インタビュー・コラム

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掲載日:2023年12月12日

金井 宏樹(かない ひろき)さん

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プロフィール

株式会社ディーアイケイ (URL: https://www.dik.co.jp/)
サポート部 課長
埼玉県在住。35歳。一児の父。
2015年に、ホームページ制作やDX研修事業などを手掛ける株式会社ディーアイケイに営業として入社し、2019年より課長職。2020年11月~2021年5月までの6か月間、同社の男性としては初めて育児休業を取得した。

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Webディレクターとして泥臭い日々を積み重ね、中堅社員に

前職ではパソコンの販売や修理に関する仕事をしていましたが、BtoBで自分の裁量が大きい仕事をしたいと考えていた時に、現在の会社の求人(データに基づいた分析・企画検討や顧客への提案を行う業務)に出会い、入社することとなりました。Webのアクセス解析や業界のマーケティング、そして何よりも顧客の声(ターゲットやコンセプト等)をよく聞きながら、企業のブランディングや売上向上を目指して、Web制作を行っています。入社した当初から「データに基づき、それを活用しながら理論的にものごとを組み立てて、顧客に提案することは、自分の性に合っている」という直感的な考えを強く持っていましたが、Webディレクターとして必要な知識や経験は入社後に培いました。

自分が顧客に提案したことの成果が、Webのアクセスの流れや企業の売上など、数字として現れるため、責任重大です。例えば1か月後思うような成果が上がっていない場合には「何が原因なのか。改善するには何ができるのか」と、課題に対して次のアクションを起こさないといけないので、そうした苦労の連続がノウハウとして蓄積されて、今の自分に繋がっています。

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コロナ禍に妻が出産、そして会社の男性で初めての育児休業取得

結婚し、会社では課長職になり、これからますます頑張っていこう、と思っていた矢先に新型コロナウイルスで緊急事態宣言が発令され、今までにない、先の読めない不安な状況下に置かれました。結婚式は飛んでしまいましたし、妻が出産する際に立ち合うこともできませんでした。

妻の妊娠が分かってから自分の家族のこれからのことをいろいろと考えました。自分は生まれてくる子どもの父になり、妻は母になり、家族として成り立たないといけない、 “家族で生活していく”ことの大切さを、コロナ禍でより一層身に染みて感じたからかもしれません。妻とそうした話をする中で、妻も私が育児休業を取得することを望んでいることが分かりました。

また、私の父親は団塊の世代で、「24時間戦えますか?」が流行語となった時代の働き方をしていました。母は専業主婦で私と弟を育て上げてくれたので、幼い頃の私の記憶に母と過ごした思い出はありますが、父と過ごした思い出は多くありません。今思えば、父は働くことで自分たちを育ててくれたんだと思いますが、自分がどんな父親になりたいかを考えた時に、「パパはいつも仕事をしていて、家にいなかった」と自分の子供にはそう思ってほしくないな、と思いました。パパと過ごした時間を記憶に残してほしいし、自分も子どもの成長を記憶していたい。たとえ、年収何千万円稼いだとしても買い戻せない時間だと思ったので、育児休業を取得して、この時間を共にしようと考えました。

「“男なのに”育児休業を6か月も取るんだ」という考えの方も未だいらっしゃるとは思います。私は、子どもを育てると言った場合に、ママだけではなくパパにも子どもの身の回りの世話をするとか、勉強を教えるとか、そういった子どもを育てていく能力が備わってないといけないと考えています。また、妻も仕事をしているので、自分にその能力が備わってないと、妻が、例えば「疲れがたまっているので少し休みたい、気分転換したい」といった場合にそうさせてあげられない、妻の選択肢を奪ってしまう状況にもなりかねません。むしろ、男性は産むことはできないから、妻よりも率先して育児に携わっていかないといけない、と私は考えています。夫婦でどのように子育てをしていくか、を考えた時に、私たちは夫婦で育児休業を取得して、子どもを育てるペースを一緒に築いていこう、と考えました。

育児休業で、子どもにとっての、妻にとっての自分の存在意義を実感

娘が生まれて、1か月間は妻が実家に戻っていたので、2か月目から6か月間、私は育児休業を取得しました。役割分担を明確に決めていたわけではありませんが、娘のおむつを替えて、ミルクをつくって、授乳して、泣き止まない娘をあやして、服が汚れれば着換えさせるなど、とにかくやれることを全てやりました。特に最初のうちは、妻の体調を戻すため、娘だけではなく、妻の様子もよく見ていたと思います。妻にも“ここは自分がやりたい”という領域があることが分かったので、妻が気持ちよく家の中で過ごせるようにすることを意識していました。

いろいろと初めてで、大変なこともありましたが、育児休業を振り返ると、「楽しかった」です。毎日娘の顔を見ていると、ちょっとずつの変化が分かります。娘の成長を間近で見ることができたことは、例えば、年をとった時に娘の小さい時のことも自分が語れる、といった財産にもなると思っています。また、この間に私の育児のベースができました。家事や育児をやろうと思えば自分もできる状態になった、そうした自信がついたことで、お互いに協力し合い、カバーし合いながら育児をしている現在にもつながっていると思います。

