インタビュー・コラム

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掲載日:2024年2月2日

大石 懐子(おおいし なつこ)さん

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プロフィール

獣医学部卒業後、製薬会社にて創薬研究に従事。子育てに集中するため製薬会社を退職。その後、理系専門の人材派遣会社に勤める中で、「すべての子どもたちを社会に貢献できる大人にしたい」という思いからプログラミング教室とサイエンス教室を2017年4月に川越市に個人事業主として開講。多様化する子どもたちや保護者の様々な想いに触れながら、地域企業との関係も構築。事業の対象を拡げるため創業時の経営理念を一新し、2023年2月に法人化。
STEM教育を通して、子どもたちの未来に新しい可能性や選択や広がりを持たせ、創造力を高めるプログラミングスクールで、現在は川越教室、清瀬教室、お台場教室がある。
埼玉県川越市在住。二児の母。
「第3回 Saitama Women Pitch アイエフラッシュ賞」受賞
「Saitama Sports Start-up 最高賞」受賞(支援対象者に選抜)

STEM教育とは
S:Science T:Technology E:Engineering M:Mathematics
科学・技術・工学・数学の頭文字を並べた造語で、これら理工系の知識を統合的に学ぶ教育のこと。IT社会とグローバル社会に適応した「国際競争力を持った人材」を生み出す21世紀型の教育システムとして注目されている。

〇取材対象者〇
   代表取締役:大石 懐子(おおいし なつこ)さん

   URL: https://www.codience.net/

自分らしいサイエンス教室をやりたい!

私は幼少期から理系女子でした。幼稚園の時に、父が足し算の問題を出してくれて、解けるとすごく喜んでくれたので、それがとても嬉しかったのを覚えています。また、家には百科事典が全シリーズあり、その中でも「人のからだ」と「動物」が大好きで、特に人のからだは本がボロボロになるまで読み込んでいました。さらに、小学校の頃、理科の教科書にカエルの解剖の写真がありましたが、学校で解剖実験をすることはなかったので、「何でないんだろう、やりたいのに!」とずっと思っていました。大学では解剖学の研究室に入り、実験の方法を学びました。

私は小さい時の興味や特技が仕事に繋がっているのだと思います。自分の子どもが小学生や幼稚園生だった時は、キッチンにあるような材料を使って家で化学実験のようなことをよくやっていました。大学生の頃から白衣を着て、実験ばかりやってきましたが、なかなかそういうことを家庭でできるお母さんはいないと思います。我が子と一緒に実験するうちに、いろいろな子どもたちにも、身近に実験ができるところがあったり、私が教えてあげられたら面白いなと思うようになりました。

ただ、サイエンス教室をリサーチしてみると、世の中にあまりないということが分かり、きっとそんなに需要がないのかな…と思う部分が正直ありました。リサーチしたのが2016年だったのですが、「2020年に小学校でプログラミングが必修化」ということは知っていたので、「これからはプログラミングを教えるのもいいかもしれない!」と思いました。

しかし、私はサイエンスや実験ができてもプログラミングは専門外だったため、最初は理工系大学の学生をアルバイトとして雇いました。こうして、2017年に川越市内で会場を借りながら、小・中学生向けのサイエンス教室とプログラミング教室を立ち上げました。

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「想いをカタチに つながるミライに」

創業当時は、プログラミングやSTEMに触れ、興味を持ち、楽しく学ぶことで子どもたちを育てたいという思いがあったため、「社会に 貢献できる 大人に」を企業理念にしていました。しかし、その理念は、事業のお客様である子どものことしか考えていないものだったのです。そう気づいたのは、当社の従業員であるアルバイトの学生の「成長」に感化されたことがきっかけです。

アルバイトの中に、生徒とのコミュニケーションはできるのですが、人の目を見ることができなかったり、保護者に対する説明がうまくできないといった、いわゆる大人とのコミュニケーションがうまく取れない学生がいました。しかし、当社で働くうちに、社会人になる頃には冗談を言ったり、保護者にもきちんと説明ができたりするなど見違えるように成長しました。その時に、子どものためだけではなく、従業員のために、もっと広く言えば社会のためにも、Codienceが存在する意味を考えなくてはいけないと思うようになりました。

社会にとっても、地域にとっても”Codienceがなくなったら困る”と思ってもらえるような企業になっていかなければいけないという想いを込めて、2023年2月の法人化に合わせ企業理念を「想いをカタチに つながるミライに」という、より広いものにしました。

特定の枠組みにとらわれず、複数の分野にまたがって、私たちに関わる全ての人々に新たな価値と可能性を生み出していきたいです。また、私も子を持つ母なので、お母さんたちの困りごとなどを助けていきたいなと考えています。そういう意味で、家でなかなかできない勉強、学校では教えてくれない勉強のようなことをできる場所や教えてあげられる場所を提供するのが私の使命だと思っています。

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STEM & SPORTS(ステム スポーツ)

STEM & SPORTSを作ったきっかけは、埼玉県の「埼玉Sports Start-up(SSS)」への応募でした。これは、埼玉県内のプロスポーツチームと連携して新しい産業を創出することを目的に実施された事業です。私がこのSSSに応募した目的は、二つありました。

一つは、普段スポーツをしている子どもたちが将来、スポーツ選手生命を絶たれたあとでも、アナリストやデータ分析、チームを作るなど何らかの形でスポーツに関わってほしいという想いがありました。しかし、子どものころからずっとスポーツをやってきた子どもたちの中には、勉強が苦手な子どももいます。そのような子どもが「スポーツをやりながら楽しくSTEM教育に触れられる」ようなコンテンツを作りたいな、というのがありました。

