答申第168号「開発行為許可申請書(平成22年9月7日受理)のうち開発行為許可申請書及び設計説明書(計2枚)」についての部分開示決定(平成23年10月11日)
答申第168号(諮問第216号)
答申
1 審査会の結論
埼玉県知事(以下「実施機関」という。)が平成23年1月31日付けで行った、開発行為許可申請書(平成22年9月7日受理)のうち開発行為許可申請書及び設計説明書(計2枚)(以下「本件対象文書」という。)を部分開示とした決定は、取り消すべきである。
2 異議申立て及び審議の経緯
(1) 異議申立人(以下「申立人」という。)は、平成23年1月14日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、次の開示請求を行った。
美里町内の工場建設に係る造成工事(今年1月以降に工事開始するもの)について
- 1 発注者、所在地、期間や工事規模等、建設工事の概要が分かる文書
- 2 造成工事の責任者及び連絡先が分かる文書
(2) これに対し実施機関は、平成23年1月31日付けで本件対象文書を特定し、次のとおり公文書部分開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、申立人に通知した。
- ア 本件対象文書のうち「申請者の住所、氏名、代表者の印影」は、条例第10条第2号に該当するため不開示とする。
- イ 本件対象文書のうち「法人の代表者の印影」は、条例第10条第2号に該当するため不開示とする。
- ウ 本件対象文書のうち「開発区域に含まれる地域の名称」は、条例第10条第1号に該当するため不開示とする。
- エ 本件対象文書のうち「工事施工者・設計者の氏名及び住所」は、条例第10条第2号に該当するため不開示とする。
- オ 本件対象文書のうち「設計者の氏名及び印影」は、条例第10条第1号に該当するため不開示とする。
(3) 申立人は、平成23年2月4日付けで、実施機関に対し、本件処分の取消しを求めて異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
(4) 当審査会は、本件異議申立てについて、平成23年3月18日に実施機関から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。
(5) 当審査会は、実施機関から、平成23年5月20日に開示決定等理由説明書(以下「説明書」という。)の提出を受けた。
(6) 当審査会は、平成23年6月30日に実施機関の職員から意見聴取を行った。
(7) 当審査会は、実施機関から、平成23年8月3日に補充の理由説明書(以下「補充説明書」という。)の提出を受けた。
(8) 当審査会は、申立人から、平成23年8月22日に意見書の提出を受けた。
3 申立人の主張の要旨
申立人が主張している内容は、おおむね次のとおりである。
(1) 本件処分の理由付記の不備について
- ア 条例第1条では、条例における解釈及び運用の基本原則として、「この条例は、県民の知る権利を保障するため公文書の開示に関し必要な事項を定める等情報公開を総合的に推進することにより、県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民の県政参加を一層進め、もって地方自治の本旨に即した公正で透明な開かれた県政の推進に寄与することを目的とする。」と定めている。情報公開を原則として認め、行政の透明性を確保することにより適正な権力の執行を担保することが、条例の趣旨であると考えられる。
- イ 本件処分は、理由開示が不十分であり、取り消されるべきである。実施機関の不開示理由は、「特定の法人に関する事項であって、開示することにより当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」のように、単に条例第10条の条文をなぞっただけで、開示により具体的にどのような不利益が生じるのかを説明していない。また、条例第10条第2号の規定について、「埼玉県情報公開条例に基づく処分に係る審査基準(知事)(平成20年2月22日総務部長決裁)は、「この『おそれ』の判断に当たっては、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められる。」と規定しているが、実施機関の不開示理由では、法的保護に値する蓋然性が示されていない。
さらに、開発区域の地番については、「特定の個人を識別することはできない」と認めておきながら、「公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあり」として、条例第10条第1号を適用している。どのように個人の権利利益を害するのかが、全く不明である。このような理由で情報を不開示にできるのであれば、どのような情報でも容易に不開示にできてしまい、条例が機能しなくなってしまうことになる。
- ウ 最高裁判所平成4年(行ツ)第48号警視庁情報非開示決定処分取消請求事件平成4年12月10日判決は、「理由付記は、開示請求者において、条例各号所定の非開示事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず、単に非開示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として十分でない」と判示している。他の地方公共団体の情報公開審査会においても、同様の判断がされ、処分が取り消されている。
