経済・雇用対策特別委員会視察報告
調査日
令和7年1月29 日(水曜日)〜 30 日(木曜日)
調査先
⑴カスミ岩瀬流通センター(茨城県桜川市)
⑵宇都宮大学ロボティクス・工農技術研究所(栃木県宇都宮市)
調査の概要
(1)カスミ岩瀬流通センター
(物流における働き方改革について)
【調査目的】
■本県の課題
- 昨年4月からドライバーの時間外労働時間の上限が年960時間となり、労働時間が短くなることで輸送能力が不足することが懸念されており、物流業界における取引環境や労働時間の改善が喫緊の課題となっている。
■視察先の概要と特色
- 同社は、茨城県を中心に1都5県に195店舗(令和6年4月現在)を有するスーパーマーケットチェーンであり、物流における現場改善を長年行っている。
- 商品の積み方や回収容器の整理方法などの現場での改善だけでなく、社内評価制度の見直しや部署の大部屋化など、組織全体での改善でも大きな効果を上げている。
- 昨年4月から始まった物流の2024年問題に対応するため、競合するスーパーの商品も同社の倉庫で集配するなど、ここ数年は本格的に会社の枠を超えた効率化に取り組んでいる。
【調査内容】
■聞き取り事項
- 同社では、経営戦略として「ソーシャルシフトの経営」を掲げている。現在、SNSの発達によって、現場で起きていることが一瞬にして世界に情報連携されてしまう。湯水のごとく情報があふれている社会の中では、情報ではなく人を信用すること、地域住民である株式会社カスミや物流センターの従業員自身が感じた共感、信用が重要と考えている。
- 地域の小さな運送会社は、他の会社の下請けになることが一般的であるが、同社の取組では、会社の大小関係なく横並びとし、仕事を獲得した会社が親会社となり、ネットワーク間で協力しあい配送する形をとっている。当日でもネットワーク間で荷物のやり取りを行うなど、地域の小さな運送会社ならではのメリットも多く、現在では、口コミが広がり100社以上がネットワークに参加している。
- 昨年、関東地方のスーパーを主体にして首都圏SM物流研究会が発足され、業界団体として、物流の効率化に取り組んでいる。荷主同士は競合しているが、物流に関して共通の悩みを抱えており、継続的な物流体制の構築のため、同社も他のスーパーに知見を展開している。
■質疑応答
Q:サプライチェーンに関しては、サプライの視点だけでなくデマンドの視点もあると思う。デマンドの方が予測が難しいと思うが、どのように考えているのか。
A:デマンドチェーン、いわゆるお客様の購買行動が、翌日の発注につながるため、サプライチェーンを考える上での大きな悩みとなっている。波動をいかに平準化するかがデマンドチェーンのコントロールの基点であるため、発注の適正化、例えば特売品の発注で無駄な物流を発生させない等、現在関与している。デマンドチェーンとサプライチェーンの関係は非常に重要であると考えている。
Q:共同配送は良いが、他店には知られたくない情報、同じ商品の価格や発注量など秘密保持についてはどのように対応しているのか。
A:対応していない。このスキームだが、センターにある商品の所有権はベンダー側、メーカーにあり、小売店ではない。センターで集約し、配送して初めて小売店の持ち物になる。この点については、法的にも問題ないことを確認している。
(2)宇都宮大学ロボティクス・工農技術研究所
(先端技術の研究・実証拠点について)
【調査目的】
■本県の課題
- 近年、ICT関連技術の進展、社会実装が進んでおり、本県における実証フィールドの利用ニーズも高い。また、この分野でのオープンイノベーションを促進するためには、事業規模、業種等の垣根を超えた様々な事業者等が集まり、切磋琢磨できるような仕掛けが必要である。
■視察先の概要と特色
- 農学と工学が融合した新たな技術や産業の創出を目指す産学官の研究開発プロジェクトの拠点として、平成30年7月に開所した研究・実証施設である。
- 大学が持つロボット技術などの社会実装を目指す研究が次々と立ち上がっており、現在は15個のプロジェクトが稼働している。
- プロジェクトは、ロボットをイチゴの生産や収穫に活用する研究や、人工知能を使った育種技術の開発など農業に関するものや、足腰が弱い高齢者等の歩行支援を目的とした自律移動ロボットの製作など多岐にわたる。
【調査内容】
■聞き取り事項
- 略称「REAL」は、大学で行っている研究を「リアル=実現したい」という思いが込められている。設立時、文部科学省では「人材、知、資金の好循環システムの構築」を掲げており、これまでの「企業と共同研究し、企業が実現する」という形ではなく、「大学でベンチャー企業を立ち上げ、成果を大学や地域に還元する」というコンセプトで設立をしている。
- プロジェクトの申請に当たっては、自動運転技術などを参考に、「イノベーション達成レベル」という評価基準を設けている。大学発ベンチャーの株式公開が理想であるが、研究成果による持続的ビジネスが可能なレベル、企業であれば、実用化・商品化の達成などを目標に、何年後に達成するのか計画を立てて申請いただいている。
- プロジェクトチームは、大学の場合、大学の先生が中心になることも多いが、同所では自由にチーム編成をしている。既存プロジェクトも、他の大学が入っていたり、企業を中心としたチームもある。
■質疑応答
Q:同所のベンチャー企業が商品化した物流支援ロボットについて、使ってみて分かる課題もあると思うが、一度完成したものをどの程度カスタマイズできるのか。
A :我々のベンチャーは全てゼロから開発しているため、ロボットのカスタマイズは可能である。物流支援ロボットには、屋根の上に3次元センターを付けているものも多いが、その場合ロボット全体の形が決まってしまいカスタマイズができない。我々のロボットは、上部が変えられる、自由に利用できるところが特徴である。
Q:学生の頃からプロジェクトに参加できるのがとても良い利点であると感じたが、どのタイミングからプロジェクトに携われるのか、また卒業後はどう関わっているのか。
A:ゼミからだが、ゼミは1年程度であり、本命はマスターの2年間と考えている。進路は様々だが、ベンチャーに進む者もおり、我々のベンチャーは全員卒業生である。同所は、学生発の大学発ベンチャーは使用料ゼロで利用でき、本学発のベンチャー企業であれば格安で入所可能である点が取り柄であると考えている。

宇都宮大学ロボティクス・工農技術研究所にて