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掲載日:2024年4月2日

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答申第159号 「国費捜査費支出証拠書及び県費捜査費支出証拠書のうち捜査費の個別の執行に係る書類(平成19年8月分 大宮東警察署)」の不開示決定(平成22年12月21日)

答申第159号(諮問第203号)

答申

1 審査会の結論

埼玉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が、平成21年12月11日付けで行った「国費捜査費支出証拠書及び県費捜査費支出証拠書のうち捜査費の個別の執行に係る書類(平成19年8月分 大宮東警察署)」(以下「本件対象文書」という。)を不開示決定とした判断は、妥当である。

2 審査請求及び審議の経緯

(1) 審査請求人は、平成21年10月13日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、「平成19年8月分大宮東警察署の捜査費(国費、県費)に係る支出のわかるもの」の開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。

(2) 実施機関は、本件開示請求に対して、平成21年12月11日付けで、条例第10条第3号及び第1号に該当するとして公文書不開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、審査請求人に通知した。

(3) 審査請求人は、埼玉県公安委員会(以下「諮問庁」という。)に対し、平成22年1月27日付けで審査請求書を提出したところ、平成22年2月4日付けで諮問庁から補正を依頼され、同年2月9日付けで補正書を提出し、審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。

(4) 当審査会は、本件審査請求について平成22年4月7日付けで諮問庁から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。

(5) 当審査会は、平成22年5月14日に諮問庁から理由説明書(以下「説明書」という。)の提出を受けた。

(6) 当審査会は、平成22年5月25日に審査請求人から反論書の提出を受けた。

(7) 当審査会は、平成22年7月21日に諮問庁の職員から意見聴取を行った。

3 審査請求人の主張の要旨

審査請求人が主張している内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 不開示決定通知書には、主な理由として捜査機密に係るとのことであるが、他の県警では、機密部分を黒塗りし、閲覧できるケースが多く、これによって不正プール金の所在が判明したことは周知の事実である。個別情報が開示されないのでは、「不開示による裏金づくりの疑念」は払拭されない。

(2) 捜査費の個別の執行に係る書類の内容について、捜査費転用や先の○○○警察による裏金報道にみられるような裏金づくりがなかったか否かを確認したい所存である。前述の裏金報道によると、個別リストの氏名について確認したところ関係のない者の名前と押印があり、これをチェックしたら裏金プールが発覚したとのことであった。「○○○警察にはできて、埼玉県警にはできない」とは思いたくない。
「大宮東警察署は適正な処理をしたことを確認したい」、その一点で、個別の情報開示を求め、不開示決定とされた処分を取り消し願いたい。

4 諮問庁の主張の要旨

諮問庁が主張している内容は、説明書及び諮問庁職員による意見聴取から、おおむね次のとおりである。

(1) 捜査費の概要

  • ア 捜査費の性格
    捜査費は、経費の性質上、特に緊急を要し正規の支出手続を経たのでは事務に支障を来し、又は秘密を要するため通常の支出手続を経ることができない場合に使用できる経費で、現金経理が認められている。
  • イ 捜査費の具体的な使途

(ア) 犯罪の捜査等に従事する職員の活動のための経費

  • a 聞き込み、張込み及び追尾等に際し必要となる交通費、飲食費及び入場料等の諸経費
  • b 拠点等のための施設の借上等に要する経費
  • c 早朝及び深夜等における捜査員の交通費

