答申第33号 「高速道路における追尾式速度取締り要領(追尾式速度取締りの実施要領の部分)」の部分開示決定(平成16年8月6日)
答申第33号(諮問第35号)
答申
1 審査会の結論
埼玉県警察本部長が、平成14年6月17日付けで行った「高速道路における追尾式速度取締り要領(平成10年12月 警察庁交通局)(追尾式速度取締りの実施要領の部分)」(以下「本件文書」という。)の部分開示決定のうち、別紙1に掲げる情報については開示すべきである。
2 審査請求及び審査の経緯
(1) 本件審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成14年4月19日、埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、「最高速度取締り(追尾式)の方法のわかるもの」の開示請求を行った。(以下「本件請求」という。)
(2) これに対し、実施機関は、本件請求に対する公文書を本件文書と特定した上で、平成14年6月17日付けで次のアに示す情報を除いて開示するとの部分開示決定を行い、次のイに示す理由を付して請求人に通知した。
- ア 開示しない情報
本件文書のうち次の部分
- 「3 追尾式速度違反取締りの流れ」
- 「4 追尾式速度違反取締りの実施要領」のうち具体的方法のわかる部分
- 「6 立証措置 (2)措置要領」のうち「ウ 具体的配意事項」
- イ 開示しない理由
1及び2 条例第10条第3号及び第5号に該当する。
3 条例第10条第3号に該当する。
(3) 請求人は、平成14年6月26日付けの審査請求書により、実施機関の上級庁である埼玉県公安委員会(以下「審査庁」という。)に対し、不開示とした部分を開示すべきであるとして審査請求を行った。
(4) 当審査会は、本件審査請求について平成14年9月4日付けで審査庁から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。
(5) 当審査会の本件審査に際し、審査庁から平成15年10月15日付けの開示決定等理由説明書の提出を受け、請求人から平成15年11月19日付けの反論書の提出を受けた。
(6) 当審査会は、平成15年12月25日に、実施機関の職員から事情聴取を行った。
(7) 当審査会の本件審査に対し、審査庁から平成16年1月22日付けの「補足説明書」の提出を受けた
(8) 請求人は、平成16年1月27日に、口頭による意見陳述を行った。
3 審査請求人の主張の要旨
審査請求人が主張している要旨は、おおむね次のとおりである。
(1) 支障を及ぼすという理由はどのような支障なのか不明確で分からない。具体的な取り締まりの流れや方法を公開したところで支障などない。
(2) 警察官といえども人間である以上ミスはつきものであり、ミスの可能性がある以上、取り締まられる側である運転者にも取り締まる方を理解する必要がある。取り締まりを受けたときに、適正な取り締まりかどうか、公正な取り締まりかどうかを判断するためにも必要である。
(3) 運が悪かったという解釈の交通取り締まりではなく、取り締まりを受ける側の理解が得られ、反省が促されるような交通取り締まが求められる。
4 実施機関の主張の要旨
審査請求に対する実施機関の主張は、おおむね次のとおりである。
(1) 交通指導取締りについて
- (1) 交通指導取締りは、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図り道路の交通に起因する障害を防止するための手段として行う活動であり、交通事故防止対策に即効性のある活動である。
- (2)交通指導取締りに当たっては、違反の中でも特に交通ルールを敢て無視し、他のドライバーからみても取締りを受けることが当然と考えられるような飲酒運転、著しい速度超過、無謀な追い越し等の悪質・危険な違反や交通の流れに障害を及ぼす迷惑性の強い違反に重点を指向した取締りを実施しているところである。
- (3)中でも速度取締りは、適正な速度で走行させることにより、速度超過に起因する交通事故を防止することや、適正な交通の流れを乱す者を排除し、交通の流れの秩序化を図ることにより、交通の円滑を確保するとともに道路交通に起因する騒音、振動などの障害を防止することなどを目的としている。
(2) 不開示とした理由について
- (1)不開示とした情報は速度違反指導取締りの流れ及び実施要領といったいずれも交通指導取締りにおける具体的な取締り手法である。当該内容を開示することにより、交通指導取締りを受ける側には、どうすれば道路交通法違反として検挙され、立件されるかを知ることになり、そのための対抗手段を講じるための内容となり得るものである。即ち、速度違反をしていながら警察の取締りから逃れるための便宜を与えることにつながり、このことは警察法第2条、道路交通法等に基づく交通指導取締りに支障を生じ、公共の安全と秩序の維持及び公訴の維持に支障を及ぼすことから埼玉県情報公開条例第10条第3号に該当する。
- (2)交通指導取締りは警察法第2条、道路交通法等を根拠として、道路交通法第1条の目的を達成するために行うものであり、交通指導取締り業務に支障を及ぼすことから、埼玉県情報公開条例第10条第5号に該当する。
5 審査会の判断
(1)本件文書について
本件文書は、「高速道路における追尾式速度取締り要領(平成10年12月警察庁交通局)」のうち「第4 追尾式速度取締りの実施要領」に関する部分であり、次の内容が記載されている。
- 目的
- 幹部及び従事員の留意事項
幹部の配意事項、運転担当者の心構え、運転補助者の心構え
- 追尾式速度違反取締りの流れ
- 追尾式速度違反取締りの実施要領
事前準備、具体的方法、誘導・取調べ、(以下別添)緊急自動車の定義、緊急自動車の特例、追尾測定に対する判例、車間距離に関する定義及び解釈、パトカーの追尾測定に対する判断
- 誘導・取調べ
違反車両の誘導方法、外部マイクとパトサインの使用方法
- 立証措置
基本的考え方、措置要領、(別添)追尾式速度取締りに関する判例
本件部分開示決定により不開示とされた情報は、上記項目のうち、3(以下「情報ア」という。)、4のうち具体的方法のわかる部分(以下「情報イ」という。)、6(2)措置要領のうちウ具体的配意事項(以下「情報ウ」という。)である。
(2)条例第10条第3号(公共の安全等に関する情報)及び第5号(事務又は事業に関する情報)の該当性について
- (1) 条例第10条第3号は、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として規定している。本号の趣旨は、地方公共団体の責務として、社会生活の基盤となる公共の安全と秩序を維持し、県民全体の利益を擁護するという観点から、公文書の開示による犯罪の誘発その他の社会的障害の発生を防止することにある。
本号に該当する情報については、その性質上、開示又は不開示の判断に犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められることから、実施機関の第一次的な判断を尊重するものであるが、当該判断については、実施機関の裁量を無制限に認めるものではなく、合理性を持つものとして許容される限度内のものでなければならない。
