福祉保健医療委員会視察報告
調査日
令和7年8月27日(水曜日)
調査先
(1)学校法人自治医科大学(下野市)
(2)社会福祉法人愛の泉(加須市)
調査の概要
(1)学校法人自治医科大学
(医師確保に向けた取組について)
【調査目的】
■本県の課題
- 医師の地域偏在と診療科偏在を解消するとともに、地域医療構想の実現に向けた医師確保が重要である。
■視察先の概要と特色
- 自治医科大学は、医療に恵まれないへき地等における医療の確保向上及び地域住民の福祉の増進を目的として、昭和47年に全国の都道府県が共同で設立した大学である。医学部入学者は、卒業後の一定期間(義務年限)を都道府県の指定病院等で勤務することで入学金、授業料等が免除となる。
- 医学部定員は現在123名で、入学試験は、第1次試験を各都道府県で、第2次試験を同大学で実施し、都道府県ごとに2~3名を選抜している。全寮制で、「総合医」に求められる広範かつ高度な臨床能力を修得するため、卒業後を見据えた6年間一貫教育のカリキュラムを組んでいる。
【調査内容】
■聞き取り事項
- 現在の日本の医療において求められているのは、多様なニーズに対処できる医師(総合医)であると考えている。そこで同大学では、総合的な人間力を養い、医療だけでなく将来地域社会のリーダーになれる医師の養成を目指している。
- 同大学では、1年から6年生までの全学年で、トータル200コマを超える独自の地域医療学プログラムを行っている。また、地域に出る前に、より長く臨床能力を磨くため、他の大学より1年早い4学年の1学期から実際の診療(BSL)に参加している。BSL期間は、6年生までの3年間で最長78週となっており、この間に、附属病院(栃木県下野市)や附属さいたま医療センター(さいたま市)での実習のほか、地域の中核病院などで院外実習も行う。
- 同大学の卒業生は、出身都道府県の医療機関で9年間、地域医療に従事する。最初の2年間は初期臨床研修を出身都道府県の臨床研修指定病院で受け、初期臨床研修後は、地域医療に3年程度従事し、その後、高度な専門性を取得するための後期研修を経て、再び地域医療に従事する。9年間の地域医療従事後は、継続して地域医療に従事したり、大学や病院などで専門医として勤務したり、大学院への進学や海外留学で最先端の医療知識や技術を身に付けるなど、多様なキャリアを選択できる。こうした教育や研修を通じて、地域に根差しながら幅広い診療ができる医師を出身都道府県に送り出している。
■質疑応答
Q:支援も手厚く経済的にも負担が軽いと思う一方で、競争の激しい入学試験では、裕福な家庭の学生が優位になると思う。経済的に恵まれない学生でも入学できるような対応は何かされているのか。
A:選抜は学力試験の得点だけでなく、「総合医を育成する」という観点から、人間性やコミュニケーション能力も重視している。入学後は寮費・食費が低額に抑えられており、さらに、各種奨学金制度で経済的に支援している。
Q:医師派遣において、地域で必要とされる診療科目がある中で、派遣可能な診療科や派遣が難しい診療科があると思うが、どのように対応しているか。
A:特定の診療科に偏ることなく、幅広い診療能力を備えた「総合医」を育成している。地域のニーズに応じ、多様な分野に柔軟に対応できる人材を送り出すよう取り組んでいる。

学校法人自治医科大学にて
(2)社会福祉法人愛の泉
(社会的養育の充実について)
【調査目的】
■本県の課題
- 社会的養護が必要なこどもが、より家庭に近い環境で健やかに成長できるよう、里親委託による家庭養育の推進など、社会的養育の充実が重要である。
■視察先の概要と特色
- 同法人は、昭和20年の児童養護施設愛泉寮の開設から始まり、以来保育所、乳児院、養護老人ホームの運営等を通じて、様々な困難を抱える方々への支援を行っている。
- 児童養護施設愛泉寮では、施設の運営に加え、県内に3か所のみ設置の「児童家庭支援センター」の運営や、令和6年に県内初の「里親支援センター」の設置のほか、令和7年には「児童自立生活援助事業」を開始するなど多機能化を進め、児童福祉の向上に取り組んでいる。
【調査内容】
■聞き取り事項
- 同法人は、令和4年度から2年間、県の委託事業で、里親を総合的に支援するフォスタリング事業を実施した。令和6年度から里親支援センターとして、さいたま市を除く県内全域を対象に里親支援事業を実施している。現在、県内にある里親支援機関は、同センターと日高市の社会福祉法人同仁学院(フォスタリング機関)の2か所となっている。
- 里親支援センターでは、制度普及促進、里親募集等のリクルート業務、里親研修、情報提供・相談支援、元里子の継続的な相談援助などを行っており、今後は里親子の個別支援を推進していく方針である。
- 児童家庭支援センターでは、地域のこどもと家庭に関する相談や市町村関係機関の求めに応じた助言や援助を行っている。具体的には、養育者からの相談対応、保育園や学校に出向いて個別の相談対応、市町村の乳幼児健診、発達相談、発達支援教室への職員派遣などを行っている。年間約2,000件の相談があり、そのうち発達や学習困難に関する相談が全体の4割を占めている。また、虐待を含む不適切養育に関する相談支援が全体の3割を占めている。
■質疑応答
Q:施設を卒園したこどもの10年後など、その後の状況は把握できているのか。
A:担当であった職員が継続的に連絡を取ってつながっている。進学や就職など悩んでいたりする場合が多い。内容によっては直接援助できない部分もあるが、状況に応じて適切な地域の支援機関につないで対応するなどしている。
Q:途中で里親をやめてしまうこと(里親不調)は、どの程度あるのか。
A:里親不調の統計はなく、我々も気になっている。埼玉県で掲げている里親委託率を達成するためには、新規の里親委託を増やすことも重要であるが、不調を防いで委託件数(率)を下げないことも大切である。不調を防ぐためには、里親不調の統計を取って不調の理由等を検証し、それを生かして、不調になる前に里親支援センターがケアに入ることで、不調を防げる可能性もあるのではないかと考えている。
Q:今後の課題として、里親支援センターの増設という話があったが、必要と考えるエリアや増設が必要と感じる実情を伺う。
A:理想は、1児童相談所に1センターである。現在県内に1か所のみなので、全県はカバーできない。また、児童相談所ごとにローカルルールがあって進め方が異なるなど、地域差があると、児童相談所の職員も実際やりにくいのではと思っている。児童相談所管轄に一つが難しいとしても、2児童相談所管轄に一つなど、センターの担当エリアを明確に分けて支援する体制と、統一した支援方法の確立が必要だと思う。