(イ) 捜査等に関する情報提供者等に対する経費

  • a 情報提供者等に対する謝礼
  • b 情報提供者等との接触に要する経費
    • ウ 捜査費の個別執行の手続
      捜査費の会計経理については、警察本部長を警察全体の出納責任者たる取扱責任者とし、捜査費を執行する警察本部の担当課長等及び警察署長を各所属における出納の責任者たる取扱者(以下「取扱者」という。)としている。
      取扱者は、捜査費の執行の必要が生じたときは、捜査員に捜査費を交付し、捜査員は債主(情報提供者等及び飲食店等)に対して所要の支払をした後、取扱者に支払精算書及び領収書等を提出して精算を行う。
      なお、捜査諸雑費(日常の捜査活動において使用する少額多頻度にわたる軽微な経費)は、取扱者から中間交付者(警察本部においては担当課長補佐等、警察署においては捜査部門の課長)を経て捜査員に交付され、支払後の精算も中間交付者を経て行われる。
    • エ 国費捜査費と県費捜査費
      警察法施行令(昭和29年政令第151号)第2条は、都道府県警察に要する経費のうち国庫が支弁するものを規定しており、捜査費についても、同条に該当するものについては国の予算により、その他のものについては県の予算より執行される。

(2)本件対象文書について

本件対象文書は、捜査費の執行の過程において作成及び取得されるものであり、これらの文書には、

  • 捜査費の支払をした捜査員の官職及び氏名
  • 捜査費の支払年月日
  • 捜査費の支払の相手方及び支払い金額
  • 捜査費の支払事由(捜査対象事件名、捜査目的及び捜査活動場所等)
    等の個別執行情報が記録されている。

(3)条例第10条第3号該当性について

本件対象文書に記録された情報が条例第10条第3号に該当すると判断した理由は、次のとおりである。

  • ア 事件に係る捜査費の個別執行情報
    捜査費の個別執行情報は、捜査活動を費用面から表すものであり、一の執行に関する情報が即ち捜査に関する情報であるばかりでなく、これを相当期間に係る開示請求により事件単位にまとめることが可能となれば、当該事件の捜査体制、捜査方針、捜査手法及び捜査の進展状況といった捜査情報の把握を容易にする情報とみることができる。
    このことに鑑みると、これらの情報が公になれば、当該事件の捜査の全容把握が可能となり、被疑者等事件関係者が逃走、証拠隠滅を図り、あるいはこれを奇貨として更なる犯罪等を企てるおそれがあり、犯罪の捜査等に支障を及ぼすおそれがあることは明らかである。また、警察が現実にどのような体制・方針をとり、どのように捜査を進めているのかといった分析ができる。
    このような個別執行情報に基づく捜査手法等の分析がどの程度可能であるかはケースバイケースであるが、当該事件について新聞、雑誌等から得られる情報のほか事件関係者等から得られる各種情報との照合によって、分析精度が高まり、犯罪の捜査に支障を及ぼすことになることは明白である。
    一度開示した情報は何人の手にも渡り得るほか、悪意を有する者が開示請求をするおそれがある以上、条例第10条第3号に該当する。
  • イ 情報提供者等に係る情報
    本件対象文書に記録された情報のうち、情報提供者等に係るものについては、前記アに述べた理由が該当するほか、これらの情報を公にすることにより、情報提供者等が特定又は推測され、これらの者が被疑者等の事件関係者から報復を受けるおそれがあること、更には、当該事由から以後の協力を得ることができなくなるおそれがあることから、犯罪の捜査等に支障を及ぼすことは明らかであり、条例第10条第3号に該当する。

(4)条例第10条第1号該当性について

本件対象文書に記載されている情報提供者等の氏名及び住所等並びに情報提供者等以外の者の氏名並びに慣行として公にされていない警部補以下の職員の氏名及び印影は、「特定個人を識別することができる情報」であり、条例第10条第1号に該当する。

(5)捜査が終了した事件における個別執行情報の開示について

犯罪者が過去の事件の捜査手法等を踏まえ、警察力の手薄な地域やその時期を割り出すなどして新たな犯罪を企図し、犯罪の痕跡を隠滅する方法等の分析がかなりの精度で行われるおそれは否定できない。

(6)部分開示の可否の検討について

条例の趣旨に鑑み、部分開示の可否について検討したが、捜査費の執行情報の中には開示しても支障のない部分は存在しないと判断した。その理由は以下のとおりである。

捜査手法等の分析を意図する者が、調査活動等によって当該事件に関する独自の情報を有している可能性があり、それがどの程度の情報であるか分からない以上、当該情報との照合・分析をすることによって、事件関係者等による逃走、証拠隠滅のおそれや捜査手法等に応じた対抗措置を講じられるおそれが生じないとは断定できない。