- (2) 条例第10条第5号は、「県、国又は他の地方公共団体の機関が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報して規定している。さらに、「次に掲げるおそれ」としてイからホにおいて、県等の機関が行う総ての事務又は事業の中で共通的に見られる事務又は事業に関する情報であって、その性質上、公にすることにより、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられる典型的な支障を例示的に列挙している。そして、その典型例の一つとしてイにおいて、「監査、検査、取締り又は試験に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」のある情報を掲げている。 本号の趣旨は、県等の機関が行う事務又は事業の適正な遂行を確保することにある。したがって、「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」とは、当該情報を公にすることによる利益と支障とを比較衡量した結果、公にすることの公益性を考慮してもなお、当該事務又は事業の適正な遂行に及ぼす支障が看過しえない程度のものであることが求められる。この場合、「支障を及ぼすおそれ」は、単なる抽象的な可能性では足らず、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を生じることについて、法的保護に値する蓋然性が認められなければならない。
- (3) 本件文書は警察庁の交通局で作成された資料であるが、記載されている情報は、実施機関が高速道路における速度違反に対して行う交通指導取締り事務に関する情報であり、実際の取締り手法が書かれた教養資料であると認められる。実施機関では、情報ア及び情報イについて条例第10条第3号及び第5号、情報ウについて条例第10条第3号に該当する旨主張しているので、以下、それぞれの情報についてその該当性を検討する。
まず、情報アであるが、ここには追尾式速度違反取締りの流れが具体的に記載されている。実施機関は、パトカーの速度測定用デジタルメーターを使用した追尾式速度取締りを行うためには、この部分が公にされると、追尾式による取締りを困難にし、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれや、適正かつ公正な交通取締り業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあると主張している。しかしながら、本件対象文書には別添資料の中で、緊急自動車の特例についての判例、追尾測定に対する判例及び車間距離に関する判例が抜粋して紹介されている。例えば、「追尾測定による速度測定のためには、正確を期する必要上、車間距離をある程度つめて、測定開始から測定終了までの間、同一の車間距離を保って走行する必要がある。」(昭和56年3月23日神奈川簡裁)などがあり、これらを読むことによって情報アに記載されている内容の一部を推測することが可能であると認められる。また、本件対象文書中に、取締りの流れが文章で記載されている部分を確認することができる。判例は公表されているものであるのみならず、これらの記載部分は本件請求に対し請求人に既に開示されている。したがって、情報アが、条例第10条第3号の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ、及び条例第10条第5号の交通指導取締り業務に支障を及ぼすおそれがある情報に該当するという実施機関の判断には相当な理由があるとは認められない。
- (4) 情報イには、追尾式取締りの具体的な実施方法や速度測定方法が記載されている。実施機関は、この部分が開示されると、違反者にとって、速度違反をしていながら警察の取締りから逃れるための便宜を与えることにつながり、違反行為を容易にし、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれや、適正かつ公正な交通取締り業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあると主張している。
情報イについて、当審査会は個々に検討を行った。その結果、別紙1に掲げる情報を除いては、公にすることにより、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ及び適正かつ公正な交通取締り事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられ、実施機関が不開示と判断したことは合理的であると認められる。
しかしながら、情報イのうち別紙1に掲げる情報については、社会通念上、常識的に推測し得るものであり、開示することにより違法行為を容易にし、道路における危険を高めるおそれがあると想定することは困難である。交通指導取締りが、道路交通法第1条に掲げられている目的の、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資するために行われるものであるならば、むしろ、開示することにより、運転者のかかる違法行為を自重させることにもなり得ると考えられる。したがって、情報イのうち別紙1に掲げる情報が、条例第10条第3号の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ、及び条例第10条第5号の交通指導取締り業務に支障を及ぼすおそれがある情報に該当するという実施機関の判断には相当な理由があるとは認められない。
- (5) 情報ウは、速度違反事件を立証するための具体的配意事項についての記載であり、違反の立証要領であることが確認できる。実施機関は、速度違反は、反則金を納付すれば検察庁に送致しない軽微な反則行為であっても、反則金が不納付となれば道路交通法違反被疑事件として検察庁に送致されるため、どのような事件でも公訴の維持を考慮した立証措置を講じていると説明している。したがって、この立証要領を明らかにすることは、証拠隠滅を容易にし、公訴の維持に支障を及ぼすおそれがあると主張している。
情報ウについて、当審査会は個々に検討を行ったところ、別紙1に掲げる情報を除いては、実施機関が不開示と判断したことは合理的であると認められる。
しかしながら、情報ウのうち別紙1に掲げる情報については、違反を立証するための措置や行為の中でも、基本的で常識的なものであり、これを開示することによって違法行為を容易にしたり、違反者が証拠隠滅を図るおそれがあるとは認め難い。したがって、情報ウのうち別紙1に掲げる情報が、条例第10条第3号の公訴の維持に支障を及ぼすおそれがある情報に該当するという実施機関の判断には相当な理由があるとは認められない。
(3)まとめ
以上を踏まえ、実施機関が不開示と判断した情報のうち、別紙1の「開示が妥当と判断した部分」について不開示と判断したことは妥当ではない。実施機関のその余の判断は、妥当である。
したがって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
別紙1
項目
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情報の内容
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開示が妥当と判断した部分
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「情報ア」
3追尾式速度違反取締りの流れ
(P41)
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追尾式速度取締り時のパトカー等の具体的行為の記載。
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全て。
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「情報イ」
4追尾式速度違反取締りの実施要領のうち具体的方法のわかる部分
(P42~51)
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追尾式取締りの具体的な実施方法及び速度測定方法。
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- P42
上から10行目から同21行目まで。
下から5行目から同1行目まで。