- エ 埼玉県行政手続条例第8条第1項では、「行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合には、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。」と規定しており、同第2項では、「前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。」と規定している。
- オ 最高裁判所平成21年(行ヒ)第91号一級建築士免許取消処分等取消請求事件平成23年6月7日判決では、裁判官が次のとおり補足している。「昭和30年代後半以降の幾多の判例(中略)の積重ねを経て、今日では、許認可申請に対する拒否処分や不利益処分をなすに当たり、理由の付記を必要とする旨の判例法理が形成されているといえる(この判例法理の適用は、税法事件に限られるものではない。)。そして、学説は、この判例法理を一般に以下のとおり整理し、多数説はそれを支持している。その法理は、平成5年に行政手続法が制定された後も基本的には妥当すると解されている。1. 不利益処分に理由付記を要するのは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせることにより、相手方の不服申立てに便宜を与えることにある。その理由の記載を欠く場合には、実体法上その処分の適法性が肯定されると否とにかかわらず、当該処分自体が違法となり、原則としてその取消事由となる(仮に、取り消した後に、再度、適正手続を経た上で、同様の処分がなされると見込まれる場合であっても同様である。)。2. 理由付記の程度は、処分の性質、理由付記を命じた法律の趣旨・目的に照らして決せられる。3. 処分理由は、その記載自体から明らかでなければならず、単なる根拠法規の摘記は、理由記載に当たらない。4. 理由付記は、相手方に処分の理由を示すことにとどまらず、処分の公正さを担保するものであるから、相手方がその理由を推知できるか否かにかかわらず、第三者においてもその記載自体からその処分理由が明らかとなるものでなければならない。」
- カ 本件処分は理由付記に不備があり、仮に、取り消した後に、再度、適正手続を経た上で同様の処分がなされると見込まれる場合であっても、取り消されるべきである。
(2) 本件対象文書を開示すべきであると考える理由
- ア 本件対象文書は、埼玉県が構想段階での事前協議を受けたものではなく、都市計画法(以下「法」という。)第29条の規定により、開発行為の許可の申請を受けたものである。実施機関が開発行為を許可するか否かは、県民の生命、健康、生活又は財産に与える影響が大きいため、実施機関には開発行為の内容について県民に対して十分に説明する責務がある。美里町長は、本件開発行為の内容を公開している。
- イ 埼玉県内の多くの市町では、開発行為の事前周知を図るため、条例や要綱で、開発行為の許可の申請の前に、開発区域に標識(表示板、看板と称する市もある)の設置を義務付けている。このように、事業者が開発行為の許可を申請した事実は、公にされるべきものである。条例第10条第2号に規定する不開示情報には該当しない。
- ウ 開発区域の地名地番が、条例第10条第1号に規定する不開示情報に該当することもない。実施機関が弁明するように、土地の所有者情報が条例第10条第1号に規定する不開示情報に該当するのなら、埼玉県が保有する文書で土地の地名地番が記載されたあらゆるものが開示されない事態が起こることになる。最高裁判所平成15年(行ヒ)第295号公文書非公開決定処分取消等請求事件平成17年10月11日判決などにおいて、土地の所有者情報は個人情報に該当しないとの判断がされ、確定している。
- エ 以上の理由により、実施機関は不開示とした情報を開示するべきである。なお、事業者の印影については、判断を求めない。
4 実施機関の主張の要旨
実施機関が主張している内容は、おおむね次のとおりである。
(1) 不開示判断について
本件対象文書は、特定法人(以下「申請者」という。)が自己用の工場を建設する目的で作成したものであり、熊谷建築安全センターが受理し、現在審査中の案件である。
不開示とした情報のうち、「すべての印影、設計者(個人)の氏名」以外は、開発許可後に開発登録簿に記載され、法第47条第5項の規定に基づき公衆の閲覧に供されるため、開示情報となる。しかし、本件対象文書については開発許可前であることから、本件処分のとおり判断したものである。(説明書)
(2) 条例第10条第2号該当性について
- ア 申請者の住所、氏名、代表者の印影について
申請者が行おうとする工場建設は、当該法人の利益向上のための事業活動そのものである。よって、開発許可になっていない現時点で申請者の住所、氏名を開示することは、当該事業の推進に影響を及ぼし、申請者である法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれあり、条例第10条第2号に該当する。(説明書)
- イ 工事施工者・設計者の氏名及び住所について
工事施工者・設計者の氏名及び住所は、申請者の取引内容に関する事項である。そのため、審査中に取引相手先の名称及び住所を開示することは、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり、条例第10条第2号に該当する。(説明書)