また、特に、暴力団等の犯罪組織などは、警察の動向に応じた対抗措置を講じるため、捜査活動に関する情報の入手に力を注いでおり、相当期間における捜査費の個別執行文書に記録された情報と独自調査により得た情報との照合によって、その確度を高め、犯罪の実行を容易にするおそれがある。

情報提供者等は協力者の存在自体の完全な秘匿を犯罪捜査の協力の条件としているため、仮に部分的に開示されたことが情報提供者等の知るところとなれば、情報提供者等との信頼関係に支障を来し、以後の協力を受けることができなくなるおそれがあるほか、今後警察に情報提供をしようとする者にも萎縮効果をもたらすおそれがある。

警察署名や決裁欄の印影等について、これらを明らかにすることにより、執行件数から捜査活動の活発の度合いを推認することができ、犯罪者や犯罪を企図する者へ治安維持に支障をきたす情報をもたらすこととなるため、公開することができない情報であると判断している。

事件捜査の一般的な経過は、事件の端緒を入手して、証拠収集等の内偵捜査を経て、被疑者の検挙に至るものである。捜査費は、事件の端緒を入手する際や証拠収集の際における情報提供者等への謝礼や接触にかかるものであり、捜査費の執行件数や執行額が増加している場合には、捜査活動が活発で、捜査が重要な局面を迎えていることを推察されることとなる。

警察本部による捜査は、警察署と一体となって行うものである。大宮東警察署又は他の警察署が、警察本部主管課と共同で捜査している場合には、事件主管課と関係警察署の捜査費の執行件数や金額を見ることで、どのような犯罪を捜査中なのかも推察が可能となる。

また、執行金額等が増加している状態から、どの事件を捜査していたものか報道等の状況から推測でき、被疑者であれば、報道等の情報と自ら行った犯罪の日時・場所等を比較・分析することによって、捜査の手が伸びているかどうか、かなりの確度で推察することが可能となる。本件対象文書は1か月分であるが、これが開示され、同様の開示請求が繰り返されれば、相当期間にわたる捜査情報が開示され、捜査状況等の分析が可能となる。

(7)結論

犯罪が多様化、複雑・巧妙化し、捜査が困難化している現状にあって、いかなる手段を利用しても、警察の手の内を探り、その裏をかこうとする犯罪者・犯罪者集団に対して、警察の厳正な対応が求められている。

長年の警察活動により培ってきた捜査手法や情報提供者等との信頼関係等が揺らぐ事態は、県民の生命、身体、財産等の安全に対する直接の脅威と治安の著しい悪化を招き、県民に対して回復し難い不利益を課す結果となる。

こうしたことを踏まえ、前述のとおりの判断をしたものであり、処分は妥当なものである。

5 審査会の判断

(1)本件対象文書について

本件対象文書は、国費捜査費及び県費捜査費の支出証拠書のうち捜査費の個別の執行に係る書類で、具体的には、「捜査費支出伺」、「支払精算書」、「立替払報告書」、「支払報告書」、「捜査費交付書兼支払精算書」、「支払伝票」及び「領収書等」の各文書である。

