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掲載日:2026年5月26日
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第74回埼玉県美術展覧会の受賞作品、6部門70作品についての審査員講評です。
審査主任 三浦 光祥
出品数は近年減少傾向にありましたが、第73回展および第74回展においては増加に転じました。これは、出品可能な最小サイズ規定が撤廃されたことが主な要因と考えられます。一方で、展示が困難なほど小型の作品も見受けられました。しかしながら、小作品でしか表現し得ない独自の魅力も確かに存在しており、今後のさらなる発展が期待されます。また、公募作品には 60号・50号といった大作も多く、テーマも多岐にわたり、出品者それぞれの個性と創意が十分に発揮されていました。加えて、高校生による出品が増加している点も特筆すべき動向であり、若い世代の成長に大いに期待したいところです。
煌々と光るライトに浮かぶ幾筋もの線路。暗闇のなか夜明けと始発を待つばかりのひと時の静けさです。電車の運行が始まればまたいつもの喧騒に包まれる街の時間と音の、静から動への移ろいが伝わってきます。大胆な明暗の構成と細部の描写のバランスがリズムよく表現されています。賞にふさわしく堂々とした完成度の高い作品で、作者のこれからの創作活動が大変楽しみな作品です。
全体を包む淡い色調が非常に美しく、作品に柔らかく澄んだ空気感をもたらしています。その穏やかな色彩の中に、暗い夜空を映す窓が効果的に配置されており、画面全体を引き締めるとともに、空間に奥行きと静かな緊張感を与えております。また、窓辺に佇む少女の瞳は強い存在感を放ち、鑑賞者に語りかけるような深い感情の動きを感じさせます。清潔感と静謐さが調和した、大変よい作品になりました。
朝の雑踏の中を足早に行き交う人々は、当然会話もなく職場や学校に急ぐばかりで他人に気を配る余裕もない···。そんな朝の日常を、描かれた1人ひとりに息吹を込めた作品です。この人は今日どんな希望や気持ちで目的地に行くのだろうか?観る人にそんな思いを抱かせます。日本画らしい平面的な表現が、街の空気感を新鮮に捉える事に成功した作品になりました。
マジックミラーに映り込む人物が面白い角度で捉えられ、現実と虚像が交差する不思議な世界が巧みに表現されています。会場にいた人々が小さく映り込むことで、空間に多層的な奥行きが生まれ、作品全体に静かな臨場感が加わっています。もし色調がもう少し明るく、どこかに鋭い光が差し込んでいたなら、ミラーの輝きや反射のドラマ性がさらに際立ち、作品の魅力が一段と深まったのではないでしょうか。
盛りの時期を過ぎた秋の紫陽花ならではの、微妙な色合いが日本画的で大変美しく、咲き誇る姿とは異なる味わい深さが人生の機微をも思わせます。花と葉、背景の色調を巧みに響き合わせた点も絵画的効果を高めています。下部の約15cmほどがやや単調に見えるため、もう一工夫加わると作品全体の完成度がさらに高まると思われます。
身近なモチーフを対象とした、デザイン性を感じさせる構成が新鮮な作品です。目に飛び込んでくるターコイズブルーの美しさに引き付けられ、スプーンと右上の白との関係性も面白く、散りばめられた色の呼応も軽妙です。張られた寒冷紗は色の境界を緩やかにし、表現に柔らかさを与える工夫として効果的です。皿内部を少し整理すると、モチーフの動きがさらに生きてくるように感じました。日常にふっと安らぎをくれる素敵な作品です。
伝統的な日本画の技法と現代的な感性が見事に融合した力作です。人物表現はいきいきとしており、黒いコスチュームと背景の金箔との対比が強い印象を与えています。背景の金箔には練り上げ技法による木々が描かれ、手前の木にはたらし込みが効果的に用いられており、人物をより引き立てています。高校生とは思えないほど技量が高く、今後の成長が非常に期待されます。
緻密で繊細な絡み合う細かな根と、一体化した幹、それらが水面に映る影、その全てが秋の柔らかな光の中で、静かに力強い存在感を示しています。水位の変化で洗われた根の独特な造形美を、卓越した技術で見事に表現された素晴らしい作品です。
審査主任 山本 耕造
