荒川の秋ヶ瀬取水堰そ上稚アユの有効活用
荒川の天然稚アユのそ上実態を調査した結果、秋ヶ瀬取水堰に付設されている魚道において、堰の放水管理で堰下に滞留している稚アユを魚道へ誘引することができると考えられた。また、魚道をそ上した稚アユは、熊谷地先の荒川で、アユ友釣りに有効利用されることが判明した。
技術内容
- (1)天然そ上稚アユの採捕は、1986年から1989年の4年間は秋ヶ瀬取水堰下流0.3kmの左岸側に四つ手網を設置し、1990年建網を両岸に設置して5年間調査した。調査ごとに標識アユ(脂鰭の切除)を堰下流500mの秋ヶ瀬橋工事用橋下に放流し、その再捕率から天然そ上量の現存量を推定した。また、熊谷地先の荒川で、標識アユと天然そ上アユの漁獲割合を聞き取り調査した。
- (2)秋ヶ瀬取水堰下流のそ上稚アユの現存量は、1986年5月下旬0.3万尾、1988年5月下旬0.2万尾、1989年4,5,6月0.1~0.2万尾で、1990年が、4月上旬2万尾、4月下旬7万尾、5月中旬2万尾、6月上旬2万尾と推定した。
- (3)建網による採捕尾数は右岸側が左岸側より多く、また、魚道をそ上した稚アユと標識アユの比率から推定した堰下の現存量が、建網採捕結果から推定した現存量の1.8~18倍に当たった。これらのことから、そ上稚アユの主群は、越流部がある右岸沿いを中心にそ上し、堰下で魚道を見つけながら滞留していることが示唆された。
- (4)平常の放水管理時でも、1990年には5月中で最大降水日量(熊谷25mm/日を記録した2日後に、堰下放水量54~25t/sで874尾の比較的多いそ上が見られた。
- (5)1989年には4月中で最大降水日量(熊谷41mm/日)を記録した5日後には、洪水吐ゲートが全て解放されており、堰下放水量95~83t/sで147尾の比較的多いそ上が見られた。魚道そ上量が多かった要因として、魚道側の第3洪水吐ゲートの開放は呼び水がない魚道への呼び水としての効果を発揮したと考えられた。
- (6)魚道入水口部の越流速は、0.86~1.93m/sであったが、1989年は1.50m/s、1990年1.11m/sの越流速時に最も多くそ上が見られた。そ上に適した越流速(40~60cm/s)の1.5倍までが許容限界であることを考えると、この時の流速は最適流速の1.85倍から2.51倍であったが、魚道内の流速が不均一なプールについては、そ上稚アユは流れが滞留する付近を選択し、瞬発力で魚道をそ上すると考えられた。
- (7)秋ヶ瀬取水堰魚道をそ上した天然稚アユは、約1万尾が熊谷市地先に到達し、アユの友釣り、コロガシ釣り、投網等の貴重な漁業資源として有効利用された。
- (8)天然そ上アユの復活は、荒川の秋ヶ瀬取水堰下流の笹目橋、戸田橋、新荒川大橋におけるBOD値が1970年の2分の1以下の値にまで改善されていることによるものと考えられた。
具体的データ
適用地域
河川中、下流域
普及指導上の注意
魚道への呼び水とする洪水吐ゲートの放水管理は気象状況に左右されるので、魚道の改修あるいは新設では、越流部側に魚道を設置する必要がある。