本件対象文書の中に申請者の取引相手先としての設計者の氏名及び住所は記載されていないため、開示しない情報のうち「設計者の氏名及び住所」を削除する。(補充説明書)
- ウ 法人の代表者の印影について
法人代表者の印は、契約行為等に用いられ重要な意義があり、押印により債権債務をはじめとする、あらゆる意思表示に係る法的拘束力が発生するものであり、また、偽造されることもあり得る。よって、開示することにより当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり、条例第10条第2号に該当する。(説明書)
- エ 「おそれ」の判断について
開発許可は、申請の段階で申請者が開発区域の土地の権利を有しているとは限らず、土地所有者等の全員が必ずしも権利の移転、設定等に承諾するとは限らない。このような状態の現時点で第三者が介入した場合、申請者が求める利益の向上(工場建設)が平穏かつ無事に担保できるのかという問題が発生する。このことから、当該「おそれ」は法的保護に値する蓋然性がある。(説明書)
(3) 条例第10条第1号該当性について
- ア 開発区域に含まれる地域の名称について
開発区域に含まれる地域の名称は、許可前であるため、申請者が何らかの権利を有している土地とは言い難く、所在を明らかにすることで、申請書に記載されている土地の権利者である個人等の財産権利、利益を害するおそれがあり、条例第10条第1号に該当する。所在地のみでは個人は特定できないが、原土地所有者等の権利の移転等が未済と思われる土地(地番)を開発区域として開示することで、申請者に何らかの権利があるように解釈されやすく、個人の権利を害するおそれがあると判断した。(説明書)
1. 既に開示している開発区域の面積は、小字の区域の大きな部分を占めていること、2. 地番は土地登記簿謄本を確認することにより誰もがその所有者である個人を知り得ること、3. 筆数は小字及び地番とあいまって、区域に含まれるその他の地番を特定し得るものであること、の理由により、全体として特定の個人を識別することができる(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)情報であり、条例第10条第1号に該当する。(補充説明書)
- イ 設計者の氏名及び印影について
申請者から設計の委任を受けたものは法人であるが、本件対象文書には当該法人に所属する個人の氏名及び印影が記載されている。よって、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、条例第10条第1号に該当する。(説明書)
5 審査会の判断
(1) 不開示理由の追加及び変更について
実施機関は、当初、申請者の住所、氏名、代表者の印影を開示しない理由を、特定の法人に関する情報であって、開示することにより当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり、条例第10条第2号に該当するため、としていた。しかし、当審査会に提出した説明書で、申請者が行おうとする工場建設は、当該法人の利益向上のための事業活動そのものであり、開発許可になっていない現時点で申請者の住所、氏名を開示することは、当該事業の推進に影響を及ぼし、申請者である法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものであり条例第10条第2号に該当するとして、不開示理由を追加した。
また、開発区域に含まれる地域の名称については、当初、開発区域の地番は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあるとして条例第10条第1号により不開示としていた。しかし、当審査会に提出した補充説明書で、小字、地番及び筆数により表示されている開発区域に含まれる地域の名称は、全体として特定の個人を識別することができる情報であるため条例第10条第1号に該当するとして、不開示理由を変更した。
さらに、当初、条例第10条第2号に該当するとして不開示としていた設計者の氏名及び住所について、当審査会に提出した補充説明書で、これらの情報は本件対象文書に記載されていなかったとして、不開示情報から削除した。
行政処分における理由の付記は、実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、不開示理由を開示請求者に知らせることによって不服申立てに便宜を与える等、手続上の権利の内容をなすものである。そのため、当初の不開示決定における理由付けが十分でなく、不服申立てが行われた後に実施機関が不開示理由を追加及び変更することは常に否定されるものではない(最高裁判所平成8年(行ツ)第236号同11年11月19日判決)としても、情報公開制度の運用上、必ずしも適切なものとはいえない。
そこで、当審査会では、開示請求者に不服申立ての便宜を与える趣旨から、追加及び変更された不開示理由についても再度申立人に反論の機会を与えたところ、申立人は「本件処分は理由付記に不備があり、仮に、取り消した後に、再度、適正手続を経た上で同様の処分がなされると見込まれる場合であっても、取り消されるべきである。」として、不開示理由の追加及び変更に反対した。
確かに不開示理由の追加及び変更を認めることは、紛争の一回的解決により本件異議申立ての迅速な決定に資するものである。しかし、本件について、申立人は迅速な決定よりも、実施機関が本件処分の手続上の瑕疵を是正することを強く望んでいる。そこで、当審査会は、本件処分に適用される埼玉県行政手続条例第8条が理由付記(提示)を定めた趣旨にかんがみ、不開示理由の追加及び変更を認めず、実施機関の行った当初の決定内容についてその当否を判断するものとする。