諮問庁の説明によれば、これらの文書の作成主旨及び記載内容等は次のとおりであると認められる。

  • ア 捜査費支出伺
    一般捜査費の場合は、取扱者が捜査員に捜査費を交付するときに作成するもので、発議年月日、支出額、交付を受けようとする捜査員の官職・氏名、交付金額、支出事由及び交付年月日等の情報が記載されている。
    捜査諸雑費の場合は、取扱者が中間交付者に捜査諸雑費を交付するときに作成するもので、一般捜査費の場合に記載する「交付を受けようとする捜査員の官職・氏名」の代わりに、「中間交付者の官職・氏名」を記載する。
  • イ 支払精算書
    捜査員が取扱者に対して自らが執行した捜査費の精算をするために作成するもので、発議年月日、捜査員の官職・氏名・印影、既受領額、支払額、支払年月日、支払事由等の情報が記載されている。
  • ウ 立替払報告書
    捜査員の手元に捜査費がなく捜査員が立替払いをした場合に、精算請求するために作成するもので、発議年月日、捜査員の官職・氏名・印影、立替金額、支払年月日、金額、支払先、支払事由等の情報が記載されている。
  • エ 支払報告書
    情報提供者等に金銭による謝礼を支払った場合で、相手方が領収書作成を拒否するなど、領収書の徴取ができなかった場合に作成するもので、発議年月日、捜査員の官職・氏名・印影、債主者(情報提供者等)の住所・氏名、支払額、支払日時・場所、支払理由・状況、領収書未徴取の理由・状況等の情報が記載されている。
  • オ 捜査費交付書兼支払精算書
    中間交付者が捜査員に捜査諸雑費を交付し、月末に取扱者に対してその精算を行うために作成するもので、発議年月日、中間交付者の官職・氏名・印影、既受領額、交付額、支払額、返納額、各捜査員への交付年月日、交付を受けた捜査員の官職・氏名、交付額、支払額、返納額及び確認印等の情報が記載されている。
  • カ 支払伝票
    捜査員が執行した捜査諸雑費の支払を中間交付者に報告するために作成するもので、発議年月日、捜査員の官職・氏名・印影、支払年月日、金額、支払先、支払事由等の情報が記載されている。
  • キ 領収書等
    謝礼を受けた者が作成し、支払精算書又は支払伝票等に添付するもので、領収額、あて名、領収年月日、債主者の住所・氏名・印影等が記載されている。
    物品購入等については、店舗等のレシートや領収書が支払精算書又は支払伝票等に添付されている。
    なお、大宮東警察署における平成19年8月分の捜査費の個別の執行に係る書類においては、上記のうち、立替払報告書及び支払報告書はその作成がなかったため、存在しておらず、本件対象文書には含まれていない。

(2)本件審査請求について

本件審査請求は、実施機関が条例第10条第3号及び第1号の不開示情報に該当するとして本件処分を行ったことに対して、審査請求人が、他の県警では機密部分を黒塗りし、閲覧できるケースが多く、個別情報が開示されないのでは、「不開示による裏金づくりの疑念」は払拭されない旨を主張し、本件処分の取消しを求めて行ったものである。

