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掲載日:2024年3月26日

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答申第117号 「特定個人一家がなぜ生活保護を受けられるかについて」の不開示決定(平成19年8月20日)

答申第117号(諮問第133号)

答申

1 審査会の結論

埼玉県知事(以下「実施機関」という。)が、平成18年11月27日付けで行った公文書不開示決定は妥当である。

2 異議申立て及び審査の経緯

(1) 異議申立人は、平成18年11月9日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、以下の公文書の開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。
《開示請求する公文書の内容の要旨》生活保護について、特定個人一家が生活保護を受けていると知った。数台の車を所有し3ナンバーの車をリースで借りている特定個人は犯罪歴もある。被害者も多く、現在も人を騙している人間である。数年前まで磁気治療院を経営し、多額の収入を得ていると聞いている。また、探偵業も営み働き盛りの息子2人もいる。なぜ生活保護を受けられるか。ぜひ開示請求をお願いしたい。

(2) 実施機関は、「開示請求された公文書については、当該公文書の存否を答えること自体が個人等の権利利益を侵害することとなり、埼玉県情報公開条例第10条第1号に該当する不開示とすべき情報を開示することとなるので、存否を答えることができ」ないことを理由として、条例第10条第1号及び第13条に基づいて、公文書不開示決定(以下「本件不開示決定」という。)を行った。

(3) 異議申立人は、本件不開示決定を不服として、平成18年12月22日付けで、実施機関に対して異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

(4) 当審査会は、本件異議申立てについて、平成19年2月2日付けで、実施機関から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。

(5) 当審査会は、実施機関から平成19年3月5日付けで開示決定等理由説明書の提出を受けた。

(6) 当審査会は、異議申立人から平成19年3月15日に反論書の提出を受けた。

(7) 当審査会は、実施機関から平成19年4月20日に意見聴取を行った。

(8) 当審査会は、異議申立人から平成19年5月17日に口頭意見陳述の聴取を行った。

3 異議申立人の主張の要旨

異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。

(1) 特定個人は犯罪行為により、その刑を全うしたとしても全く更生しておらず、複数の自家用車を所有し、探偵業の公告を掲載し、毎日獲物を探し回っている。このような者がなぜ生活保護を受給することになったのか、その理由が理解できない。

(2) 虚偽の記載や診断書等により、不正に生活保護を受給したと思われる者についても、「個人情報」として保護したのでは、不正をそのまま見逃し、税金が浪費され、県民に対して損害を与えることになる。

(3) 個人の権利を保護するという美名を盾に、受給決定の判断に誤りがあった場合や虚偽記載による不正受給等について、これをただすことができなくなることは、多くの善良な県民の利益を損ねることになる。犯罪を防ぎ、適正な生活保護制度を運用するためには、条例第10条第1号で不開示にすべきでない。

(4) 実施機関は、存否を答えること自体が個人の権利利益の侵害に当たるとしているが、行政を騙し、不正に生活保護を受けているとしたら、権利利益の侵害には当たらず、むしろ犯罪をただすことになる。

4 実施機関の主張の要旨

実施機関の主張の内容は、次のとおりである。

(1) 生活保護決定に関しては、個人の秘密にわたる事項まで調査することがあるが、これらの事項についてその秘密を厳守することは、住民の福祉事務所に対する信頼を確保する上から欠くことができないものであり、法律上の義務とされている(地方公務員法第34条)。また、住所や氏名など生活保護受給の事実を明らかにすることについても、その事実を一般に知らせることによって本人が精神的苦痛を受けるなど、個人に関する情報については、その内容のいかんを問わず、特定の個人が識別される場合には開示しない。

(2) 今回の開示請求については、特定の個人に関する生活保護の決定実施に関するものであり、存否を答えること自体個人の権利利益を侵害することとなり、条例第10条第1号に該当する。

