インタビュー・コラム

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掲載日:2024年1月18日

小室 舞(こむろ まい)さん

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プロフィール

2015年に夫が経営する医療法人徳明会に入り、経理、労務などを担当。同医療法人の居宅介護支援事業所の移転に伴い、地域の中での「介護の拠点・健康の拠点・シニアの居場所」をつくりたいと奔走し、2019年10月にマルトクカフェを開業する。居宅介護支援事業所に併設されたマルトクカフェでは、食を通じ、人と交流することにより心も体も元気になることを目指している。
また、自身のテレビ局やPR会社での経験や、MBA取得を生かし、マルトクカフェに人が集う工夫や新たな飯能土産として「天覧山プリン」の開発を行うなど、地域活性化にもその手腕を発揮している。
埼玉県飯能市在住。二児の母。
「SAITAMA Smile Women ピッチ 2020」優秀賞
「空き店舗ゼロリノベーションコンペ」令和元年度 最優秀賞
「埼玉県新商品AWARD(アワード)2021」入賞(天覧山プリン)

グラフ

〇取材対象者〇
   代表:小室 舞(こむろ まい)さん

URL:https://www.instagram.com/martokcafe/

マルトクカフェオープンまでの道のりと地域とのつながり

元々、医療法人徳明会が設置した居宅介護支援事業所をクリニックの近くに移転させる話があり、移転場所を探していたところ、飯能銀座商店街の鮮魚店の方から「ここの店舗(日用雑貨屋)をやっていたオーナーさんが店を閉めて1年半くらい経っていて、誰かに貸したいと言っているよ」と聞き、現在の場所に移すことになりました。自分たちで探していた時は商店街(飯能銀座商店街)に事務所を持ってくるとは夢にも思わなかったのですが、夫に話したところ「そういうのもいいのではないか」と言ってくれました。ここはとても奥行がある場所だったので、奥を事務所にして、商店街に面した場所は、居宅介護支援事業所に来た方がお茶を飲んだり、食事をしたりできるようなカフェスペースにしよう、ということになり、居宅介護支援事業所の移転に伴い、カフェも併設することになりました。それが2019年2月のことです。

実は、私は2016年度「輝け!飯能プラニングコンテスト」で、商店街に人と人との出会いの場を作り、コミュニティ再生の拠点を設ける、というプランを出して、優秀賞をもらっていました。その時はまだ次男が小さく、具体的に動き出すということはなかったのですが、居宅介護支援事業所にカフェを併設する話が出た時「そういえば、私自身、そういう場所をつくりたいと考えていた」というのを思い出しました。

カフェを併設するに当たり、医療法人では広く一般の方に提供する飲食業はできないため、急遽、合同会社を立ち上げ、私が代表となることになりました。「マルトクカフェ」のネーミングは、このカフェを設計し、内装のデザインも手掛けてくださった建築士さんの提案でした。徳明会の「トク」だし、「マル」というのも屋号のようで、なじみやすくていいね、と決まりました。

2019年10月1日に合同会社を設立して、10月15日からマルトクカフェがオープンとなりました。思い返せば、直前にいろいろなことがトントン拍子に決まり、必要な手続きをして、走りながらカフェオープンを迎えた状況でした。


外観

マルトクカフェで大切にしていること

2019年10月にマルトクカフェがオープンした当時は、飯能銀座商店街にカフェはなく、どちらかと言うと商店街は主に年配の方が買い物をする場所で、ここでお茶をする、人と集うという感じではなかったと思います。

マルトクカフェができて、ここでは大学生のカップルや子連れ家族、主婦のグループ、シニアのグループ、シニア男性、飯能を訪れた観光客や外国人など、幅広い世代の様々な方が食事やお茶を楽しまれています。そうした光景を見ると、商店街に新しい風景や新しい人の流れを作り出し、新しい価値を生み出すことができたと感じます。シニア男性がふらっとコーヒーを飲みにくる、というのも意外でしたが、うれしかったです。

食べることから健康になるし、誰かと話をすることで、心も体も元気になります。「○○さん元気そうだね」とか「最近来ていなかったけど、どうしていたのですか」とか、マルトクカフェでは、日常的にそんな会話ができる場所にしたいです。私は日頃、医療法人でも働いていますが、医療や介護の手前にある“予防”の役割をこのマルトクカフェで担うことで、地域の中での「介護の拠点・健康の拠点・シニアの居場所をつくる」ことを目指しています。

また、地域経済の活性化につながる事業を展開することも目指しています。私は結婚を機に飯能に移り住みましたが、地域の中で様々な方と知り合い、連携することで、飯能の魅力を発信したいと考えています。

マルトクカフェの店内は、壁やテーブルなど、飯能の地域ブランドである西川材をふんだんに使っています。お客様には「西川材だよね」と言われることも多く、ぬくもりのある店内の雰囲気は、市民の方にとって落ち着く場所になっているのかと思います。

オープンして半年も経たないうちに新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が発令され、店内飲食禁止となったので、テイクアウトを始めました。この時も大変でしたが、パッケージはどうしようとか、楽しみながらスタッフと乗り越えました。また、コロナ禍でのアウトドアブームで、飯能にキャンプや登山に来る方も増えたため、飯能土産になるものを作りたい、と思い、小規模事業者持続化補助金をいただき、スチームオーブンを入れて「天覧山プリン」を開発しました。このプリンは、飯能産の平飼い卵(放し飼いで育てている養鶏場の卵)を使っており、県物産観光協会の「埼玉県新商品AWARD(アワード)2021」で入賞したり、飯能市のふるさと納税の返礼品になったりしました。