今回の県展には1,115点もの意欲的な出品が寄せられ、厳正な審査の結果、530点が入選となりました。具象から抽象まで幅広い表現が並び、いずれの作品からも作者の個性と創作への並々ならぬ熱意が伝わってきました。入選作品は、構図の工夫や配色の調和に優れているだけでなく、独自の視点によるモチーフの切り取り方、細部に至るまでの丁寧な描写など、観る者を惹きつける確かな魅力を備えていました。
一方で、表現したいという純粋な熱意は強く感じられるものの、技術的な整理が追いつかず、思いが十分に画面に結実していない惜しい作品も見受けられました。何を削ぎ落とし、何を際立たせるのかという選択の視点を持つことも、大切にしていただければと思います。
出品者の皆様には、今後も自身の内なる声や目の前の事象と深く対峙し、感性をより自由に、そして大胆に広げていかれることを期待します。
静謐な空気感と、油彩特有の豊かなマチュエールが見事に融合した力作です。巧みな色層の重なりが画面に深い奥行きを与え、果実や瓶といったモチーフ一つひとつの存在感を鮮明に際立たせています。周到に配置された洋ナシは、まるで「秘めやかに香る」静かな時間を象徴するかのようで、その穏やかな世界に折り鶴の鮮やかな色彩が軽やかなアクセントを添えています。作者の内なる静けさと鋭い視線が響き合い、静物画でありながら豊かな物語性を感じさせる秀作です。
作者は、近隣に自生するハマナスの一生を丹念に見つめ、花が実へと変わり、やがて朽ち、再び芽吹くという命の循環を静かに、しかし深い洞察をもって描き出しています。 その周囲にはトンボをはじめとする生き物たちがひっそりと息づき、共生する姿が、作者独自の視点によって鮮やかに浮かび上がります。朽ちゆく植物のくすんだ赤と背景の明るいブルーとの対比は、作品全体に明暗のリズムを生み、それぞれの色が持つ魅力を際立たせています。観察の細やかさと表現の確かさが心に深く残る、完成度の高い作品です。
静かな空気感の中に確かな存在感を放つ秀作です。木材の乾いた質感や竹箒の細密な描写、使い込まれた袋の風合いなど、一つひとつのモチーフに対する真摯な観察眼と高い描写力が光ります。「若井商店」の文字が時の流れを想起させ、抑制された色彩が作品に深い叙情を与えています。配置のバランスも絶妙で静かな画面から作者の温かい眼差しが伝わる力作です。
白黒の世界観を徹底して追求した力作であり、作者の強い意欲が作品全体から伝わってきました。構築的に組み上げられた建造物の中に人の顔が溶け込むように配置され、遠くを見つめる視線が緊張感を生み出しています。画面構成は非常に優れており、大胆な構図が高いオリジナリティを支えています。多様な画材を駆使し、モノトーンでありながら豊かな階調を引き出している点も見事でした。ダイナミックな構成としっかりしたコンポジションで響き合う色調がきれいでした。
宅地の周囲に広がる森閑とした冬の雑木林と降り積もった白雪とのコントラストの中にたたずむ作者の眼力と透徹とした描写力が光っている秀逸な作品です。単調な表現になりがちな冬の雑木林を、極めて精緻な筆致と確かな表現力を駆使し、表情豊かな屹立する落葉樹叢林空間を現出していると共に、繊細で微妙なグレッシュトーンが白雪皚皚をより一層際立たせる効果を生み出している点も併せて評価したいと思います。
印象的な赤系の色調を基調とした、非常にパンチのある作品です。「消火器」と「爆弾」という相反するモチーフの組み合わせに、作家の明確な意図とユーモアを感じました。個性的な題材選びから、8年前に県議会議長賞を受賞された作家であることがすぐに想起されます。画面構成もよく練られており、錆びた金属の質感やホイールの光沢、ミニチュアを思わせるトラックなど、細部への観察と描写が丁寧に追求されています。背景に小さく抜ける街並みや、夜空を映し出す窓の表現が、作品全体に物語性を与え、鑑賞者の想像を広げてくれます。今後もぜひ県展での継続的な発表を期待しています。
作品は、パネルに寒冷紗を張ってしっかりとした下地を構築したうえに描かれており、卓越した描写力が際立ちます。人物の表情は凛とした女性像として魅力的に捉えられ、衣装や床の質感に至るまで丁寧に描写されている点も高く評価できます。豊かな色彩と誠実な観察眼によって、日常の一瞬を静かに切り取ろうとする姿勢が作品全体に表れており、画家としての真摯な取り組みが伝わってきます。次回作では、どのような情景の中に人物が置かれ、どのような物語性が生まれるのか、さらなる表現の広がりを期待しています。
