少子・高齢福祉社会対策特別委員会視察報告
調査日
令和7年1月29日(水曜日)~31日(金曜日)
調査先
⑴長崎県立ろう学校(長崎県大村市)
⑵長崎県庁(長崎県長崎市)
⑶長崎国際大学(長崎県佐世保市)
⑷こども未来館「おむらんど」(長崎県大村市)
調査の概要
(1)長崎県立ろう学校
(障がい者の就労支援について)
【調査目的】
■本県の課題
- 障がいのある児童生徒一人一人の状態やニーズに応じて、その可能性を最大限に伸ばし、自立のために必要な力の育成や、潜在能力を伸ばし、就労など社会参加の幅が広がるような取組の推進が課題である。
■視察先の概要と特色
- 聴覚障がいによる学習又は生活上の困難を改善克服することにより、生きる力を高め、自立し積極的に社会参加できる力を培うことを目標としている。
- 高等部では、卒業後の社会的・職業的自立を目指し、職業の専門学科として「総合デザイン科」と「理容科」を設け、専門的な教育を行っている。また、職業教育充実のために各専門学科に専攻科を設け、本科3年、専攻科2年の系統的な教育を行っている。
- 聴覚障がいと他の障がいを併せ有する生徒においては、個に応じた指導を行い、就労など将来の社会自立に向けた支援を行っている。
【調査内容】
■聞き取り事項
- 専攻科では、普通の高校では設定していない職場実習を教育課程の中に取り入れており、1年時に2週間を2回、2年時に2週間を1回設定している。自分が所属する科やコースに関連する企業等で体験を行い、働くとはどういうことかを学ぶ。
- 1年時の2学期には、生徒自身が就職したい職種などで職場実習を行う。2年時には就職したい企業での実習を行う。企業側も採用する生徒を実際に見ることができるため、双方のマッチングの機会となっている。
- 生徒のほとんどが専攻科に進学しており、自動車関係に就職する生徒が多い。製造業は生徒の受入れに慣れているため就職率が高い。一方、生徒の希望があれば他の職種の企業にも声をかけマッチングを図っている。
■質疑応答
Q:法定雇用率が定められたが、障がい者を受け入れる企業側の取組はいかがか。
A:文字による情報提供や職場の中にパトランプを設けるなど、目に見える情報の提供を行っている。文字起こしアプリを開発した会社もある。
Q:専攻科について、コースを決める期間、決めるまでの工程はどのようになっているか。
A:コースの選択は2年時となっている。1年時に各コースを順繰りに体験し、およそ11月にコースを希望する流れである。それに合わせてどういった仕事・進路が良いか併せて指導を行っている。
Q:就職に有利になると考えられる情報や機械といった科目は取り入れないのか。
A:来年から専攻科の方に、コースに関係なく情報の授業を8単位、週4時間増やすことになった。コースを増やしたりはせず、教育課程の中での変更をしている。
Q:生徒が不登校や不登校傾向になった場合、SNSなどを活用してコミュニケーションを取れる環境になっているのか。
A:一人一台タブレットを持っているため、そのタブレットを利用して学級と連絡を取り合う。それも厳しい場合は家庭訪問で担任の先生がお話しに行く。SNSはチームスを利用できる環境は整えている。活用事例として、入院している生徒が実際にタブレットを用いてコミュニケーションを行い、孤立せずに過ごすことができた。

長崎県立ろう学校にて
(2)長崎県庁
(高齢者施策の推進について)
【調査目的】
■本県の課題
- 令和7年度に団塊世代が75歳以上となり、後期高齢者の急増が見込まれる。そのため、介護が必要な県民の増加への対応や、住み慣れた地域で安心して自分らしい暮らしを送りたい高齢者を支えることが課題である。
■視察先の概要と特色
- 高齢者の福祉及び介護保険施策を総合的に進めるため、令和6年度から令和8年度までの3か年を計画期間とする「ながさき長寿いきいきプラン」を策定している。
- 持続的な社会保障制度の構築として、生産年齢人口の減少に対応するため、介護人材の確保、介護保険制度の安定運営及び介護現場のデジタル化などに取り組んでいる。