店内の壁はギャラリーにして、月替わりで作品を展示しているため、画家の知り合いの方がわざわざ遠くから観に来てくださったりもします。

マルトクカフェで働くスタッフは皆「地域のために何ができるか」ということを考えています。それぞれにスキルがあって、調理ができる、お菓子が作れる、接客が上手など、そういうのを持ち寄ってこの場所が成り立っています。今後も、自分たちでも楽しみながら、来店してもらうきっかけを作って、飯能の魅力を多くの方に知ってもらう工夫をしていきたいと思っています。

ランチ      プリン

現在は医療法人の理事と合同会社の代表の二足のわらじ

私は結婚を機にそれまで勤めていた仕事を辞めて、主人の家業である医療法人徳明会の仕事を手伝うようになり、次男が生まれて少し経った頃からは、経理や労務をメインに業務を担っています。現在の肩書は、合同会社マルトクの代表であるとともに、医療法人徳明会の理事でもあります。

結婚するまでは、テレビ局で番組編成の仕事をしたり、PR会社で広報やPRの専門の仕事をしていました。また、テレビ局在職中に、視聴者のニーズに応える番組づくりをしたいと考え、マーケティングの勉強をするために都内の大学院に2年間通い、MBAを取得(経営学を修了)しました。こうした経験は、現在の医療法人での経理や労務の仕事、合同会社マルトクの設立、運営に役立っていると感じています。特に合同会社設立の際は、経営戦略や人事、組織、会計を考えていくのに抵抗はなく、準備を進められたと思います。

日々、自宅でパソコンに向かって業務をこなしたり、マルトクカフェに来たり、医療法人の会議があれば、老健に行ったり、クリニックに行ったり、銀行との打合せがあったり、と医療法人の仕事とマルトクカフェの経営は、比較的シームレスにこなしていると思います。

ただし、子育てとの両立は、私にとって日々課題です。日中は仕事優先で、子供が帰ってくる午後3時、4時までに仕事を終わらせておこうと思っていますが、業務の締め切りが迫っていたりするとなかなかそうはいかず、夕食を作る時間まで、気が付いたら仕事をしていることもあります。自宅で仕事をすることも多いのでなるべく仕事と家庭の時間を分けたいのですが、その線引きが難しいと感じることもあります。

飯能の魅力

飯能市は、面積は県で3番目に広く、人口は約7万9千人で、駅前の市街地に住んでいる人が密集しています。元々ここが地元の方も多いため、人とのつながりが深く、人の近さがつながりのつくりやすさにもなっていると感じます。マルトクカフェの店長で調理のリーダーを務める田中さんは創業時から一緒に働いていますが、夫が「カフェやりたいと思っているんだけど、いい人いないか」と美容師さんに相談し、紹介してもらったのがきっかけでした。こうした地域の方々とのつながりには、日々感謝しています。

また、飯能は材木と絹織物(飯能織物)で栄えたという歴史を、古くから残る建物で感じることもあります。リノベーションの街でもあり、マルトクカフェは令和元年度に埼玉県の「空き店舗ゼロリノベーションコンペ」で最優秀賞を受賞しましたが、令和2年度も飯能市内の「AKAI Factory」が最優秀賞を受賞しました。飯能市で2年連続最優秀賞を受賞したことは、とてもうれしく思います。明治時代、大正時代の古い建物がいくつか残っているので、もっとそうした建物が利活用されて、飯能の魅力が伝わるといいな、と思っています。

これからのこと、そして起業したい女性へのメッセージ

これから起業したい女性や、起業に限らず、何かやりたいことを秘めている女性にお伝えしたいのは、一人で「やりたい」と思っているだけではなく、「こういうことをやりたいんだけど」「こういう人知らないか」と、人に話してみることがすごく大切、ということです。

私は「SAITAMA Smile Women ピッチ 2020」で優秀賞を受賞したことをきっかけに、毎年受賞者が集まる交流会に参加しています。交流会で「こういうことで困っている」と話すと、いろいろな方から「こうしたらいいよ」とか「インスタでこういうのできますよ」とかアドバイスがいただけます。また、先日、交流会に参加されていた方がご自身の夢の実現の相談のためにマルトクカフェにいらっしゃいました。話を聞いていると、「あの方と同じようなことをやりたいのかな」と思い当たる人がいたので、一緒にその方のところに行ったところ、それをきっかけに自分の夢の実現に向けて少しずつ動き出した、ということもありました。一人で悩んでいるのではなく、人に相談したり、自分から情報発信してみることが大切だと実感しています。

私自身は、多くの人が交流する場を作りたい、飯能の魅力を発信したいと考え、マルトクカフェの経営を通じて、その夢が実現できていると思います。今後は、シニアの方が飯能市で地域コミュニティに参加しながらウェルビーイングな生き方ができるよう、さらに事業(サービス)を発展させていくことを考えています。地域の方とのつながりを持ちながら、そこに住む方が楽しく暮らしていけるようなお手伝いができるよう、今後も模索していきたいです。

団らん

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