都市の裏側に潜む現代的な情景を的確に捉えており、日常では見過ごされがちなビルの背面の光景を新鮮な視点で提示しています。構図は整理され、視線の導線も自然で、作者の観察力と画面構成力の確かさが感じられます。全体を支配するグレー調の色彩は、都市の無機質さや静けさを巧みに表現しており、そこに置かれたアクセントカラーが画面を引き締め、作品に明確なリズムと緊張感を与えています。また、題材の選択から構図、色彩に至るまで、作者が何を見せたいのか、どのような都市像を描こうとしているのかが一貫しており、制作意図の明瞭さが作品全体を強く支えています。視点の独自性と表現の確かさが際立つ力作です。
昨年に続く連続受賞となりました。本作は、モチーフや風景を写実的に描いた作品が多い中で、絵画の本質である色と形の構成によって画面を成立させた抽象作品として、審査員の高い共感を得ました。特に、基調となるブルーに、中心のグリーン、白、ピンクをバランスよく配置した構成が心地よい調和を生み、作品全体に清々しい印象を与えています。また、爽やかな季節感が感じられるのは、作者が風景や庭の木々といった自然からのインスピレーションをもとに制作していることが大きく、抽象でありながら自然の息づかいが画面に宿っています。色彩感覚や構成力など、作者の持つ優れたセンスが画面全体に行き渡り、すがすがしい作品に仕上がっています。
早春の気配が満ちるゴルジュを題材に、作者は山岳風景の持つ緊張感と季節の移ろいを巧みに描き出しています。V字谷特有の険しさの中に、木々の芽吹きが柔らかな色調で表現され、水彩ならではの透明感が作品全体に爽やかな空気をもたらしています。谷を登る人物は風景に溶け込むように小さく描かれ、その存在がかえって谷のスケール感と迫力を強調している点が印象的です。また、手摺りの斜線が画面にリズムを与え、構図上のアクセントとして効果的に機能しています。細密な岩肌の描写と、春の兆しを感じさせる繊細な色遣いが調和し、作者の山への深い愛情と観察眼が伝わる秀作です。
切り開いた紙風船という独創的なモチーフの着想に加え、逆三角形の構図が生み出す軽やかさと、思い切りのよい画面構成が相まって、力強く印象に残る作品となっています。以前の淡い有彩色による表現から、現在の無彩色を基調とした画面構成へと転換されており、黒の持つ強さや量感を積極的に意識されている点がうかがえます。今後、無彩色のトーンにさらに多様なバリエーションを追求すると共に、主役である紙風船により細密な描き込みを施すことで、鑑賞者を圧倒する迫力と作品の質が一段と高まると期待されます。
港に停泊している漁船を見事に切り取った作品です。色彩にも作者ならではの独自の感覚が表現されており、画面からは心地よい風さえも感じられます。優れた画面構成のもとで、特に水面の表現が素晴らしく丹念に描き込まれた漁船は存在感を放っています。確かな観察力とデッサン力に裏打ちされた描写から、作者の想いが豊かににじみ出る優れた仕上がりです。
秩父札所を正面から捉えた安定感のある構図が印象的で、全体を包む落ち着いた経年色が情緒を深めています。中央に配された鈴緒の鮮やかな赤が画面を引き締め、作者が強調したい焦点を的確に示しています。お札や文字に至るまで細部への配慮が行き届き、丹念な筆致から作者の真摯な姿勢が伝わってきます。また、天井に落ちる影の表現が空間の奥行きを巧みに生み出し、臨場感を高めています。
ガラス面に映り込んだ樹木と館内の書架が重なり合うことで、独自の奥行きと視覚的なリズムが生まれ、非常に興味深い作品となっています。とりわけ、作者が対象に向ける鋭い感性と、色彩に対する確かな感度が作品全体を魅力的に引き立てており、鑑賞者の視線を自然と作品世界へと誘います。自身の持ち味がしっかりと表現されている点は大きな強みです。今後もこの感性をさらに磨き、制作活動へと発展させていくことを期待しています。
生命は海から誕生したといわれています。深海の象徴であるダイオウイカを画面上部に大きく配し、装飾的な海藻のモチーフとともに、サメと融合した人物像を中心に据えた、非常にインパクトの強い作品となっています。人物の表情、とりわけ挑戦的なまなざしには、生命の起源や存在の意味について深い思索を巡らせる強い意志が感じられます。また、イカの足まわりや人物の顔半分を覆う鮮烈な赤色の使い方が実に効果的で、現代を生きる人間が抱える不安を表現している点が印象的です。
