インタビュー・コラム

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掲載日:2023年12月12日

松成 紀公子(まつなり きくこ)さん

File8_松成紀公子さん

プロフィール

2002年に育児中の母親が集まって起業した”女性だけの会社"。松成氏の子供が幼い頃アトピーと診断されたことをきっかけで日焼けと皮膚への影響を学び、日本で紫外線対策の重要性がまだ認識されていなかった頃にEPOCHAL(エポカル=英語で画期的なという意味)という日本で唯一の紫外線対策を目的としたブランドを確立。日本学校保健会の推薦(UVカット製品分野)を得ている製品を企画・製造しているのは、国内で(株)ピーカブーのスクールシリーズのみ。近年は、世界中から問い合わせがきており、日々チャレンジ、成長し続ける会社です。

○取材対象者○
 代表取締役:松成 紀公子(まつなりきくこ)さん

URL: https://epochal.co.jp/

息子を紫外線から守ることから始まった~EPOCHAL~

私の子供がアトピー性皮膚炎で皮膚科医に「日焼けや紫外線には気を付けてください」と言われたことをきっかけに、日焼けや紫外線対策について調べるようになりました。当時は紫外線対策について情報やUVカットの衣服がなく、試行錯誤でやっていましたが、ある日UVカットの生地を見つけました。しかし、「会社単位でしか販売していない」と言われてしまいました。自分の子供を守るために、会社を立ち上げることを決意し、主人にも相談し、応援を得られたので妊婦友達でもある佐藤さんと一緒に合資会社ピーカブーを立ち上げました。

会社を創立して最初に作ったのは、子どもサイズの90センチの赤と水色のウインドブレーカーです。作り方など分からないため、子どものウインドブレーカーを切ってばらして、新聞紙で型を取り、試作品を作りました。そこからそれを息子に着せていたのですがある日、「ママ暑い」と言われたので、メッシュを入れて作り直しました。当時は今よりも素材(生地)のバリエーションがありませんでしたが、当社の作る製品はすべて検査をし、その研究と製作の積み重ねでできたものが今の製品になっています。肌を覆っていても通気性を良くすることで、暑い時季でも心地よく着られるものを作りたいので、UVカット素材の検査は一番重要なことです。

子供服から始めたピーカブーですが、「本当に涼しいのですか?」という、ユーザー(保護者)からの質問が届きました。そこで、大人用も作ることにしたのですが、今はなんと、子供服よりも大人用の方が人気が出ています!

              帽子の試作品          上着

女性のキャリアを途絶えさせない

結婚する前は金融機関で10年働いており、営業もやっていました。スタッフは多彩なキャリアがある人ばかりです。現在、正社員3名とメンバー(アルバイト)15名が働いていますが、当社メンバーは育児中のお母さん達で週に数日、1日3~4時間くらいの勤務です。従業員の希望に応じ、働ける時間だけ働ける環境づくりを進めることで、当社が、女性が働き続けてキャリアを生かしていく場となればと考えています。今は短時間しか働けなくても、何年後かには子育てが一段落し、もうちょっと長く働けるようになり、正社員になる、という段階を提供して行きたいと思っています。

産後は、それまでの生活から一変し、1日中赤ちゃんや子供と一緒にいると、時折大人と接したくなる時がありました。また、出産育児を通して喜びや子供の成長を味わうことができますが、いざ働くとなると、人と話すのが怖いだとか、急にパソコン始められるかなとか、今の世の中ってどうなっているんだろう…など不安が多くなります。子育てを経験した私だからこそ、そこに手を差し伸べ一緒に働き、キャリアを繋ぎたいと思います。

現在働いているメンバー(アルバイトのお母さんたち)は、0歳から小学生の子供がいる人たちです。主婦でもありますので、ものすごくきめ細やかで、気配りも素晴らしいです。指示待ちではなく、自ら気付き、どんどん仕事をしてくれるので本当に助かっています。私が手伝おうとしても、「こちらは大丈夫ですから、松成さんはご自身の仕事やってて大丈夫ですよ!」と言われることもあります。社内の雰囲気はとてもいいと思います。

また、従業員の中には皮膚の弱い方がおり、「私にできることがないかもしれないのですが働きたい」という方がいました。その方には、逆にUV対策の意見を聞けたり、商品開発にも関わってもらったりしています。従業員が会社に合わせるのではなく、会社が従業員に合わせて働きやすい環境を提供する事が必要な時代ではないかと考えます。

起業した時から、働き方に関しては、時間、人、子ども、場所…など都度話し合って、いかに楽しく働くか、働きやすいか、というのを今も模索しています。

                    帽子3

生み出す、守る、育む、慈しむ、そしてチャレンジ!!