育児休業中、妻に言われて強く印象に残っていることがあります。育児休業を取得して4か月目くらいに、妻も育児のリズムが整い安定してきたので、少しでも稼ぐことが必要かなと考えて「そろそろ仕事に戻ってもいいかな」と相談したことがありました。そうしたら「家にいて欲しい。日中、子どもと2人きりになると、気持ちが煮詰まってしまうこともある。そうした時に、「このテレビつまらないね」でもいいので、話を聞いてくれたり、そこに居てくれるだけでも安心する」と言われました。コロナ禍で様々なコミュニティが閉鎖され、親ともリアルになかなか会えない状況があったからかもしれませんが、世の中の育児をしている女性、女性に限らず、ひとり親家庭の親などは相当大変だったのではないか、と思いを馳せることができました。

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育児休業を取得する際と復帰時の準備は念入りに

育児休業を取得する際は、中間ポジションの課長職として、社長から任される仕事やサポート部(営業)の業務管理、部下の育成などを担っていました。2020年4月に入社した直属の部下もいたので、11月からの育児休業に入るまでの間、できるかぎり顧客との打合せに同席してもらい、営業職として顧客と信頼関係を築くための立ち振る舞いなど基本的なことも含め、具体的な気づきを与えるように指導をしました。

また、業務上、必要な情報にスムーズにアクセスできるよう、これまで自分が関わった案件やそれに付随する情報を、育児休業に入る1、2か月前までに、数か月かけて整理をしました。現在進行中の案件だけではなく、例えば「自分が育休中にかつて契約に至らなかった案件が動き出した場合」のために、その時の見積や提案資料、経緯などを整理したり、顧客への説明の際に用いている参照資料など、こういうことが起こったらこういう情報が必要になってくる、ときめ細かに想定しながら準備を進めました。自分が休んでいる間に、代わりに仕事をすることになる者が業務に必要な情報がすぐに分かる状態にしておくというのは、引き継ぐ上での基本になりました。

育休中は、仕事の対応はしませんでしたが、「何かあったら相談に応じる」という態勢ではいました。

6か月の育児休業からいざ復帰する際には、復帰した初日から、すぐに動き出せるように1か月くらい前から準備をしていました。Web制作に関する知識や業界の動向は、日々の変化のスピードが速く、常に知識やスキルのアップデートが必要です。復帰して、すぐに顧客との打合せに出向いたとしても、最新の必要な情報を身に付けた状態で対応できるよう、情報収集したり勉強したり研鑽を積んでいました。

また、復帰してから、育児休業取得がマイナスに働く状況に陥ってしまうと、社内の男性社員が育児休業を取得しづらくなってしまいます。私は、周囲の男性社員に「(子どもが生まれたら)育児休業を取ったほうがいいよ。俺も取ったよ。」と言いたかったので、会社で初めて男性として育児休業を取得するモデルケースになりたかったし、それに必要な努力はしたと思います。

子育ての経験は自分の糧となり、仕事にも生きている

現在は娘も3歳になり、「どこにいるの」と私が探さないといけないくらい、元気に動き回る子になりました。妻も働いているので、お互いのスケジュールや子どもに関するスケジュールを共有して、それを見ながら仕事をしています。妻の帰宅時間が遅くなりそうな時は、可能であれば私が在宅ワークに切り替えて、お迎えや買い物などの対応をしたり、お風呂掃除をしたり、自分が担当する家事を習慣づけてやるようにしています。

娘と話しをしていると、根本的なことを聞かれることもあり、先日は「どうしてパパは仕事にいくの」と聞かれました。正面から答えることが難しくて、苦慮しましたが、こうしたやりとりは、自分の仕事上での発想や考え方に役立っていると思います。子どもができて、周囲に「達観してきたね」とよく言われるようになりました。これまでは数字などの根拠をもとに理論的に説明していく手法だったのが、人間や社会の原理原則や本質的なところを捉えて説明をするようになったからだと思います。娘とのコミュニケーションや育児をする中で、視野が広がり、視座が高まったのかもしれません。

私が育児や、育児と仕事のバランスで悩んだ時の頼れる存在は、職場や昔からの知り合いといった先輩方です。同じような苦労をしてきているので、腹を割って話し理解してもらえます。本当に煮詰まっている時は、やはり誰かに話しを聞いてもらうことが有効だと思います。

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育児休業は「取った方がよい」というより「取るべき」

育児休業について悩んでいる男性がいたら、「ぜひ、育児休業を取ったほうがいいですよ。楽しいですよ。」と伝えたいです。

仕事ファーストの方にとっても、管理職など自分のポジションが上がり、人を動かす場面が増えていく中で、子どもとのコミュニケーションや子育ての経験は生きてくると考えます。もちろん、どのように子育てをしていくかは夫婦の考えに依るもので様々なカタチがありますが、「仕事が忙しいから」「自信がないから」と言って育児休業を取得しない男性が多いままでは、女性に家事や育児が偏る現状はなかなか変わっていかないと思います。私は育児休業を取得したことで、自分が思い描く父親や夫に近づくことができ、妻も含めて自分たちの仕事と育児のバランスを築いていくことができ、人生が豊かになっていくことを感じています。自分の経験が、育児休業を取得しようとしている男性を応援するようなカタチで貢献できたらいいと思っています。

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