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掲載日:2020年9月23日
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今月号は、県立草加かがやき特別支援学校 浜田 正子 教諭の取組を紹介します。
浜田教諭は、「特別支援教育コーディネーター」として、地域の児童発達支援センター、保育園、小中学校、高校等、様々な教育機関等からの要請を受けて、特別支援教育についての個々の相談に応じたり、教員の資質向上に向けた研修会を開催したりと、学校の内外で活躍しています。
児童生徒一人一人の可能性を伸ばす支援方法を常に意識しながら、迅速で的確なアドバイスをしており、特別支援教育にあたる先生や保護者から大きな信頼を置かれている、地域の特別支援教育を支える先生です
私が高校生だった時のバレーボール部の顧問の先生に憧れて、教員を目指しました。練習はとても厳しかったのですが、悩み事を相談すると、すごく親身になって考えてくださりました。部活動を柱にしながら、高校生活全体でお世話になった先生でした。
もう一つ、養護学校(当時)の教員を目指すきっかけが別にあります。私は大学を卒業して最初は臨時的任用で体育の教員をやっていたのですが、冬休みにスキーに行った際に足を大けがしてしまい、ベッドの上だけでの生活を1週間ぐらいしたことがありました。
お手洗いなんかも全部ベッドの上で、という状態で、生活の困難さをすごく感じました。そのような中、周りで支えてくれる人たちの優しさをすごく感じて、それがきっかけとなって障害のある子供たちの学校の教員になろうと思いました。
最初から持っていたわけではありません。
先ほどのとおり足をケガしてしまったので、それ以上は体育の教員を続けられないということになりました。
その後、しばらく仕事をしていない時期を経た後、上尾市の社会福祉協議会で働く機会がありました。そこには知的障害の子供が通う施設が併設されていて、そこに通う子供たちの様子を見ているうちに、やっぱり養護学校の教員になりたいと思うようになり、通信教育で養護学校教諭の免許を取得しました。
特別支援教育コーディネーターは、本校の地域の特別支援教育のセンター的機能を発揮する取組の核となる存在だと思います。
キーワードは3つあります。『寄り添う・広める・つなげる』です。
まず、『寄り添う』というのは、困難さのある子供、支援する先生、保護者の方たちの気持ちに寄り添って支援方法を伝えていくものです。
『広める』は子供の困難さの特性やその支援方法について組織の中で共通理解が図られ、支援方法をしっかりと活用できるよう働きかけていくものです。
『つなげる』は、一つの組織の中での良い取組を別の組織にも紹介していくものです。例えば、「A小学校でこんな取組をやってますよ。」と、同様の事例を抱えるB小学校に紹介するといった感じです。
様々な教育機関等が行っている特別支援教育の一助となることが特別支援教育コーディネーターの役割だと思っています。
センター的機能というのは、平成19年度の特別支援教育の開始と共に始まったものです。学校教育法に定められた、幼稚園、保育園、小中学校、高等学校等の要請に応じて、各教育機関等が特別支援教育を効果的に実施できるよう、特別支援学校が提供する一連の専門的支援です。
どこの特別支援学校にもある機能で、各特別支援学校が周辺地域の教育機関等からの要請を受けて相談に応じています。
主には、地域の教育機関等から寄せられる相談(教育相談)について対応したり、研修会の講師をしたりです。また、「自立活動直接支援」と言って、小中学校の子供でもっと専門的な支援を受けたいという子供を対象に、自立活動の支援を月に1回行っています。
教育相談のうち、児童発達支援センター、保育園、小中学校、高校などの現場に行く巡回相談では、子供たちの行動観察や知能検査を行います。そして、その結果をもとに支援方法を検討し、支援会議(カンファレンス)で現場の先生方や保護者の方にお伝えします。
平成28年4月から平成29年1月までの10か月間で、巡回相談を155回実施しました。対象となった乳幼児、児童、生徒は延べ648人でした。
出張は確かに多いですね。草加かがやきは2人体制ですので、恵まれていると思います。
あります。校内支援の方はもう一人のコーディネーターが主に担当しています。
「こんなことがあって悩んでるのですが…。」と相談があれば、センター的機能の巡回相談と同様に、子供たちを観察して、資料を作って、支援方法を提案しています。
特別支援教育が始まって10年経ち、幼稚園、保育園、小中学校、高校等の先生たちが一生懸命考えて子供たちの困難さに向けた支援を行っている中で、授業中や授業の準備等で、先生たちに負担がないわけではないと思います。
巡回相談をやっていると、困難さの強い子供を支援する先生たちの大変さを感じることがあります。ですので、そういった先生たちの気持ちをしっかりと捉えることを大切にしています。
困難さの強い子供への支援についてあまり負担感を感じずに、楽しく支援ができるように、支援方法をお伝えできればいいなと思っています。
「先生の支援によって子供が上手に授業や活動に参加できている」というような、上手くいっている部分の分析をしっかり行います。