2018年には、紫外線対策先進国のオーストラリアのシドニーに行き、エポカルの機能性をアピールしました。同国のARPANSAという政府検査機関にて、一定以上の紫外線カット機能(紫外線防護係数(UPF)AS/NZS規格)を持つ製品であることが認められました。

                   オーストラリア

もともと日本では口コミなどで販路拡大しておりましたが、海外からも問い合わせがあったので、英語とフランス語でホームページを作ると、いろいろな国から問い合わせが来るようになりました。今ではアメリカ、フランス、モロッコ、サウジアラビア、アルゼンチン、パキスタン、オーストラリア、中国などからです。

近々JETROのプログラムでアメリカに行きます。海外の人たちが日本製品や防護服に対してどのように思っているのか、エポカルを見ていただき需要があるのかなどを調査してきたいと思います。日本のみならず、世界中で紫外線対策は課題です。肌の弱い方は日焼け止めを塗るのが難しいです。そのために「着る紫外線対策」としてエポカルはあります。特殊な繊維で作られた製品であり、薄く軽くさらにUVカット効果の高い・着たほうが直射日光を避けられて心地よいウエア、肌に優しいUVカット製品を作るよう、日々研究に励んでおります。

自宅からはじまり、今は和光理研インキュベーションプラザに本社を!

設立当初の合資会社のときは、育児をしながら会社を立ち上げたので、始業は11時、終業は13時で2時間しか営業時間がないときもありました。自宅で起業しわたしとスタッフの子供たちがいたため、取引先と電話するときはトイレかお風呂で対応していたこともあり、「今日も反響してますね(笑)」と言われることもありました。また、自分の子供だけではなく、スタッフの子供を抱っこしながら仕事をすることも普通でした。いろいろな子供がいたので、この子はおしゃべりするのが早いねや、コップで飲むのが早いねなどと、違いが見れて育児も合わせて楽しむことができました。

子育てと仕事の両立でつらかったことや苦労したことは特にありません。それは周りの支えがあったからです。私が日帰り出張で北海道に行ったときに、小学校から「お子さんが、お熱が出てしまったので迎えに来てください」と電話がありました。主人も仕事で帰りが遅いので夫婦ともにすぐには駆けつけることはできなかったですが、スタッフが自宅で夜まで子供の面倒を見てくれた、ということもありました。

また、当時のほとんどのスタッフが車の免許を持っていなく、スタッフのご主人も仕事で帰りが遅かったため、夜に子供たちの熱が出てしまい救急に行かなければいけない場合に、私が病院などに送って行けるようにいつも備えてました。スタッフ同士の助け合いが自然にできていたため、両立ができていたからこそ、苦労したという思いがないのかもしれません。

現在は、子育てが一段落し、仕事に注力しており、3年前から和光理研インキュベーションプラザに本社を構えています。和光理研インキュベーションプラザでは日々検査と研究を試み、エポカル製品の進化にチャレンジ中です!

                  理研                                        左 :井関典子さん…経理・製品管理・営業補佐
                  中央:松成紀公子さん…代表取締役/経営・製品企画・デザイナー・WEBデザイン・営業など
                    右 :佐藤一枝さん…顧客管理・WEBサイト管理(創業時からの右腕)

子どもたちへの紫外線教育にも力を入れていきたい

実は、遺伝子的には男性の方が紫外線に弱いということを知りました。しかし自分では紫外線に弱いということは気付きにくいです。「外に出るとなんでかゆいんだろう…」と思うことがあっても、自分が日光アレルギーや光線過敏症だということはまず思いませんよね。それを気づかせてあげるのが大切で、私たちが情報発信をしていかないといけないなと考えています。

色素性乾皮症(指定難病159)の人たちは、「難病だからあまり外に出たくない」「人に知られたくない」と私なりに想像していたのですが、交流会などで話を聞いてみると実はそうではなく、もっと知ってほしいということが分かりました。色素性乾皮症の子供たちのためにUV防護服の開発をしていますが、そのような人たちが過ごしやすい社会にするために、現在、小学校・中学校で色素性乾皮症の人がいること、顔が急に赤く腫れちゃうよ、ということを講座でお話しています。

紫外線対策の他にも、子どもたちの熱中症対策についても力を入れていきたいです。小学校の体育は帽子をかぶりますが、中学校の体育は帽子をかぶりません。先生たちからのご意見もいただいているので、中学生のための帽子を作ることも今後の目標としています。また、紫外線と紫外線対策については教科書に載っていないので、いずれは教科書に載れるような取り組みをしていきたいと考えています。

また、すでに導入されている小学校もありますが、こちらの通学用ヘルメット(※写真:エポカルUVカット帽子 着帽イメージ)も全国展開していきたいと考えています。きっかけは、東日本大震災であり、息子に制帽を作りたいと思ったことです。さらに、全国で起こる小学生と自転車や車との接触事故。弊社で作っている通学用ヘルメットは、見た目は通学帽子ですが、中に軽作業用の簡易ヘルメットを内蔵できます。また、2つのつばが前後に離れているので、フラップ型・テンガロン型・全方向フルサポート型と分けることもできます。サイズ調整もできるので、1年生から6年生まで使うことも可能です。紫外線対策もできる素材で作っているので、熱中症対策にもなりますし、ヘルメットを入れることによって通学時の事故も防げますし災害時の防災頭巾の代わりにもなります。

このように、1つのものを1つの使い方で終わりにするのではなく、何通りにも使えるようにアイディアを出し、作っていくのが私は得意です。今後も、予防医学的なウエアとしてエポカルを知ってもらえるように取り組んでいきたいと思います。そして、紫外線を浴びてはいけない方でも安心して外出ができるように、子どもたちが安心して生活していけるように、「エポカル」の製品を通じて社会に貢献していきたいと思います。

                                             学校帽                                          

                  

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