福祉保健医療委員会視察報告
調査日
令和7年1月14日(火曜日)
調査先
(1)東京都健康長寿医療センター(東京都板橋区)
(2)東京都盲ろう者支援センター(東京都新宿区)
調査の概要
(1)東京都健康長寿医療センター
(健康長寿への取組について)
【調査目的】
■本県の課題
- 本県は、高齢者人口が全国トップクラスのスピードで増加することが見込まれており、健康長寿の取組は重要である。
■視察先の概要と特色
- 同センターは、高齢者医療のパイオニア・老年学研究の拠点として、適切な医療の提供、臨床と研究の連携、高齢者のQOLを維持・向上させるための研究に取り組んでいる。
- 「介護予防・フレイル予防」及び「認知症との共生・予防」の二つを重点分野に位置付け、医療と研究の両輪で取り組んでいる。医療機関と研究所以外に、認知症未来社会創造センター、フレイル予防センター、人材育成を行う健康長寿医療研修センターを設置し連携を図り運営している。
- スマートウォッチを活用した健康づくりに関する研究プロジェクトを立ち上げ、フレイル外来を受診した方などを対象に実用性を検証するなど、医療機関と研究所が一体化された同センターならではの横の連携や、高齢者への栄養指導におけるスマートフォンアプリの大学との共同研究など、多様な研究、取組が高齢者の健康維持・増進と自立した生活の継続のために実施されている。
【調査内容】
■聞き取り事項
- 同センターは、産科、小児科以外の多くの科を網羅する急性期の医療機関であるが、入院患者は高齢者、超高齢者が多く、急性期医療を中心としながらも亜急性期や介護保険との連携も同時に図っており、地域の重要な医療拠点となっている。また、多くの脳組織が蓄積されており、アジアでも有数の高齢者ブレインバンクを持つ研究施設でもある。
- 平成27年にフレイル外来を開設し、フレイルが疑われる患者の診療、評価等を行っている。ほかにも、東京都と連携し、住民が運営する介護予防の運動などを行う「通いの場」の設営にも協力している。患者を地域における「通いの場」へつなげることで運動促進のみならず、認知機能や介護予防効果の向上、さらには社会参加の促進が図られている。
- また、フレイル予防センターでは包括的な予防を行うためにフレイルから介護に関わる多様な職種の人材育成が必要であると考え、フレイルサポート医、ナース、栄養士などの様々な研修会や公開講座を開催している。松本市と研修会を開催したり、他県でも研修会を開催するなど、フレイル予防をけん引する存在となっている。
■質疑応答
Q:後期高齢者の検診に基づき行政、医師会、同センターの連携による包括的フレイル対策を行っているとのことだが、行政が集団で行う健康診断や保健指導について、受診者をかかりつけ医につなげていくための取組はあるのか。
A:健診機関において健診結果を手渡しもせず説明の資料もない、やりっぱなしのような状態もあるが、本来はかかりつけ医が説明すべきと考える。説明の用紙を複写方式で作成し、その一部を受診者に渡すということを板橋区で始めた。受診者は、かかりつけ医に複写の写しを持っていくことで、かかりつけ医につないでいく。また、保健センターが受診勧奨するなど、保健指導する側と医師とで話し合って連携をとっていく必要もある。こういった流れを作っていくことが重要であり、フレイルサポート医も保健指導の相談に乗るなどの役割を果たしていく。
(2)東京都盲ろう者支援センター
(盲ろう者への支援について)
【調査目的】
■本県の課題
- 盲ろう者は、高齢化社会により増加していくと推測されており、自立した生活、地域社会への参加のための支援は重要である。
■視察先の概要と特色
- 同センターは、視覚と聴覚の両方に障がいのある「盲ろう者」への総合的なサービスを提供するために、平成21年に設置された。利用者の増加、支援ニーズの多様化に対応するため、令和6年に新宿区にある現センターへ移転し、それに伴い、センターの機能を盲ろう者の全ライフステージへと拡充した。認定NPO法人東京盲ろう者友の会が都の委託を受けて運営している。
- コミュニケーション等の訓練や、本人や家族、関係機関等からの相談を受け、情報提供や問題解決へ向け支援する総合相談支援事業などを行うほか、外出の機会が少ない盲ろう者の社会参加を促すための交流会や啓発活動も行っている。
- また、これまで支援が行き届いていなかった盲ろう児についても、盲ろう児や保護者、教員らを支える新しい支援事業を全国で初めて開始し、相談や交流会を開催している。全国に盲ろう児を対象とした専門の教育機関はないため、子育てや教育で苦悩や困難に直面する保護者、関係者のよりどころとなっている。
【調査内容】
■聞き取り事項
- 視覚障がい、聴覚障がいの身体障者手帳を取得している方は、全国で約61万人おり、そのうちの約1万4千人が視覚と聴覚両方の障がいを持つ盲ろう者であると推計されている。同センターが開設され、盲ろう者を支援する機関ができたことで、本人や家族、支援機関にとって相談できる、頼る場所ができたが、盲ろう者支援センターは、現在、全国に6か所しかなく、十分な支援ができていない。
- 盲ろう者が複合して抱える困難は、会話、情報入手、外出と言われる。5人に1人は、会話の頻度が月2日以下、外出頻度が月2日以下となっており、健常者の生活で考えるとありえないほどの非日常生活を送っている。この三つの困難の解消が社会参加の促進につながることからも、通訳者の派遣事業や養成事業だけでなく、コミュニケーションをとるための訓練や、交流会などコミュニケーションをとれるようになった後につなげる活動場所も作っているところである。
■質疑応答
Q:支援する職員は、どのような方が多いのか。
A:通訳介助者として活躍されている方が多く、実習に来た学生がその後も活動に参加されることもあるが、もともと盲ろう者に対する知識がある方が多い。通訳者の養成なども行っているが、コロナ禍や昨今の物価高騰により、ボランティアに準じることに関わる方が減ってきており、派遣事業などにおいて、要望に応えられないこともある。
Q:都の盲ろう者は約840人とのことだが、どの程度アプローチできているのか。
A:通訳等派遣事業を受けている方が140人いる。ほかに、相談のみや障害者手帳は取得していないが訓練事業のみ受けている方もおり、全体で160人くらいである。多くのかたは関わりがなく把握できていないため、限られた範囲でのアプローチになっていると認識している。このため、兵庫県などが行っている、市区町村と連携し障害者手帳から盲ろう者を探しアプローチするようなアウトリーチ型の支援も重要と考えている。

東京都盲ろう者支援センターにて