- P43
上から1行目から同9行目まで。
- P44
図を除いた上から1行目から図を含む下から1行目まで。
- P45
上から1行目から下から7行目まで。
- P46
下から8行目から同5行目6文字目まで。下から5行目22文字目から同行目まで。
- P47
下段枠内の上から1行目から同5行目7文字目まで。下段枠内の上から行目19文字目から下から1行目まで。
- P48~49
上から1行目から同6行目まで。
表のうち「区分」の項目全て。
表のうち「運転担当者の動作・呼称要領」の区分1及び同2。同3の上から1行目から同5行目8文字目まで及び同6行目2文字目から7行目まで。同4から同6まで。
表のうち「運転補助者の動作・呼称要領」の区分1から同6まで。
- P51
上から5行目から同8行目まで。
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「情報ウ」
6立証措置
(2)措置要領
ウ具体的配意事項(P66~69)
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速度違反事件を立証するための具体的な配意事項。立証要領。
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- P66
上から12行目から同15行目10文字目まで。
上から17行目から下から1行目まで。
- P67
上から1行目から下から10行目26文字目まで。
下から8行目から同1行目まで。
- P68
上から1行目から同2行目まで。
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※注意点
- 「(」、「)」、「、」、「。」、「○」は1文字と数える。
- 数字は1文字と数える。
- スペースは数えない。
- 行の文字数はすべて左から数える。
- 罫線は行数に数えない。
審議の経過
年月日
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内容
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平成14年9月4日
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諮問を受ける(諮問第35号)
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平成15年10月15日
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諮問庁より開示決定等理由説明書を受理
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平成15年11月19日
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審査請求人より反論書を受理
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平成15年12月25日(第30回審査会)
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実施機関より意見聴取及び審議
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平成16年1月22日
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諮問庁より補足説明書を受理
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平成16年1月27日(第31回審査会)
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審査請求人より意見聴取及び審議
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平成16年4月21日(第35回審査会)
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審議
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平成16年5月24日(第36回審査会)
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審議
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平成16年6月14日(第37回審査会)
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審議
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平成16年7月14日(第38回審査会)
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審議
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平成16年8月6日
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答申
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埼玉県情報公開審査会委員名簿(平成16年8月6日現在)
氏名
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現職
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備考
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礒野 弥生
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東京経済大学教授
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遠藤 順子
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弁護士
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会長職務代理者
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大橋 豊彦
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尚美学園大学教授
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会長
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田村 泰俊
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明治学院大学教授
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野村 武司
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獨協大学教授
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馬橋 隆紀
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弁護士
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