なお、申立人は、法人の代表者の印影について当審査会の判断を求めていないため、これについては判断を行わない。
(2) 本件対象文書について
本件対象文書は、法第29条に基づき、申請者が開発行為の許可を受けるために実施機関に提出したもののうち、法施行規則第16条第1項に規定する開発行為許可申請書と、同条第2項及び埼玉県都市計画法に基づく開発行為等の手続に関する規則(以下「県規則」という。)第3条に規定する設計説明書の2枚である。
実施機関は、開発許可の申請があった場合において、当該申請に係る開発行為が法第33条に定める基準に適合しており、かつ、その申請の手続が法又は法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならない(法第33条)。そして、開発許可をしたときは、法第47条に掲げる事項を開発登録簿(以下「登録簿」という。)に登録し、当該登録簿を公衆の閲覧に供し、請求があったときはその写しを交付しなければならない(法第47条)。
県規則第11条の2に規定する登録簿の様式には、開発区域の名称、許可を受けた者の住所及び氏名並びに工事施工者の住所及び氏名が含まれていることから、開発許可後、これらの情報は公になる。
しかし、本件対象文書については実施機関における審査が終了していないことから、現在登録簿に登録されていないことはもとより、今後登録されるか否かも不明である。よって、当審査会においては、登録簿への登録について考慮することなく本件対象文書の開示・不開示を判断する。
(3) 条例第10条第2号該当性について
- ア 申請者の住所、氏名について
実施機関は、本件対象文書のうち、開発区域の面積、開発行為により工事を予定している建築物の用途、工事着手及び完了の予定年月日等、事業内容に係る情報を開示している。よって、申請者の住所、氏名を開示することにより、既に明らかにされている事業の実施主体が誰であるかを公にすることとなるものである。
一般に、法人が事業所や工場を建設するのは、事業拡大等に伴う新築又は既存施設の移転によるものであるが、このことは法人の経営戦略そのものである。実施機関に確認したところ、申請者は法第33条第1項第14号に規定する、開発許可の申請に必要な関係権利者の同意を得るために、開発区域内の土地の権利者に対しては本件対象文書に係る事業内容を説明しているが、それ以外に公にしている事実はないとのことである。よって、本件対象文書に係る情報は申請者である法人の事業経営に関する内部管理情報であり、公にすることにより、競合他社による対抗的事業活動等の営業妨害を可能とし、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため、条例第10条第2号本文に該当する。
一方、開発行為はその施行区域を含む地域のまちづくり及び人々の生活に影響を与えるものであることから、法は道路、鉄道、ごみ焼却場等の都市施設は都市計画により定めることとし(法第11条)、さらに都市計画を定める際の手続として公聴会の開催等(法第16条)、都市計画の案の縦覧等(法第17条)、都市計画の告示等(法第20条)を行うこととしている。また、開発行為をしようとする者は、公共施設の管理者の同意等(法第32条)及び関係権利者の同意(法第33条第1項第14号)を得る必要がある。さらに、上記(2)で述べたように、開発許可後は、開発行為の概要が登録簿に登録され公衆の閲覧に供される。このように、法は開発行為が住民の財産権や生活権を侵害することのないように種々規定をしているところ、本件において、当該規定を超えて条例第10条第2号ただし書を適用する特別な事情はない。
よって、当該情報は人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であるとはいえないことから、条例第10条第2号の規定により不開示とすることが妥当であると判断する。
しかし、申立人が主張するように、実施機関が当初示した開示しない理由は、条例第10条第2号の条文を示しているに過ぎず、当該条文に該当する理由について何ら説明していない。最高裁判所平成4年(行ツ)第48号同4年12月10日判決が示すように、理由付記制度の趣旨にかんがみれば、付記すべき不開示の理由としては、開示請求者において条例第10条各号所定の不開示事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず、単に不開示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として、十分でないといわなければならない。
よって、実施機関が当初示した開示しない理由は理由付記が不十分であると判断する。
- イ 工事施工者・設計者の氏名及び住所について
工事施工者の氏名及び住所は、申請者が開発行為に係る工事の施工を委託した相手先を示す情報である。法人の事業活動における取引先は、法人が自らの営業活動により開拓した商取引相手であり、その情報は法人の内部管理情報である。このことから、公にすることにより、当該法人が取引先からの信用を失うなど、権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものである。さらに、当該情報は上記アで述べたように、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であるとはいえないことから、条例第10条第2号の規定により実施機関が不開示としたことは妥当である。
