事業の適正な遂行に及ぼす支障が看過しえない程度のものであることが求められる。この場合、「支障を及ぼすおそれ」は、単なる抽象的な可能性では足らず、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を生じることについて、法的保護に値する蓋然性が認められなければならない。
(3) 当審査会は、以上の観点から本件文書の不開示部分について個々に検討を行った。
- 「事案の概要及び調査結果」欄の1について
- ア 条例第10条第1号の該当性
事案の概要欄に記載された事件の発生場所については、これを開示することにより、個別の事件が特定され、当該事件の被害者等が識別されることともなるものと認められる。また、購入書籍に係る情報は個人を識別できる情報ではないが、個人の趣味、嗜好に係る情報であって、開示することによりなお個人の権利利益を害すると認められる情報である。また、個人のプライバシーを犠牲にしてまで開示すべきとする公益性も認められない。したがって、本件文書で不開示とされた情報は、条例第10条第1号本文の「個人に関する情報」に該当するとともに、同号ただし書きイ、ロ、ハのいずれにも該当しないと判断すべきである。
- 「事案の概要及び調査結果」欄の3、4について
- ア 条例第10条第1号の該当性
実施機関は、関係職員の身分取扱い上の処遇に関する情報も含まれており、個人の資質、名誉に係る当該関係職員固有の情報であって、本人としては一般的にこれを他人に知られたくないと望み、そう望むことが正当と認められるものであることから、特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお関係職員の権利利益を害するおそれがあると主張している。しかしながら、当審査会が本欄を見聞したところによれば、慣行として公にされている役職名の記述の部分は、同号ただし書イに該当する記述があると認められ、その部分については実施機関の判断には相当な理由があるとは認められない。なお、同号ただし書ロ及びハについても該当するとは認められない。
- イ 条例第10条第5号の該当性
実施機関は、監察官の調査結果の部分は、関係職員の処分に至る判断要素に係る情報であり、その経緯、方法及び結果を公にすれば以後の同種監察事案に関し関係者の協力が得られなくなり、あるいは関係者により事実関係を歪曲されるなど、正確な事実の把握を困難にするおそれがあり、監察業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると主張している。しかし、当審査会が本欄を見聞したところによれば、確かに、実施機関の主張を裏付ける具体的な記述もあり、その部分については実施機関が不開示と判断したことは合理的であると認められる。しかしながら、具体的な記述ではあるが、本件文書が、「万引きと疑われる行為」の再調査に関するものであり、再調査を実施することは、既に新聞等において公にされていたことを勘案すると、社会通念上、常識的に推測し得る記述にすぎない部分もある。この部分については、公にしても事務事業に支障を及ぼすとは推測できないから、これについては実施機関の判断に相当な理由があるとは認められない。
- 「処分案」欄について
- ア 条例第10条第1号の該当性
実施機関は、関係職員の身分上の取扱い上の処遇に関する情報も含まれており、個人の資質、名誉に係る当該関係職員固有の情報であって、本人としては一般的にこれを他人に知られたくないと望み、そう望むことが正当と認められるものであることから、特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお関係職員の権利利益を害するおそれがあると主張している。しかし、当審査会が本欄を見聞したところによれば、確かに実施機関の主張を裏付ける具体的な記述もあり、その部分については実施機関が不開示と判断したことは合理的であると認められる。しかしながら、「万引きと疑われる行為」として常識的に推測し得る記述も見受けられ、その部分については、公にすることにより個人の権利利益を侵害するとは推測できないから、実施機関の判断に相当な理由があるとは認められない。なお、同号ただし書イ、ロ、ハのいずれにも該当するとは認められない。
- イ 条例第10条第5号の該当性
実施機関は公にすることにより今後の同種監察事案の調査及び処分決定に際し、正確な事実の把握を困難にするおそれがあり、また人事管理に係る事務に関しても、公正かつ円滑な人事の確保に支障をきたすおそれがあるので、監察業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあると主張している。しかしながら、当審査会が本欄を見聞したところによれば、上述したように、具体的な記述ではあるが、本件文書が「万引きと疑われる行為」の再調査に関するものであり、再調査を実施することは、すでに新聞等において公にされていたことを勘案すると、社会通念上、常識的に推測し得る記述にすぎない部分もある。この部分については公にしても事務事業に支障を及ぼすとは推測できず、その範囲で実施機関の判断には相当な理由があるとは認められない。
(4) まとめ
よって、実施機関が不開示とした判断した情報のうち、別紙2の「開示が妥当と判断した部分」について不開示と判断したことは妥当ではない。実施機関のその余の判断は妥当である。したがって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
別紙1
開示しない情報
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その理由
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- 関係職員の所属、分掌、氏名、生年月日、年齢、採用、現所属、現階級、賞罰、家族がわかる部分
- 関係者の住所、会社名、氏名及び年齢
- 事案認知の端緒の発生場所がわかる部分
- 発生場所及び店長の氏名
- 事案の概要及び調査結果欄の
- ア 発生場所及び購入書籍がわかる部分
- イ 監察の調査結果のうち関係職員の具体的な行動が記載された部分
- 処分案
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- 個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもので、公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあるものであり、埼玉県情報公開条例第10条第1号に該当するため。
- 個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、埼玉県情報公開条例第10条第1号に該当するため。
- 個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、埼玉県情報公開条例第10条第1号に該当するため。
- 個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、埼玉県情報公開条例第10条第1号に該当するため。
- 個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもので、公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあるものであり、埼玉県情報公開条例第10条第1号に該当するため。