5 審査会の判断

(1) 本件開示請求に係る対象文書について

異議申立人が開示請求した公文書の内容は、要するに、「特定個人一家が、なぜ生活保護を受けられるか。」が分かるものである。
本件開示請求に対する対象文書が、もし仮に存在するとすれば、福祉事務所で作成されるいわゆる「保護台帳」(全体)、あるいは、「保護台帳」に綴られている公文書の一部が該当すると考えられる。
知事は、生活保護法第19条の規定により、当該法律の定めるところにより、保護を決定し、かつ、実施し、また、福祉事務所は、社会福祉法第14条の規定により、都道府県に設置される「福祉に関する事務所」であり、生活保護法により都道府県が処理するとされているものをつかさどる、とされている。
福祉事務所では、特定の生活保護受給者(世帯毎)に関する公文書を、いわゆる「保護台帳」というファイルに一件書類として綴っている。当該ファイルに綴られている公文書は、具体的には、収入認定調書、保護決定伺書、保護申請書、変更申請書、収入報告書、扶養届、生活指導記録等であり、特定の生活保護受給者の生活保護の受給に関する情報が記載されている公文書については、そのほとんどが「保護台帳」に綴られて管理されることになっている。

(2) 条例第13条該当性について

実施機関は、条例第13条の規定により公文書の存否を明らかにしないで不開示決定をしたので、その妥当性について検討する。

  • ア 条例第13条は、開示請求に係る公文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、実施機関が、当該公文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる旨を定めている。本条は、開示請求に対する応答の例外規定であり、これが適用できるのは、公文書の存否を応答するだけで条例第10条各号に規定する不開示情報が開示されることになる場合である。
    本件不開示決定では、「条例第10条第1号に該当する不開示とすべき情報を開示することとなる」としていることから、まず、本件開示請求に対する応答として開示請求の対象となる公文書の存在又は不存在を答えた場合に、条例第10条第1号の個人に関する情報について、どのような情報が開示になるのかを明らかにしなければならない。
  • イ 「特定個人一家が、なぜ生活保護を受けられるか。」という異議申立人の開示請求の内容は、特定個人一家が生活保護を受けていることを前提に、生活保護を受けることができる理由を開示請求しているものである。生活保護を受けられる理由が分かる公文書の存否を答えることは、その前提となる特定個人一家が生活保護を受給した事実の有無を明らかにすることになる。
    開示請求の対象文書は、上述のとおり、「保護台帳」が想定されるが、「保護台帳」は、通報や本人からの相談などにより事案が発生し、保護申請を受け、生活保護が決定された場合に、福祉事務所の担当職員が作成するものであるから、特定の個人に係る「保護台帳」の存在は、福祉事務所が特定の個人について生活保護の受給に関する相談を受け、必要な調査や判定を行い、必要な指導や措置をとった、という事実の存在を明らかにするものである。したがって、特定の個人に関して、対象となる公文書の存否を明らかにすることは、特定の個人が生活保護を受給した事実の有無を明らかにすることとなる。

(3) 条例第10条第1号該当性について

特定個人一家が生活保護を受給した事実の有無という情報は、特定個人の氏名により条例第10条第1号本文の「特定の個人を識別することができる」情報であり、生活保護を受給している場合においては、特定個人の収入や財産状況等の経済活動に関する情報を明らかにする情報である。以下、同号ただし書イからハまでに該当し、開示情報となるかどうかについて検討する。
まず、イについては、特定個人一家が生活保護を受給した事実の有無という情報は、法令や他の条例により公にされることはなく、また、慣行として公にされ、あるいは公にすることが予定されることもないので、該当しない。
次に、ロは、個人に関する情報を公にすることにより害されるおそれがある個人の権利利益よりも、人の生命、健康、生活又は財産を保護するために公にすることが必要であるといったように公益の方が上回ると認められる場合である。本件開示請求においては、特に、特定個人一家が生活保護を受給した事実の有無が、人の生命、健康、生活又は財産を保護するために開示することが必要となるような状況は、通常想定されないし、当該情報を開示すべきとするような事実は認められないので、ロには該当しない。
さらに、ハについては、特定個人一家が生活保護を受給した事実の有無が、公務員の職務としてとらえられることはないので、該当しない。