そこで、当審査会は、以下、実施機関が行った本件処分における条例該当性及び部分開示の可否について検討を行う。

(3)条例第10条第3号該当性について

  • ア 条例第10条第3号は、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として規定している。
    本号の趣旨は、地方公共団体の責務として、社会生活の基盤となる公共の安全と秩序を維持し、県民全体の利益を擁護するという観点から、公文書の開示による犯罪その他の社会的障害の発生を防止することにある。
    本号に該当する情報については、その性質上、開示又は不開示の判断に犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められることから、実施機関の第一次的な判断を尊重すべきであるが、その判断については、実施機関の裁量を無制限に認めるものではなく、合理性を持つものとして許容される限度内のものでなければならない。
  • イ 本件対象文書は、大宮東警察署において平成19年8月に捜査費の執行の過程において作成・取得されたものであり、捜査費の支払をした捜査員の官職及び氏名、捜査費の支払年月日、捜査費の支払の相手方及び支払金額、捜査費の支払事由(捜査対象事件名、捜査目的及び捜査活動場所など)等の個別執行情報が記録されている。
  • ウ 諮問庁は、上記の個別執行情報を相当期間にわたり開示請求することで、当該執行情報を事件単位にまとめることが可能となれば、それらの情報から、当該事件の捜査体制、捜査方針、捜査手法及び捜査の進展状況といった捜査情報が把握できるとしている。
    本県の場合、犯罪件数の多さが全国的にも上位にあるほか、組織犯罪対策を行う「組織犯罪対策局」が設置されていることが示すように、組織化・広域化した犯罪が増加している現状にある。このような本県の状況からすると、組織犯罪を企図する者等が、開示請求などの手段を利用して捜査情報の把握に努め、各種情報等との照合により捜査の進展状況や捜査手法などの分析を行う可能性の高いことが推測できる。
    組織犯罪の事件関係者等が当該事件に関する捜査情報を把握した場合には、当該情報とその事件に関する報道等から得られる情報及び事件関係者のみが知り得る情報等を比較・分析することにより、自らに捜査が及んでいるか否かといった捜査状況の推察が可能となり、逃走及び証拠隠滅を図るおそれ、又は、それを奇貨として更なる犯罪等を企てるおそれが推測される。
    さらに、捜査が進行中である事件に関する個別執行情報について、組織犯罪を企図する者等が当該情報を入手した場合には、犯罪捜査において警察が採っている体制・方針や捜査の進め方などがあらかじめ分析されることにより、今後の犯罪捜査への対抗措置を講じられるおそれが予想される。
    また、捜査が終了した事件に関する個別執行情報について、諮問庁が主張しているように、それらの情報が開示された場合、当該情報から過去の事件の捜査情報の分析が可能であることから、組織犯罪を企図する者等がそれらを踏まえて犯罪捜査への対抗措置を講じるほか、新たな犯罪を企図する可能性があることも否定できない。
  • エ 諮問庁は、本件対象文書に記載されている個別執行情報のうち、特に、情報提供者等に係るものについては、これらの情報を公にすることにより情報提供者等が特定又は推測されるとしている。また、個別執行情報の開示請求を相当期間にわたり行うことによって、定期的に発生している執行情報が仮に確認できた場合には、情報提供者等が常に存在していることを推測される可能性があり、特に、組織犯罪者集団等の場合には、その可能性を探ろうとするおそれが高いとしている。
    諮問庁が主張しているように、開示請求により公にされた情報から、組織犯罪者集団等が仮に情報提供者等を特定又は推測できた場合には、これらの者が被疑者等の事件関係者から報復を受けるおそれがあることは否定できず、また、情報提供者等と捜査員との信頼関係が崩れることにより、以後の協力を得られなくなるおそれがあることも否定できない。
  • オ 以上より、本件対象文書に記載された個別執行情報は、公にした場合、犯罪の捜査等に支障を及ぼすものであることが否定できず、条例第10条第3号に規定する「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」であるとした、実施機関の判断には合理的な理由があると認めることができる。

(4) 条例第10条第1号該当性について

本件対象文書に記載されている情報提供者等の氏名及び住所等、情報提供者等以外の者の氏名及び印影並びに慣行として公にされていない警部補以下の職員の氏名及び印影は、特定の個人を識別できる情報であるため、諮問庁の主張のとおり条例第10条第1号に該当することが認められる。