エッチング・アクアチントによる雁皮刷り銅版画と思われます。植物の清楚な生命感が滲み出るような表現が心地よい印象を醸し出しています。ニードルによる綿密な描画が、銅版画特有の鮮明で力強い描線と、併せて繊細な表現が同居した魅力に富んだ作品であり、妥協を許さない確かな技量に裏打ちされた制作工程がうかがえます。適正なコンポジションと相まって明晰な作画意図が凝集した秀作です。
画面全体に描かれた曇った窓の質感が非常に巧みで、そこに指で拭き取られた部分から現れる顔の描写は細部まで丁寧に描かれており、見る者を引き込む力があります。大胆な画面の切り取りも効果的で、遊び心が感じられます。また、いきいきとした学生生活の一瞬を捉えた表現は、画面いっぱいに明るいエネルギーが溢れ、鑑賞者に爽やかな印象を与えています。高校生作品の中でも目を引く発想力が評価され、奨励賞に選出されました。これからも、日常の中にある面白さや美しさを楽しみながら、のびのびと制作を続けてください。
フレッシュな筆致とやわらかい色彩が心地よく響き合い、現代的で洗練された画面構成が際立つ魅力的な作品です。アクリル画の特性を十分に理解し、技法を的確に使いこなしている点も評価できます。風を受けながら力強く歩む女性像は、画面に軽やかな動きをもたらし、作品全体に前向きなエネルギーを与えています。長い時間をかけて培われたであろう独自の表現が、確かな存在感を放っています。
画面全体を覆う静謐な気配と、深みのある色彩が見る者を深くひきつけます。特に、水面に映り込む景色の揺らぎや、丹念に重ねられたマチエールの質感が秀逸です。具象的な対象を超え、光と影がなす沈黙の時間を鮮やかに描き出しており、研ぎ澄まされた美意識が結実した作品です。
審査主任 杉田 龍
昨年を上回る81点の一般出品作品が寄せられました。今回は賞金100万円新設の効果もあり、例年以上に大型作品や表現意欲あふれる作品が数多く見られ、作者それぞれの強い挑戦意識が感じられました。また、高校生による出品も目立ち、若い世代ならではの柔軟な感性や、それぞれの思いを込めた表現が印象に残りました。具象表現から抽象造形まで幅広い作品が並び、素材の扱いや構成にも多くの工夫が見られ、それぞれの作者が独自の表現を追求していたことが感じられます。力作が多く集まる中で入選作品を絞り込むには大変頭を悩ませ、惜しくも選外となった作品にも意欲的な試みや魅力ある表現が数多く見受けられました。若い世代の出品者には、学校卒業後も制作を続け、今後の県展を支える存在としてさらに活躍していくことを期待します。
今回の作品は、昨年出品し埼玉県教育委員会教育長賞を受賞した作品の連作を思わせる内容です。鉄パイプや鋼材に切り込みを入れたり、円錐状に絞ったり、槌目を施したりと、多彩な工夫が随所に見られます。さらにカラフルなレンズカバーを組み合わせることで、昨年同様にカンディンスキーの抽象絵画を想起させるような印象も感じられます。全体のコンポジションもよく整理されており、軽やかなリズム感を備えた完成度の高い作品に仕上がっています。
石膏による上半身の人体像が、木材を組んだ台座の上に乗った作品です。大げさな動きは無く、わずかな動きの変化に、繊細で上品な感性がうかがえます。左右の手首から先は省略されていますが、木製の下半身と共に、その不在は程よく全体の中に調和しています。作者は人体構造をよく理解しており、首から肩そして胸にかけての一連の造形は見事で、優れた造形感覚を感じさせます。石膏の材質感を活かした自然な着色は、作品の好感度をさらに高めています。作者は高校生ですが、そのような前提は不要な素晴らしい作品です。
一見、道標の様ですが、正面にはめ込まれた赤い目と左右側面に彫り込まれた目に気づき、裏側の優しく閉じた目を見た瞬間、作者が目だけでは見ることができない五感全体で感じる何かをテーマにしたことに気づきます。大小の穴と上部のスリットをすり抜け遊ぶ風が見えるようで、空間を取り入れた大きく動きのある作品です。
空想上の生き物である龍を、まるで実在する生物のような迫力と存在感で表現した作品です。細部まで丁寧に作り込まれた形態には強い生命感があり、鋭い眼差しや躍動感のある姿からは、今にも動き出しそうな脈動が感じられます。樹脂粘土という素材を生かしながら、独自の世界観を高い完成度でまとめ上げています。