(4) 異議申立人の主張について

上記のとおり、特定の個人が生活保護を受給した事実の有無は、条例第10条第1号に規定する不開示情報に該当するものであるが、異議申立人が主張している内容を勘案しても、同様に不開示情報に該当するかどうかについて条例に則して検討する。

  • ア 異議申立人は、特定個人が「犯罪行為により、その刑を全うしたとしても全く更正しておらず」、「不正に生活保護を受給したと思われる者」であり、「不正に生活保護を受けているとしたら、権利利益の侵害には当たらず、むしろ犯罪をただすことになる」などと主張し、本件開示請求に対する決定においては個人の権利を保護する必要性はないとしている。
    そこで、条例に則して検討すると、異議申立人の主張が仮に事実であったとしても、そのことから、直ちに特定個人一家が生活保護を受給した事実の有無という情報を開示すべきであるとの判断には結びつかない。特定の個人が犯罪者であったとか、あるいは、不正を行ったなど、一般に特定の個人について社会的評価がなされる場合があるにしても、特定の個人に関する社会的評価により当該個人に関する情報の開示・不開示の判断を行うものではない。
    特定の個人が犯罪や不正を行ったため、その氏名、犯罪行為又は不正行為の内容が公にされることはあるが、それは当該犯罪行為や不正行為について公表されるものであって、特定の個人に関するその他の情報の開示・不開示の判断については、当該犯罪行為や不正行為の公表とは別に判断するものである。
  • イ また、異議申立人は、「不正をそのまま見逃し、税金が浪費され、県民に対して損害を与える」、「受給決定の判断に誤りがあった場合や虚偽記載による不正受給等について、これをただすことができなくなることは、多くの善良な県民の利益を損ねる」、「犯罪を防ぎ、適正な生活保護制度を運用するためには、……不開示とすべきでない」などとも主張している。これは、要するに、特定個人一家が生活保護を受給していることを前提に、その受給申請に不正があるとして、その不正をただすためには開示すべきであるとの主張である。
    そこで、この点について条例に則して検討すると、(3)で述べたとおり、公益上開示すべきかどうかは、条例第10条第1号ただし書ロで判断するものであり、公にすることにより害されるおそれがある個人の権利利益よりも、人の生命、健康、生活又は財産を保護するために公にする必要性が上回ると認められる場合である。異議申立人は、開示されるべき理由として異議申立人自身の事情も掲げているが、公文書の開示・不開示の判断は、開示請求者の個別の事情に応じて行われるものではない。また、その他の異議申立人の主張を斟酌しても、特定個人一家が生活保護を受給した事実の有無という情報について、人の生命、健康、生活又は財産を保護する必要性があるために開示すべきであるとは認められない。

(5) 結論
以上のことから、公文書の存否を答えることが、特定個人一家が生活保護を受給した事実の有無を明らかにするものであり、条例第10条第1号に該当する不開示とすべき情報を開示することになるので、条例第13条に基づき公文書の存否を明らかにしないとして行った本件不開示決定は妥当である。

以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
加々美光子、城口美恵子、山口道昭

審議の経過

年月日

内容

平成19年2月8日

諮問を受ける(諮問第133号)

平成19年3月6日

実施機関より開示決定等理由説明書を受理

平成19年3月15日

異議申立人より反論書を受理

平成19年3月20日

審議(第三部会第24回審査会)

平成19年4月20日

実施機関より意見聴取及び審議(第三部会第25回審査会)

平成19年5月17日

異議申立人より口頭意見陳述及び審議(第三部会第26回審査会)

平成19年6月14日

審議(第三部会第27回審査会)

平成19年7月26日

審議(第三部会第28回審査会)

平成19年8月20日

答申

お問い合わせ

総務部 文書課 情報公開・個人情報保護担当

郵便番号330-9301 埼玉県さいたま市浦和区高砂三丁目15番1号 埼玉県衛生会館1階

ファックス:048-830-4721

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