- 処分に至る判断要素に係る情報であって、公にすることにより監察業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものであり、埼玉県情報公開条例第10条第5号に該当し、また、公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあるものであり、同条第1号に該当するため。
- 処分に至る判断要素に係る情報であって、公にすることにより監察業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものであり、埼玉県情報公開条例第10条第5号に該当し、また、公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあるものであり、同条第1号に該当するため。
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別紙2
項目
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開示が妥当と判断した部分
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事案の概要及び調査結果欄3
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- 1行目から8行目28字目まで
- 10行目2字目から12行目19字目まで
- 14行目3字目から15行目まで
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事案の概要及び調査結果欄4
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- 1行目から3行目18字目まで
- 4行目7字目から同行28字目まで
- 4行目31字目から5行目3字目まで
- 5行目7字目から同行目24字目まで
- 5行目27字目から同行目30字目まで
- 6行目2字目から同行目5字目まで
- 6行目8字目から8行目6字目まで
- 8行目22字目から9行目まで
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処分案
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- 1行目16字目まで
- 2行目17字目から3行目5字目まで
- 4行目2字目から5行目18字目まで
- 6行目18字目から10行目22字目まで
- 11行目17字目から11行目27字目まで
- 12行目24字目から15行目4字目まで
- 15行目21字目以降
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※注意点
- 「(」、「)」、「、」、「。」、「○」は1文字と数える。
- 数字は1文字と数える。
- スペースは数えない。
- 行の文字数はすべて左から数える。
- 罫線は行数に数えない。
審議の経過
年月日
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内容
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平成14年11月6日
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諮問を受ける(諮問第38号)
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平成16年3月24日
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実施機関より開示決定等理由説明書を受理
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平成16年10月1日(第41回審査会)
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実施機関より意見聴取及び審議
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平成16年10月15日(第42回審査会)
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審議
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平成16年11月10日
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答申
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埼玉県情報公開審査会委員名簿(平成16年11月10日現在)
氏名
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現職
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備考
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礒野 弥生
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東京経済大学教授
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遠藤 順子
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弁護士
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会長職務代理者
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大橋 豊彦
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尚美学園大学教授
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会長
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田村 泰俊
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明治学院大学教授
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野村 武司
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獨協大学教授
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馬橋 隆紀
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弁護士
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(五十音順)