環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その25

ここから本文です。

ページ番号:21712

掲載日:2023年1月16日

埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その25

ダイオキシンはどうやって測るの?

人工ダイオキシンを加えて比較

ダイオキシンは毒性が極めて強く、ピコグラム(一兆分の一グラム)というごく微量の単位で、環境中の濃度を監視することが法律で義務づけられている。環境科学国際センターでは、空気や水、土など様々な環境試料に含まれているダイオキシンを分析しているが、分析には、高性能な装置(写真)のほかにも特別な技術が必要だ。

試料に含まれるダイオキシンは溶剤で抽出される。この抽出液には、ダイオキシンの他にも分析に邪魔な不純物が多量に含まれるため、これらを除く処理を行う。そして、ごく微少量でも装置で検出できるように、目薬一滴ほどの量にまで濃縮する。しかし、このようなわずかな液量を正確に調製するのは難しい。また、処理の過程でダイオキシンの一部を損失しているかもしれない。このままでは正しい濃度が得られない。液量が正確に調製できなくても、試料の一部が損失しても、正しい濃度を得るにはどうしたらよいか。

そこで用いられるのが同位体希釈法という技術だ。炭素の同位体(化学的に同じ性質の元素で、重さの異なるもの)のうち自然界には僅かにしか存在しないものを用いて、人工的にダイオキシンを合成し、あらかじめ試料に添加する。この人工ダイオキシンは環境試料中には存在せず、また、ほんのわずかに重さが異なるだけで、化学的な性質は変わらない。このため、処理の過程で損失しても、試料中のダイオキシンと人工ダイオキシンの割合は添加した時のままだ。したがって、試料中のダイオキシンと人工ダイオキシンの比を測定すれば、添加した人工ダイオキシンの量は分かっているので、試料中のダイオキシンの量を知ることができる。比さえ分かればよいので液量を正確に調製する必要はない。

試料中のダイオキシンと人工的に合成したダイオキシンを、それぞれ赤と黒の金魚に例えてみよう。池に赤い金魚がたくさんいるが、どうやって数をかぞえたものか。金魚はじっとしていてはくれない。かといって池から出して一匹ずつかぞえることなどとてもできない。そこで、決まった数の黒い金魚、例えば百匹を池に放してみよう。同じ金魚同士なので黒は赤と混じり合い、仲良く泳いでいる。そこで金魚をひとすくいして数をかぞえてみる。網の中の赤い金魚が黒い金魚の十倍なら、放した黒い金魚が百匹だから、赤い金魚の数はその十倍の千匹と計算することができる(図)。これが同位体希釈法の原理だ。

さてこの技術、便利な反面、問題もある。人工ダイオキシンは自然界に存在しないとはいえ、毒性に違いはないことから、取り扱いには万全の注意が必要だ。環境科学国際センターでは、化学管理区域という特別な施設を設け、ダイオキシンが外部に漏れ出さないよう、万全を期している。このように特殊な技術と施設を用いて、初めてダイオキシンによる汚染の監視が可能となる。

高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計の写真

ダイオキシンを分析する装置:高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計

同位体希釈法の原理の説明画像

同位体希釈法の原理:よく混ざり合っていれば、何匹採っても赤と黒の比は変わらない。
数の比から赤い金魚の数を割り出せる

化学物質担当 蓑毛 康太郎、細野 繁雄

お問い合わせ

環境部 環境科学国際センター 研究推進室 化学物質・環境放射能担当

郵便番号347-0115 埼玉県加須市上種足914 埼玉県環境科学国際センター

ファックス:0480-70-2031

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください

このページの情報は役に立ちましたか?

このページの情報は見つけやすかったですか?