「dialogue(対話)」という題名が示すように、二枚の木の板によって生まれる縦長の空間の中に、口のようなスリットを持つ立方体が集まり、互いに語り合うような情景を感じさせる作品です。浮遊感のある構成や全体のバランスも美しくまとめられており、木材の質感を生かした、軽やかな空間表現が印象的です。
静かに立つ少年像に、内面に向かう緊張感を感じます。また、上を見上げた表情に未来への希望も感じさせてくれます。コスチュームの下にある体のボリュームを損なう事なく的確に粘土づけされた作品は、生命力を強く感じさせ、作者の力量が遺憾なく発揮されています。作者は高校生であり、彫刻の基本をここまでしっかりと学んでいることに驚きを隠せませんでした。
右手で涙を拭い、左手でスカートをキュッと握ったポーズに叙情性を感じます。そのポーズを、彫刻の本質である量塊と動勢を意識しながら、粘土で的確に表現した力量は、高校生とは思えないものがあります。また、地山の表現にも工夫があり、作品に味わいを加えています。着色にもう一工夫あると、より作品が引き立ったのではないでしょうか。
楠の巨木の丸太が大きくくり抜かれた大作です。木目のリズムと対話するかのように入れられたノミ跡が、見る角度によって様々に表情を変える沢山のひだとなり、内側の空間を抱くように上へと向かって開いていきます。着色などで飾ることもないありのままの存在感が清々しく、力強さとおおらかさ、作者の木彫制作への真摯な姿勢を感じさせます。今後の制作で更にスケールを増していってくれる事を期待します。
審査主任 西 由三
第74回展の工芸部門は、審査対象の一般、会員の応募数233点を審査した結果130点の入選となりました。入選率55.8%です。埼玉県には川口の鋳物、秩父銘仙等工芸に所縁の深い地域が有ります。県展が地元の工芸に目を向けるきっかけになればと思っています。工芸には制作の為の工房、様々な道具や機械、近年値上がりの著しい素材(材料)等多くのハードルが有るなか沢山の応募が有る事に頭が下がる思いです。工芸美術は良い素材、技術の修得、そして何より作品に込める作者の思いが融合した時に完結します。素材の知識や技術の修得には適切な指導が必要です。我流では限界が有ります。講評会等を積極的に利用して下さい。又普段から身の回りの森羅万象に思いを馳せ自分の中で咀嚼し昇華させる事が作品制作に反映されます。工芸には限りませんが日常の生活こそが作品制作の第一歩と認識し今後も益々精進して頂きたいと思います。
灰色と落ち着いたピンクの縦縞が、ピンクがかった灰色に見える布地になっています。その布地の中に、灰色からピンク、そして灰色へ、グラデーションになっている四角く見える段が、着物全体にバランス良く配置されています。段の中で、移り変わるグラデーションが、題名になっている冬至の夕陽を思わせる、自然の美しさが、こちらに伝わってくる、素敵な着物です。
緊張感のある黒土の器面に白化粧土を施し、中心から外側へと、きめ細やかでリズミカルに削り出された飛びカンナの文様がひときわ目を引きます。さらに細部に配された金彩の点が文様にアクセントを与え、作品全体に奥行きのある魅力的な世界観を形成しています。
遠目には淡い緑色地に濃淡のある縦縞模様の織物に見えます。しかし、近づいてよく見ると、淡い緑色・僅かに緑がかった白色・藍色・落ち着いた橙色などの糸を、網代織のように織り込みつつ縦縞模様を作り出した、緻密な作業から生まれた複雑な色合いの反物であることがわかります。初夏を思わせる爽やかな色合いは、藍色の経糸(たていと)が凛とした雰囲気を醸し出し、清涼感のある作品となっています。
躍動感のある造形を細かい籐で組み上げた秀品です。一見布のようにも見える仕上がりで、柔らかな質感になっています。数種類に着色した籐の配置も見事です。ところどころに開けられた窓もアクセントとなり、内部の丁寧な仕上がりが透けて見えます。
一枚の金属板を継ぎ目なく鎚起技法で打ち絞られています。レリーフ状に強く打ち出された水流紋の間に、上部と下部に浮き上がるように打ち出された矩形のような形状が配置され、強弱のついた加飾文様となっています。金彩を施した着色と調和して、空間的な広がりを感じられる壺として表現されています。
ほぐし織は仮に織り染めた布をほぐし糸にして再度織り上げる秩父銘仙等で知られる手の込んだ技術ですが、本作は雲間に漂う満月を愛でる作者の思いが端的に表現されていて観る者を一瞬にして月夜に引き込む魅力を持っています。技術と作者の感性が見事に融合した秀作です。