- 社会環境の変化や新たな行政ニーズへの対応として、高齢者が地域で元気に暮らすために、高齢者の生きがいづくりの推進、認知症のかたや家族への支援及び高齢者の権利擁護などに取り組んでいる。
【調査内容】
■聞き取り事項
- 長崎県庁では、介護人材確保対策として、(1)介護ロボットなどのテクノロジー導入による生産性向上、(2)外国人介護人材の確保、(3)魅力発信・参入支援の三つ柱で施策を推進している。(1)は介護事業所への補助金や相談窓口「ながさき介護現場サポートセンター」の設置、(2)では事業所への理解促進セミナーや日本語教育の支援、(3)では「介護のしごと魅力伝道師」による魅力PRなどを取り組んでいる。
- ながさき介護現場サポートセンターでは、主に(1)介護現場でのお困りごとをサポートする相談窓口、(2)介護ICTやロボットの試用貸出、(3)施設の課題に応じた伴走支援、(4)研修・セミナー、(5)展示会の五つの業務を行っている。試用貸出は問合せが増えてきている。介護テクノロジーを事業所に導入する鍵となるのは経営層の見通しである。
- 県内の先進的な取組として、社会福祉法人ふるさとでは、「NEXT KAIGO」を掲げ、介護サービスの質の向上や職員の働き方改革を実現するために、県の補助金を活用して入浴リフトや勤務表自動作成ソフトなど介護テクノロジーを意欲的に導入し、目に見える変革を行っている。
■質疑応答
Q:行政の補助金の在り方について、介護事業者として何か考えがあるか。
A:事業者は着手できるところから事業を始めていくが、最初から揃っていないといけないなどの要件がある補助金は使いにくい。補助金の要件として数字で目標値・目的値をはっきりさせ、しっかりとそこを目指させることが大事である。柔軟性と目標・目的が図られることが重要と考える。
Q:ICT導入の留意点について、合意形成のプロセスが大事とあったがポイントを教えていただきたい。また、導入するものはオーダーメイドか、それとも既製品か。
A:職員に導入する目的をしっかり伝えていくことが大事である。導入前の研修はもちろんのこと、導入後のモニタリングとして、実際に使用して課題を洗い出し、課題を検証して解決・修正していくようなPDCAのサイクルが必要である。そこに経営層が関与していくことが、ICTをうまく導入できるポイントであると考える。導入するものはオーダーメイド・既製品両方ともある。多くの場合は既製品を導入するが、カスタマイズを施すことがある。施設の実態に合わせてカスタマイズすることが大事だと考える。

長崎県庁にて
(3)長崎国際大学
(男性の不妊治療について)
【調査目的】
■本県の課題
- 晩婚化・晩産化が進展し、こどもを望んでも希望どおりに授からない夫婦が増加しており、その要因の一つとして、不妊の原因の半分が男性側にもある事実があまり知られていないことなどが課題である。
■視察先の概要と特色
- 人間社会学部、健康管理学部及び薬学部があり、よりよい人間関係とホスピタリティの探究・実現、並びに文化と健康を大切にする社会の建設に貢献する教育・研究が建学の理念である。その中で、薬学部薬学科の複数の研究室が、共同で不妊治療に関する研究を行っている。
- 薬学部薬学科にある分子生物学研究室では、田中准教授の下で、男性の不妊症に関する遺伝子多型の解析について研究等を進めている。
- 田中准教授は平成27年度かわさき起業家オーディションに「不妊症に貢献する健康食品と遺伝子診断の開発・販売」というテーマで受賞経験があり、平成28年度より株式会社を設立し健康食品の販売を行っている。
【調査内容】
■聞き取り事項
- 先進国では不妊症が進んでおり、5組に1組のカップルが不妊症と言われている。不妊症は、以前は主に女性に問題があると言われていたが、研究を進めた結果、女性側が半分、男性側に半分の要因があることが分かっている。また、両方に要因がある場合もある。
- 不妊症の原因はいまだ解明できていないが、考えられる一つの要因として晩婚化が挙げられる。人間は20歳前に子供を産むことが一番良いように進化上できているため、晩婚化は一番の問題ではないかと考えている。