(5) 部分開示の可否について

  • ア 本件対象文書に記載されている情報のうち決裁欄及びあて名等の情報については、条例第10条第3号に該当しないという考えもあり得るため、以下部分開示の可否について検討する。
  • イ 仮に部分開示を認めた場合、個々の文書に記載されている不開示情報部分は開示されないが、対象文書の全体量(枚数)は明らかとなる。
    この点につき諮問庁は、グラフをもとに過去1年間の県内のある警察署における各種事件の捜査状況と捜査費の個別執行文書の枚数及び執行金額の間に比例関係があることの説明を行った。
    また、諮問庁は、当審査会における本件対象文書の見分の際に、大宮東警察署の平成21年度の捜査費の個別執行文書を月ごとに分類したものを示し、その期間内に発生した具体的事件を例としてあげながら、当該事件の新聞報道記事をもとに、当該事件の捜査活動の進展状況を、文書の枚数の推移から推察することが可能であることの説明を行った。
  • ウ そして、諮問庁が当審査会に示したグラフ及び月別の個別執行文書の枚数の増減の変化から、当該事件の捜査活動の進展状況を確認することができた。
    したがって、諮問庁が主張するように、個別執行文書の枚数等が明らかになることで、その枚数等の多寡が分かり、併せて、当該事件の報道情報等といった各種情報との照合・分析を行うことによって、当該事件の捜査期間や捜査状況等が推察される可能性は否定できない。
    組織化・広域化した犯罪が増加している本県の現状からすれば、組織犯罪者集団などは、これらの情報を取得しようとするおそれが高くなるものと思料され、諮問庁が主張するように、捜査状況等が推測された場合には逃走・証拠隠滅のおそれがあるほか、過去の情報から捜査継続期間等の分析が行われた場合には、今後の犯罪捜査への対抗措置を講じられるおそれもある。
  • エ 確かに捜査費執行文書の枚数情報自体は文書に記録されたものではないが、以上によれば、執行文書の枚数情報が記録されている文書と同様に考えられることから、諮問庁の主張には合理的な理由があり、部分開示により提供されることになる執行文書の枚数情報は、条例第10条第3号に該当することが認められる。
    加えるに、「開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該公文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。」とする条例第13条の規定の趣旨からすれば、「開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書の枚数情報を提供するだけで、不開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該開示請求を拒否することができる。」との解釈も可能である。
  • オ また、諮問庁は、個別執行文書が部分開示された場合、情報提供者等から今後の協力が得られなくなるおそれがある旨を主張しているが、組織犯罪者集団等の存在を考慮した場合、その主張には合理的な理由があるものと認められる。
  • カ さらに、部分開示の可否を条例の趣旨との関係で考えてみる。
    条例第1条は、「この条例は、県民の知る権利を保障するため公文書の開示に関し必要な事項を定める等情報公開を総合的に推進することにより、県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民の県政参加を一層進め、もって地方自治の本旨に即した公正で透明な開かれた県政の推進に寄与することを目的とする。」と規定している。
    しかし、情報公開の総合的推進という趣旨を尊重しても、県民の安全を損なう情報まで開示することを求めているわけではない。
    以上より、本件処分において、実施機関が行った部分開示をしないという判断は妥当であると認められる。

以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

6 附帯意見

審査請求人は、審査請求の理由として裏金づくりの疑念の払拭をあげている。

当審査会において、諮問庁に対して、捜査費におけるチェック体制について尋ねたところ、内部組織である警察本部会計課監査室のほか、県監査事務局、警察庁、会計検査院などの外部機関によって、書面による検査や捜査員への対面による検査が行われているとのことであった。また、諮問庁は、特に捜査諸雑費において、交付した金額から多額の残金が返納されている現状から、必要な金額しか使用していないことが推測でき、審査請求人が抱いているような懸念はないと主張している。

しかし、捜査費の個別執行情報を不開示としたままであれば、条例第1条に定める「県の諸活動を県民に説明する責務」を全うすることはできない。

そこで、将来的には県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるように、公文書の適正な管理、保存及びその利用のありかたについて検討されるよう、当審査会はすべての実施機関に対して望むものである。

(答申に関与した委員の氏名)

鈴木 幸子、田村 泰俊、早川 和宏

 

審議の経過

年月日

内容

平成22年4月7日

諮問を受ける(諮問第203号)

平成22年5月14日

諮問庁から理由説明書を受理

平成22年5月25日

審査請求人から反論書を受理

平成22年7月21日

諮問庁から意見聴取及び審議(第三部会第61回審査会)

平成22年8月19日

審議(第三部会第62回審査会)

平成22年9月9日

審議(第三部会第63回審査会)

平成22年10月12日

審議(第三部会第64回審査会)

平成22年12月21日

答申

お問い合わせ

総務部 文書課 情報公開・個人情報保護担当

郵便番号330-9301 埼玉県さいたま市浦和区高砂三丁目15番1号 埼玉県衛生会館1階

ファックス:048-830-4721

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