浜に打ち寄せる波、途中で砕ける波、色々な波があるなか、浜千鳥が波のゆるやかな砂浜に近い所で、羽を休めている波打ち際の景色を、練れた色調で表現しているため、穏やかな景色に見えて、好感が持てます。手描き友禅の糸目糊、タタキ糊の技法を使い、丁寧に作品を仕上げています。
2つの半球体から生え伸びゆく生命体を、陶芸で表現した作品です。絡み合うような構成が動的で生命力を感じさせます。また、その表面に施された印花文様が深海のサンゴなどのイメージを呼び起こし、「内面奥深い場所での成長する何か」を見る人に思わせる効果をもたらしています。
日本古来の製鉄法による和銑(わずく)にこだわり釜造りを続ける作者の快作です。時に大胆な造形も試みる作者がなだらかな優しい肩の線を持つ形状にきめ細かい縮緬膚を合わせ成功しています。決まりごとの多い茶釜の制作の中で自身の世界を見事に表現しています。
審査主任 有岡 夋阝崖
書部門はここ数年出品数が減少傾向にありましたが今回展では増加に転じました。書部門は今回展より会員、一般の作品寸法を変更し、やや小さい全紙2分の1に変更しました。これまで出品の方は多少戸惑いがあり、また初出品の方や大学生や高校生にとっては、日頃慣れ親しんでいる寸法なので出品し易くなるのではと。そんな不安と期待、質の低下も考えられましたが、鑑別審査を実施しまして、懸念は杞憂に終わりました。鑑別審査にあたっては厳正公平に審査員全員の投票を繰返し実施して決定しました。入賞候補作品に対しては誤字脱字がないか入念にチェックしました。毎回、この点を指摘してきた結果、出品者の慎重さが窺えて嬉しく思いました。次回展に向け更なる充実を期待します。
良寛の詩を題材にしつつ、淡墨ほどではないものの、やや薄めの墨を使った気負いのない運筆が印象的です。筆力を前面に出すというより、線の清澄さを大切にしたいという作者の意図が素直に伝わってきます。文字の大小の組み合わせも無理がなく、余白の美しさが際立つ作品となりました。文字造形そのものは良寛とは異なりますが、作品に漂う雰囲気には、どこか良寛の風趣に通じるものがあり、静かな味わいが感じられます。
半切料紙全体に、仮名細字の一面縦書きで表現している作品は、作品制作する上で非常に難しい造形感覚が必要と思われます。受賞作品はこの難題を見事に解決した秀作であります。仮名古典を充分消化し、ご自分の簡素な文字表現は実に素晴らしい作品となっています。また、墨色、文字間の変化や流れ、後半の文字の大小等、作品の構成感覚の力量も感じられる見事なものです。
五言律詩40字三行の作品。40字で行草体の作品が多い中で、他の作品に比べ行書体を多く取り入れ疎密をしっかりと表現したもので見事な造形感覚が表出された作品になっています。字形は大胆で横広、縦長、懐の広さや傾き、そして、作品途中での間のとり方など独自なものと思います。また、墨量はさほど多くはありませんが線の太細で変化が充分に感じられる素晴らしい作品です。
淡墨作品を活かした伸びやかな線質で、気迫あふれる明るい作品です。書き出しから一貫したリズムで流れ、濃淡の変化により心地よい響きを醸し出しています。また、文字の大小、疎密の変化もあり構成も見事です。作品の下部では余白を活かして運筆しています。益々のご活躍を期待しています。
題「新秋寄楽天」五言律詩を颯爽とした筆致で書いた半切作品です。「スピード感あふれる独自の書風」で書かれた見事な作品は、時に文章を読み進むことさえ忘れてしまいそうになりました。その流麗な運筆に滲み、掠れを巧みに配し、文字の大きさ、傾きなども融合し、まるで事前に計算つくされたかのように思えます。注目は二行目「静」の文字にみる偏と旁の絶妙な余白。この響き合う曲線、空間が更に作品を際立てます。師に学んだ後に自らの素養と天賦の才を加えた格調の高い作品といえましょう。
唐の劉禹錫の五言律詩を題材として、筆の穂先を生かした切れ味のある線で伸びやかに書かれています。また文字の大小、潤渇の変化も巧みで文字間隔も程よく余白の生きた見事な構成です。落款も本文とよく調和し、全体としてバランスよく、まとまりのある素晴らしい作品となりました。
墨量たっぷりの大胆な書き出し、二行目、三行目と徐々に墨量少なく書きすすんでいく作品は、まるで物語を見ているような作品に思えます。字形は四方への動きを出しつつ変化を出しながら流れよく纏めています。特に作品の二行目上部に、やや傾け気味に小さく「山」を、次の「歸」の偏を短く、三倍はあるかと思える旁で見せ場を表現した力量はなかなかのもの。大胆な線が随所に散見でき多様性ある作品として評価しています。
