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掲載日:2023年1月9日

埼玉新聞連載記事 「埼玉の環境は今」その38

絶滅危惧種“川ガキ”復活を

里川の健全性の指標に

昔から歌い継がれている童謡の世界は、自然共生型社会及び循環型社会をイメージしたものである。農山村や郊外に見られる農業生態系並びに周辺生態系(二次生態系)が都市生態系を支えているため、この二つの生態系が健全に維持されている限り、都市に人が密集したとしても、人類は持続的に生き延びることは可能である。しかしながら、最近は休耕田や耕作放棄地が増え、里山や里地は管理されずに放棄され、周辺生態系のエコロジカルサ-ビスが衰退している。

水辺に限ってみれば水田、農業用排路、ため池、小河川などが二次生態系としてとらえることができるが、このような水辺にみられる生物はきわめて減少している。

「エビやメダカや小ブナの群れに遊べ遊べとささやきながら」、「緑のそよ風いい日だね小川のふなつりうきが浮く静かなさざなみはねあげてきらきら金ぶな嬉しいな」、「蛍のやどは川ばた柳柳おぼろに夕やみ寄せて川のメダカが夢見る頃はほほ蛍が灯をともす」は、それぞれ童謡「春の小川」、「緑のそよ風」、「ほたる」の一節である。戦前からこれまで歌い継がれてきた童謡は、自然の豊かなときに作詞・作曲されたものが多く、わが国の身近な原風景を描写している。従って、童謡に登場する動植物も住民にとって身近であったはずである。表は童謡二百曲に登場する水辺に生息・生育する動植物を調べたものである。その数は二十三種におよび、コイ、フナ、メダカ、キンギョ、トンボ、ホタル、カメ、カエル、ヤナギなどが複数以上登場している。

これらの動植物は、必ずしも清流に生息・生育するものではない。河川の水質環境基準からみれば、BあるいはC程度で十分生息・生育できる生物である。私がかつて勤務した東北大学の研究室で、宮城県伊豆沼流域の小学校6年生とその保護者に水辺生物についてのアンケート調査を行ったことがある。「どの生物がいればきれいな水辺だと思いますか?」、「あなたにとって近くの水辺にいて欲しい生物は何ですか?」との質問に、保護者はメダカ、ホタル、フナの順に回答している。小学生は生き物の名前がわからないこともあって、魚、鳥、メダカと答えている。子どもたちを含めて水辺に求めている生き物は、先に示した童謡に登場する種類と一致している。住民は身近な水域にメダカ、フナ、あるいはホタルが見られれば水辺環境として満足し、また見られることを願っている。郊外や農山村地域であれば、童謡に唱われている里川の原風景を取り戻すことはそれほど難しいことではないと思う。メダカが絶滅危惧種になったことは残念でならない。

それに合わせるように、川で遊ぶ「川ガキ」も絶滅危惧種になっている。昭和三十年代までの子どもたちは、近くの川が遊び場であり、泳いだり魚を捕ったりしていた。最近の川は汚れていたり、また危険な場所も多いので子どもたちを近づけさせないようにしている。イベントのときに大人が付きっきりで水に入らせているが(写真)、普段は子どもたちの姿はほとんど見られない。埼玉県では里山を再生する施策が進められているが、里川の健全性を取り戻す指標は川ガキの復活であることを認識して取り組む必要があろう。

童謡唱歌集に登場する動植物達(唱歌200曲中、登場頻度上位3種)

イベント時に子供が川で遊ぶ様子の写真

元小山川に出現した絶滅危惧種「川ガキ」

埼玉県環境科学国際センター総長 須藤隆一

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