なお、設計者の氏名及び住所は本件対象文書に記載されていない。
(4) 条例第10条第1号該当性について
- ア 開発区域に含まれる地域の名称について
実施機関は、地域の名称のうち大字名までを開示し、小字、地番及び筆数を条例第10条第1号に規定する個人情報に該当するとして不開示とした。そこで、小字以下の情報を開示することにより、特定の個人を識別することができるか検討する。
不動産登記法は、第119条により登記事項証明書の交付を、第120条により地図等の閲覧及び交付を、何人も登記所において請求することができる旨を規定している。そのため、小字、地番及び筆数を元に登記所において調査することにより、開発区域に含まれる地域の権利者が誰であるかをおおよそ知ることができる。
小字の一部地域しか開発区域に含まれていない場合には、小字のみで開発区域に含まれる地域の権利者を特定することはできない。しかし、実施機関は「既に開示している開発区域の面積は、小字の区域の大きな部分を占めている」と説明していることから、小字についても開発区域に含まれる地域の権利者が誰であるかを知ることができる情報であると判断した。
なお、申立人は「土地の所有者情報は個人情報に該当しないとの判断がされ、確定している。」旨主張しているが、これは土地の地番が既に公になっている場合において、土地登記簿謄本の閲覧により当該土地の所有者等を誰でも知り得ることを述べているにすぎず、当審査会の判断に影響を与えるものではない。
よって、小字、地番及び筆数は特定の個人を識別することができる情報であり、条例第10条第1号ただし書のいずれにも該当しないことから、条例第10条第1号の規定により実施機関が不開示としたことは、結果として妥当である。
- イ 設計者の氏名及び印影について
当該情報は、申請者が設計業務を委託した法人に所属する個人の、氏名及び印影である。よって、特定の個人を識別することができる情報であり、条例第10条第1号ただし書のいずれにも該当しないことから、条例第10条第1号の規定により実施機関が不開示としたことは妥当である。
以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
鈴木 幸子、早川 和宏、宮原 均
審議の経過
年月日
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内容
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平成23年3月18日
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諮問を受ける(諮問第216号)
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平成23年5月20日
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実施機関から開示決定等理由説明書を受理
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平成23年6月30日
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実施機関から意見聴取及び審議(第三部会第69回審査会)
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平成23年7月28日
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審議(第三部会第70回審査会)
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平成23年8月3日
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実施機関から補充の理由説明書を受理
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平成23年8月22日
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申立人から意見書を受理
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平成23年8月25日
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審議(第三部会第71回審査会)
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平成23年9月22日
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審議(第三部会第72回審査会)
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平成23年10月11日
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答申(答申第168号)
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