連綿と単体の草書を中心に一気呵成に書きおろされたものであり、その流麗さが最大の魅力となっております。線は滞るところがなく澄みきった書きぶりから、永年にわたり鍛錬を積み重ねてこられた足跡が如実にうかがえます。 さらに、文字の長短や振幅、線の太細、墨の濃淡が巧みに調和し、全体として見事なまとまりを見せています。とりわけ書技におけるテクニックは秀抜で、筆の運びや線の表情に確かな力量がうかがえます。
半切用紙サイズに、二行書き漢字作品として表現された作品であります。この作品は二行書きでありながら三行以上の多字数作品に比較しても堂々と大きく見える快作です。墨量もしっかりと入っていて文字の懐も大きく、余白を生かしながらの構成も素晴らしいものであります。また文字の大小の配置、書くリズムの力強い展開は作品を大きく見せています。
李白「峨眉山月歌」の七言絶句を半切二行の作品で、日頃からの習練が感じられる運筆で書きこまれた作品であると思いました。作品を眺めていると墨量と余白を適度に取りながら、左右の文字が単調にならないよう配字に注意して響き合いを醸しだしています。文字の大小、線の強弱、墨の潤渇等全体の流れを考え、巧みな運筆と連綿で表現し、見ていて楽しく魅力的な作品です。
7cm角という大きめの石に「摧陷廓清」の四文字を印篆の字画で刻し、白文で漢印風に仕上げた作品です。布置(文字の配置)や線の太さ、朱白の割合もよく整い、無理のない構成となっています。刀法もたいへん丁寧で、好感を抱きました。篆刻を通して文字に向き合う積極的な姿勢が、見事に結実した一作といえます。
丹念に書かれた真面目な明るい作品です。二行目に左右の行への働きを意識的に横広の字形にした「林」「九」「嫩」「承」を組込み、単なるすっきりしただけの行間にしないところに筆者の作品への心配りが見えます。これだけの力量があるだけに敢えて課題を申し上げると、墨を入れた箇所が一定の分量、また、時折伸ばした終筆がやや軽くなっている点、そして、どこかに大胆な表現が出てくると更に素晴らしい作品になると思うのですが。御健筆を祈ります。
審査主任 石橋 哲子
第74回展は、応募数893点に対し、入選点数443点、入選率49%という結果になりました。審査に当たっては、7名の審査員がそれぞれの視点から一枚一枚の作品と対峙し、厳正な選考を行いました。特に賞の候補となる上位作品の選定に当たっては、デジタル技術が飛躍的に進歩している今、AIによる画像認識機能等を活用した検証を行いました。
今年度も高校生からは若々しく斬新な作品が多くみられました。
一方で、全応募作品の中に規定サイズと異なる作品も見受けられたため、応募の際は最終段階まで気を抜かず、募集規定を丁寧にご確認ください。
デジタル技術の向上は、かつて多くの労力を要したピント合わせや露出補正といった「作業」を、驚くほど容易にしてくれました。それによって生まれた時間で、被写体をじっくりと観察し、写ったではなく、撮った一枚の作品を作り上げてください。
被写体はまさに水中の花です。生花を水中に浸けて、ライティングや背景処理にも相当な工夫をして撮られたのでしょう。あたかもレントゲン写真のような花びらの花脈の細密な描写が魅力的です。4枚組んだことの効果もあって、花の好きな作者独自の『小宇宙』の表現と感じました。「あたらよ」(明けてしまうのが惜しい夜)という情緒的な古語のタイトルにも作者の想いが凝縮されているのでしょう。
木の根や幹が絡み合う様な題名「生きる」の通り、植物の生命力を捉えた素晴らしい作品になりました。コンクリートや石のような構造物の隙間にうねるように伸びる太い植物の独特な質感、光と影のコントラストが協調された作品です。自然が生み出す造形の美しさが力強い階調で表現され作品に力を与えています。
意表を突く2枚組で二つの動物の閉ざされた世界での憂鬱なシーンを簡潔に描き出しました。作者の温かい目差しがうかがわれます。野生の森で高い樹林の頂きや大空を羽ばたいた懐旧の思いもよぎってきて自由になる日を祈らずにおられません。モノトーンの右の写真、頭の薄くなってとぼとぼ歩く鳥の後ろ姿が真に迫って胸を打ちます。
複雑に絡み合う木の根の圧倒的な存在感、それをやさしく包み込むような背景の深い緑と、上部へと続く霧のようなものが作品に物語性を与えています。また、画面上部の葉は輪郭を強調するようなレタッチがなされています。これにより写実的でなく絵画性が加わりまるで古木が魂を宿っているような空気感がもたらされています。