SSSで西武ライオンズさんと取り組んだのが、「3塁ベースまでどうやったら早く走れるか科学しよう」です。論理的に言えば、直線で走った方が早いはずですが、実際は膨らんで走ることになります。「なんで膨らんで走るのか」をみんなで考えた時に、野球少年が、「野球と算数がこんなにつながるとは思わなかった!」という感想を持ってくれたり、興味を持ってもらえたりしました。当初の目的であるスポーツをやっている子どもたちにSTEM教育に興味を持ってもらう、触れてもらうという目標が達成できました。

もう一つは、「スポーツを論理的に捉えること」です。私は、子どもの頃は運動が得意ではなく、逆上がりができませんでした。今思えば、重心がここにあるから、こういうふうに腕を使って、こうやって足をあげたらできるんだ、と論理的に教えてもらえたら、なるほどな!とできたかもしれません。感覚的にできる人とできない人がいるので、できない人に論理的な仕組みを説明できれば、技術向上につながると思いますし、苦手なこともできるようになると思います。

このような2つの目的があり、STEM & SPORTSを考えました。スポーツの中にある理数系の要素を見出し、それらを活用しながら分析したり、人間ならではの能力をSTEM教育を通して、スポーツを通して引き出していきます!

プログラミング学習を生かし、創造力(創造性)を高める

現代はAIが発達してきており、今後も欠かせない分野になってくると思います。生徒・子どもたちには「AIにできないこと」をやれる大人になってほしいと考えています。例えば、Codienceに通っている子どもたちが全員プログラマーになるとは限りません。様々な業種に就くと思うのですが、その中で、自分が培ってきたプログラミングスキルや技術や考え方を融合させて新たな方法を作ってほしいなと思います。ただ単に人が作ったものを使う側ではなく、「生み出せる力」というものを持ってもらいたいです。

また、冒頭で、2020年から小学校でプログラミングが必修になっているとお話しましたが、どのように指導するかは先生や学校に委ねられていることが多く、地域や学校間で格差があるのが現状です。また、プログラミングを学んでいる子どもたちが、学校で評価してもらえる機会も少ないと感じています。もっと、子どもたちがやっているプログラミングを評価してもらえるような機会を創出したいと考えているので、いつか、川越市内でプログラミングコンテストを開催したいです。そして、川越が”プログラミング学習が盛んな街”になればいいな、と思っています。

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~STEM教育をいかに身近にするか~  ~居場所~

私自身は理系の教科が好きでしたが、世の中のプログラマーやエンジニアの女性比率は2割と言われています。やはり当社の女子生徒比率も2割です。そこを増やしていくことも大切ですが、どうやったらサイエンスやプログラミングの楽しさをより多くの子どもたちに伝えられるか、というのが課題です。

例えば、ロボットを作ったり、ゲームを作ったりする時、どんな仕掛けでやろうか、クリアの難易度はどうしようか、というのを考えて楽しそうにやる子と、グラフィックやデザインやストーリーを重視する子がいます。前者はプログラミング・STEMを取り入れて考えていますが、後者は優先させるのがデザイン(見た目)です。どちらも、私たちが日常を便利に過ごすためのツールやゲームには欠かせない素養です。そこで、前者はバックエンドの開発、後者はフロントエンドの開発というように、自身の強みを生かして開発に携われるよう指導を工夫しています。

また、当社の今後の可能性として、不登校支援に携わりたいと考えています。昼間は子どもたちが学校に行っているため当社は空きスペースとなっています。その時間帯にデジタルデバイスを活用したサードプレイスを作り、何らかの理由で登校できない子どもの居場所として、サポートしていきたいです。

失敗してもいい!とにかくやってみることが大事!

創業する前は、何から準備をすればよいのか分からなく、自分のやりたいことをインターネット上で探した事業計画書に書いただけの状態で、「いやぁ、無理ですよ」と笑われたらどうしよう…とドキドキしながら川越の創業支援ルームに相談しに行きました。しかし、「いいですね!これからきっと需要がありますよ!」と相談員さんに背中を押してもらい、「じゃあ、やってみよう!」と思いました。

また、創業するからには事務所を構えないといけないと思い込んでおり、お金もかかるしどうしようかなと思っていたところ、相談員さんに、「別に事務所は構えなくていいのではないですか。そして今お仕事されているのであれば、辞めない方がいいですよ。まずは安い施設を借りて始めてみて、やっていけそうであればやればいいし、難しそうであれば止めればいいんですよ」とアドバイスをいただきました。事業を始めるとなると、絶対失敗したらダメみたいなイメージがあったので、「ダメなら止めればいい」という言葉ですごく気が楽になり、救われました。

ですから、最初は仕事も辞めないで、あまりお金をかけずに自分でパソコンをかき集めて、安い施設を借り、週に2回、生徒2人からのスモールスタートで起業しました。創業支援ルームには入居できるスペースがあるのですが、創業して1年後に空きがでたのでそこに入居しました。3年間お世話になりましたが、その間に生徒数を増やし、自分のスキルアップをし、経営の勉強もし、現在の場所に事務所兼教室を構えました。

もし、やりたいことがあって迷われている方がいらっしゃったら、「失敗してもいいから、まずはやってみる」ことが大事だと思います。そして、相談することも大事です。自分の考えていることや想いをアウトプットすることにより、自分がどこまで行きたいのか、何をやりたいのかなどを周囲の人にも理解してもらえます。
まずは自分のできる範囲で一歩を踏み出してみましょう!!

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