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掲載日:2023年1月13日

埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その10

武蔵野台地北部周辺の湧水

都会に残るオアシス

“川の国・埼玉”といわれるように、埼玉県内には大小様々な河川が東京湾に向かって流れている。これらの河川の水がどこから流れてくるか、源流の一滴に興味を持つ人もいるだろう。利根川なら群馬県の山奥深くに、また荒川であれば奥秩父の甲武信岳に源流がある。しかし、山地に水源がある河川ばかりではない。特に埼玉県では台地を流れる河川が多く、流れ下る途中で水量も増えていく。その源が湧水(“ゆうすい”“わきみず”)であり、湧泉(“ゆうせん”)とも呼ばれている。

埼玉県では、全面積の約25%を台地が占めており、そこの地表から数メートル下には地下水が蓄えられている。そして、この地下水が地上に流れ出たのが湧水だ。よく知られている武蔵野台地の例を模式図で見てみよう。台地の上には、富士山や箱根山の噴火で堆積した火山灰の関東ローム層がある。その下には、大昔に川によって山から運ばれてきた砂や小石の武蔵野レキ層が堆積している。ここの隙間に、地表に降り注いだ雨水がしみ込んで地下水となっている。地下水は河川よりもゆっくりと流れ、図のような崖や台地の末端など、低地との境で湧水として地上に現れる。

埼玉県では、平成一五年に県の南西に位置する武蔵野台地北部周辺の湧水探索を行なった。探索では公募で参加した県民ボランティアが現場調査をし、採水した湧水を環境科学国際センターが水質分析した。その結果、北の川越市から南の都県境までの地域に百四十箇所もの湧水が確認された。多くは図のように崖から湧き出ていて、近くの川や水路に流れ込んでいる。その代表が写真の新座市妙音沢だ。一見、山奥の清流のような風景だが、水が流れ出ている崖の上は家屋が密集した住宅地だ。沢のすぐ横を流れる黒目川は、典型的な都市河川で、清流とはほど遠い。ここには大沢と小沢の二箇所があり、市が特別緑地保全地区に指定している。毎分数トンもの水が常時流れ出ており、黒目川に注いでいる。水温は一年を通じて16~18℃、pHは約6.7の弱酸性であり、土壌などから溶け込んだイオン類を含む。沢の周辺はうっそうとした斜面林で、春にはイチリン草やカタクリの花が咲き誇る。冬にはきれいな淡水にしか生息しない藻類のカワモズクも見られるという。まさに都会に残っている現代のオアシスだ。他にも、地元住民の生活に密接に関わりのある湧水も残っていることがわかった。和光市白子は、川越街道の宿場で栄えた地域だが、湧水が豊富なことでも知られている。交通量が多い街道に並ぶ商店の脇には、湧水を貯めて引き込む水槽が今もある。この水を求めて移ってきた店もあると聞く。市民が中心になり、湧水環境を保全していく活動が続けられている。

湧水に触れると、真夏には冷たく感じ、冬は暖かく心地よい。透明に澄んでいて名水に匹敵する水質の湧水もある。大地に降った雨が土を潤し、地下水となり、再び地上に現れるという健全な水循環を保っていくことで、川の国・埼玉では、将来にわたり、豊かな水の恵みを受けることができるだろう。

武蔵野台地の湧水模式図の画像

武蔵野台地の湧水模式図

新座市妙音沢の写真

新座市妙音沢

水環境担当 高橋 基之

お問い合わせ

環境部 環境科学国際センター 研究推進室 水環境担当

郵便番号347-0115 埼玉県加須市上種足914 埼玉県環境科学国際センター

ファックス:0480-70-2031

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