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「ボルケーノ~いつかあの舞台に~」関口直子

掲載日:2025年5月3日

 

ボルケーノ

雪子ちゃん

 

水沢優秀 (みずさわまさひで)  vocal

架空のロックバンド、ボルケーノのボーカル。愛称はマサ。
性格はおおらかで明るく元気いっぱい、しかし、思いつめ、あるいは、怒ると何をするかわからない所がある。
好物は某ファミリーレストランの、特大ハンバーグランチ。悩みは重度のポエマーで、どう頑張ってもダサくてひどい歌詞しか書けない事。
反面、声質だけはいい。歌の技術は残念ながらいまいち。しかし根拠のない自信があり、いずれ大舞台で歌うつもりである。

野崎英次(のざきえいじ)  guitar

マサの幼なじみ。ボルケーノのギタリスト兼マネージャー。愛称はエイジ。
働きながら、バンドの運営も営業もこなしている。性格は一見人当たりはいいが、付き合うと自己肯定感の低さからくる屈折ぶりが非常に面倒くさい。メンバーの中では唯一の妻帯者で息子が一人いるが実家も含み、家庭は冷えている。
小食でやせ型。ライブ時以外は、地味ですっぴんも別人なためほぼ身分がばれることはない。マサの無謀な夢を、呆れて反対はしたが、次第にその熱さに憧れ、ともに夢を追うようになる。器用で、服飾専門学校時代に覚えた、服作りの技術を生かして、自身のステージ衣装は自作のものを使っている。

梅本類(うめもとるい)  bass

ボルケーノのベーシスト。マサとエイジとは面識はなかったが、弾き語りをしていたところ声を掛けられ、メンバーになる。性格は優しく残酷、愚かさと賢さが同居した、多面的で、複雑、つかみどころがない性格をしている。長身で堂々たる体格をしているだけで目立つのに真っ赤な髪色と異様なメイク、派手なパンクスタイルの服は否応なしにどこに行っても目立つ。生まれ育ちを口にすることはほぼないが、かなりの国語力を発揮した歌詞を書くなど謎が多い。愛用しているベースの名前は、天鈿女命。(あまのうずめのみこと)メイクをしない方がイケメンだが、本人は変なメイクなしではいてもたってもいられないようだ。

雪子ちゃん

最近東京都、吉祥寺から埼玉県日高市に引っ越してきた高校1年生の16歳の女の子。
好きなことはバンドの応援をすること。最近都内の小さなライブハウスで、偶然見たボルケーノに興味津々。メンバーの中で好みのタイプはエイジ。母が経営している日高市にあるカラオケスナックでアルバイトをしながら、いつかボルケーノが来てくれないかなと、夢を膨らませている。

 

STORY

ラジオネーム『ゆきうさぎ』さんの投稿です。

『こんにちは、ボルケーノのみなさん。わたしは今年の夏に東京都から埼玉県に引っ越してきました。理由は、両親が離婚して、お母さんの経営するカラオケスナックでアルバイトしなきゃ学費がまかなえないからです。毎日、学校にアルバイトに、忙しくて、へとへとです。だけど寝る前に、ボルケーノの曲をかけると、明日も頑張れると思います。私の夢は、いつか私のためだけに、皆さんが演奏して下さることなんです。みなさんの曲はわたしに元気をくれました。みなさんのことがわたし、大好きなんです。学費を払ったり、生活費をお母さんに払ったりしたら、お金がなくなって、大好きなライブにもいけなくなって悲しいです。だけどいつかボルケーノの新曲の入ったCDも、ブルーレイもDVDボックスも、買いたいし、貯金したいから、お洋服買うのガマンしました。おやつも、買いません。お腹空いたときは水を飲んで寝ます。お友達とも、お金かかるからさよならしました。だけど、さみしくないです。大好きなみなさんにいつか会えるんだと思うからです。』

  ありがとうございます。ゆきうさぎさん。

俺たちも、なんか振り返るといろいろあったけど、応援してくれる、ゆきうさぎさんの夢を何とか叶えたいから、今年の一二月四日、埼玉県立近代美術館で、ワンマンライブをやります。ゆきうさぎさんのために、俺たち、めちゃくちゃ全力でライブやるんで、来て下さい。

  『エイジさん!』ラジオの前で雪子は叫んだ。

  大好きなエイジさんの声で、そんな事!夢のようなことを言われたら!ああ、どうしたらいいかわからない。十二月四日?
絶対、絶対行かなきゃ。お母さんにバッグ借りて、赤いハイヒール履こう。それから、それから、メイクも頑張る。
わたしのこと見てもらうんだもん。思い出してもらうんだもん。
ルイさんにも、マサさんにも、会えるんだ。どうしよう、何にも手につかないよ。

『雪子?ちょっと、グラスたまってるわよ!』

階下から母の声が聞こえた。

『ごめんなさい、今洗うね!』

応じた雪子は、慌てながら、階下へと駆け下りていった。雪子の頭の中にエイジの言葉が駆けめぐっている。
会えるんだ。絶対会えるんだ!
雪子の胸は激しくときめいた。

※この作品は、2024年12月4~8日に埼玉県立近代美術館で展示されました。

ARTIST

関口 直子 / SEKIGUCHI Naoko