- 受精率を上げる実験の中で、甘草を入れると受精率が上がることが分かった。さらに調べるとケルセチンがとても良く効くことが分かった。ケルセチンを配合した製品を開発し、ネズミを用いた実験では、こどもを産まなくなったネズミが新たにこどもを産む結果を出した。不妊症の治療時に服用することで効果が期待できると考える。
■質疑応答
Q:一般的な病院で不妊症の原因を突き止めることができるのか、それとも専門的な病院でないと分からないのか。
A:専門的な病院でないと分からないと考えられ、専門医を探さないと判定できない。都会の方が成功率が高いお医者さんが多いと考えられる。一般の病院には、まだ手法が普及していない。
Q:この分野は生命倫理的に日本は遅れているのか。
A:むしろ日本が引っ張っており、世界で一番の生殖補助医療の国である。40歳を超えてから人工授精を一生懸命トライする世界一の国である。
Q:不妊治療にストレスは関係するのか。
A:ホルモンのバランスなので、ストレスがたまり、脳が異常を感じると不妊になりやすいと考えられる。
(4)こども未来館「おむらんど」
(子育てに関する総合的な支援について)
【調査目的】
■本県の課題
- 核家族の割合が高く、子育て中の夫婦が自分たちの親からの支援を受けにくい状況があり、子育て家庭を支える社会的機運の醸成など、地域での子育て力の充実が課題である。
■視察先の概要と特色
- 子育て親子の交流の場の提供と交流の促進、子育てなどに関する相談受付や情報提供、子育てや子育て支援に関する講習などを実施している。
- 週2回の頻度で「すこやかDAY」を設け、子育てについて聞いてみたいこと、不安に思っていること、こどもの発達・発育などで気になっていることなどを気軽に相談できるようにしている。また、個別に施設のスタッフと話すことや電話での相談も可能となっている。
- センター内には様々な遊具が置かれ、平日は予約なし、土日祝等は完全予約制で0歳児から小学生までのこども達が保護者と一緒に楽しい時間を過ごすことが可能である。
【調査内容】
■聞き取り事項
- おむらんどは、(1)子どもの健やかな育ちを応援する子育て支援、(2)市民協働による子育て支援、(3)親子の安心、安全な遊び場の確保、(4)大村市次世代育成支援行動計画の推進を事業実施の背景としている。
- こどもたちの探究心や好奇心をくすぐることができるように様々な遊具を取り備え、こどもたちがもっといっぱい遊びたいと思える空間づくりを心掛け、場所を提供している。また、遊び場のみの提供ではなく、子育てを頑張る父母の力になれるような相談や情報提供が行えるように運営に取り組んでいる。
- 大村市の直営方式で、正規職員1名及び会計年度任用職員が9名の計10名となり、交代制で運営している。10名のうち6名が保育担当で、そのうち5名が幼稚園教諭の資格を持ち、1名が子育て支援員の資格を持つ。ほか4名が事務職員である。
■質疑応答
Q:市民協働による子育て支援において、企業や団体はどのように関わっているのか。
A:講座を実施する中で、大村市内の子育てサークルなどの団体と連携している。企業とは、おむらんどの周知に協力いただいている。
Q:長崎県庁に何か要望したいことはあるか。
A:県内にある他の屋内のこども遊び場と連携する際に、県が旗振りをしてくれると、各施設が参加しやすく、協働事業に取り組みやすいと考える。
Q:子育て支援センターとして、「一緒に遊べる」というキーワードまできちんと整備している施設は少ないと考える。このキーワードで整備した理由などをお聞かせいただきたい。
A:行政としては、悩みなどを相談してもらうことが施設のメインである。「相談に来てください」と呼び掛けてもなかなか窓口に来てもらえない中で、こどもが行きたいと言ってくれると親に一緒に来てもらう機会となる。一緒に遊んでいる中で、職員が親に声を掛けられるので、そこで相談してもらうことができる。大小関わらず気軽に悩みを相談してもらえるような、安心できる施設であることを大切に運営している。