伝統と革新が交差する冬の街に伝統的な「竹鞠」(たけまり)が出現。ライトアップされたイチョウの木々と東京スカイツリーを背景に夜空を彩る幻想的な光景です。全天周レンズで描かれた円形にトリミングされた写真。写真は四角いものという常識に挑戦する作品です。私たちの住む世界が広がる美しく輝く星の誕生に幸せを一杯感じます。
夕闇の薄暗い路地裏にたたずむ野良犬。憂鬱な日はここから始まります。うつろな視線は何を訴えているのでしょう?低く垂れさがった尻尾は幸せな日々ではなかったと物語っています。人を拒絶する有刺鉄線、風に吹かれる烏瓜の実、赤い色も寂しく哀れです。壁にもたれる猫じゃらしの枯れ草。でも草の実は大地に帰り、新しい希望が始まるに違いありません。明日に期待したいですね。
舞台に登場するのは空から倒れかかるような桜の巨木。画面いっぱいにあふれる春の光。しかし地平線には何やら黒っぽい雲も。小さな幼子をおんぶする若い母親。でも視線は桜でも太陽でもありません。それぞれがそれぞれの世界で精いっぱい自己主張しているかのようです。「デジャヴ(どこかで見たような)」とありますが、現実にはめったに見られない奇跡の一瞬をとらえています。
雨の夜のシーンが調和のとれたトーンでまとめられています。3枚目の、むき出しの大根をぶら下げて家路を急ぐ女性が生活感をストレートに訴えてきます。やや傾けたアングルも家路を急ぐ彼女の動感を感じさせさえします。映り込みを利用した2枚の写真の中にも、町に生活する作者自身が投影されているのかもしれませんね。大きなドラマのないところに『彼女の日常』はあるのでしょう。
子供のはじけるような表情と、抱きあげる女性の愛情深いまなざしが交差した一瞬を映しとめています。ひまわりの黄色、人物の赤いシャツと青空の三色がまぶしい夏のエネルギーを感じます。細部の仕上げには、あと一歩届かなかったところもあるようですが、何よりも「自分が好きな人物を撮りたい」という作者の情熱と、勢いの良さが画面から溢れています。その熱意が評価されての入賞となりました。これからの成長が楽しみな、期待に満ちた一枚です。
今にも一雨きそうな空模様の中で、頭を抱えた女性が寂しそうに歩いている様子は失恋の悲しみを癒しているようにも拝見しました。良く写真を観ると彼女は笑顔で楽しそうに波と戯れているのではありませんか?この写真は勘違いを楽しむために作られた写真なのかもしれません。人物をなかなか大きく撮れない現在、心象写真ふうの背景写真の中に人物は遠景で、しかし主人公として立派に役割を果たしているようです。
海岸に近い坂道を次から次へと下ってくるバイク、分かれ道の中央に立ったカメラに今にもぶつかりそうな勢いです。雨上がりの歩道の右左に立ち並ぶ売店や食堂に南国らしい色彩がちりばめられて、外国旅行で好奇心あふれる作者のカメラを持つ喜びが随所に表現された見事なスナップです。遠くの雨雲がこれからのドラマを予告しているようです。
幸福感に満ちたピンク色の大きな屋根、そして安心感を与えるグリーンの壁面に、ラベンダーの紫が絶妙なバランスで調和した建物など印象的です。屋根の大きさや、整然と並ぶ同じ形の窓から、かつての牛舎を再生した建物なのかもしれないと想像が広がります。さらに、グリーンの壁面にブルーのシャツを着て、草刈りをしている人物が動きを加えます。アート性の高い一枚。作者の力量を強く感じます。
都市の片隅を光と影のバランスを考え気になるものを撮影しました。建物・道路・女性たち・イグアナ?・そして現金輸送車?までカメラの目は尽きません。モノクロ写真は本質をえぐるといいます。風景の中から心に映った姿がそこにあります。枚数の多い組写真はなかなか見る人が疲れてしまうのですが、とても配置が考えられていて見る人に散文詩のように心地よい居場所を提供します。
中世からの西洋はレンガと石の文化といわれるようですが、木と紙の文化で育ったわたしたちはその歴史に興味を持ちます。伝統的な西洋のクリスマスを待つ風景の中に目立つのは、やはりレンガ造りの建物の色彩でしょう。茶色は写真には向かないからできれば避けなさいという話を聞いたことがあります。ここではすべては輝くレンガ色に染まり、さてそのひとたちの文化はレンガ色にどんな影響を受けているのかと好奇心は尽きません。