例えば、「全体への言葉かけの前に、困難さの強い子供に対して個別に言葉かけをしていたから、全体への言葉かけの際にスムーズに動けた」などが観察できた際には、先生の「個別に先に言葉かけをした」という支援によってスムーズに反応できたことを伝えます。
さらにもっと深く入っていくと、その子供は「全体への言葉かけの中で先生の言葉に注目していくことが困難という特性」を持っていて、だから、先生の「個別に先に言葉掛けをした」支援が、「全体への言葉かけに注目できたことにつながった」んですよと、子供が持つ困難さと先生の支援の良いつながりを理論的にお伝えするようにしています。
先生たちは、ごく自然に良い支援を行っていることが多いです。そのような支援について、子供の特性からとても必要であることを伝えます。日頃行っている支援方法にそんな良さがあって、じゃあ同じように全体での言葉かけをなかなか聞いてくれないあの子にも応用できるかも、という形で支援を活用する場面が広がっていくんですね。
また、困難さの強い子供の中には、板書をノートに書き写すことが困難な子供もいます。そういった子供たちのために、板書する内容をプリントにして配布するというような支援をされていることがあります。
プリントについては、板書する内容の中のポイントとなる言葉を穴埋めにした状態のものが多いです。そのプリントは全員の子供ではなく、板書を書き写すことが困難な子供に配布しています。
そうすることで、書き写すことが困難な子供もポイントとなるところだけ書けば良いので、書く量も少ないし、先生が伝えたい大事な部分に注目することができるんですよね。授業への参加がとても上手になるんです。すばらしい支援です。
そんな形で、先生たちの支援の上手く行っているところを具体的に理論的にお伝えしていくことを大切にしています。
子供を直接支援している先生たちと一緒に、私たちみたいな外部から関わる者とのチームで子供たちの支援にあたらせてもらったときに、子供に変化が見られたことを目の当たりにできたり、先生たちから「こんな風に変わってきましたよ」と伝えられたりしたときです。そういうときに、一緒にやらせてもらって良かったと感じます。
以前、春日部特別支援学校で4年間、コーディネーターの仕事をしました。そして、草加かがやき特別支援学校が新しくできるときにこちらに移ってきました。
コーディネーターになって行動観察をやるようになると、自分が観察者に徹することができますので、冷静に子供の行動や先生の支援がよく見えるようになります。現場にいると、子供たちと一緒に自分も動くことになり、そういうことが難しいこともありますが、冷静さは常に頭の中におくよう心がけています。
センター的機能を地域の皆様にご活用いただけるように、私たちコーディネーターも研鑽を積んでいかなければと思っています。
来年度から学習指導要領が新しくなっていく中で、子供たちの理解力を高めるために、アクティブラーニングという形で子供たちのやりとり活動をたくさん取り入れた授業づくりや活動づくりが推進されていくと思います。
困難さの強い子供たちは、もともとコミュニケーションが苦手な子供が多いので、授業の中で友達とコミュニケーションをとりながら上手に参加していくことが難しい場合が多々あると思います。
ですので、今後はさらに、認知心理学を生かした学習支援について勉強していく必要があると考えています。
認知心理学の概念として情報処理システムがあげられますが、ごく簡単に言うと、「刺激を入力して、思考して、身体を動かす」という、人が情報をとらえてから行動に至るまでのプロセスをいいます。この、それぞれの段階を意識してどういう支援が良いのかしっかりとお伝えしていきたいです。
先生たちが授業や活動づくりをする上で、「情報を入力させる」段階、「思考させる」段階、そして「子供たちがいよいよアクティブに行動を起こす」段階のときにどういう支援をしていけば良いかなというところなど、今までもやってきているのですが、認知心理学に基づいた考え方を今まで以上にきちんと適切に伝えられるようになれればと思っています。
何でもよいと思うのですが、子供たちの指導とか支援を行う上で柱となるような方法論をしっかりと勉強すると良いかなと思います。
例えば私は、認知心理学とか情報処理などを勉強しながら現場の先生に伝えているところです。特別支援学校であれば子供たちの身体面からアプローチする心理療法の動作法とか、重度の肢体不自由がある子供たちを支援している先生がよく勉強している静的弛緩誘導法とか、子どもの行動の原因について、行動前のきっかけや行動から得られた結果からとらえていく応用行動分析学など、様々な指導方法があります。
そういったものをまずはしっかりと勉強していただくのが良いと思います。
そこだけに偏ってはいけないと思いますが、学んだ方法論の視点を大事にしながら、様々な日頃行う支援を客観的に見ていくことが大事なのではないかなと。
行き当たりばったりでは子供たちも混乱するし、周りの先生たちも「この先生は何をもってこういう支援をしているのかな?」とわかりにくい状況になってしまいます。一つの指針を持ちながら子供たちへの支援を行っていくことが大事だと思います。
【インタビューを終えて】
インタビューでお話しされる様子から、専門知識を基にした的確な支援方法を提案されているのだろうなと感じました。地域の特別支援教育にあたる先生や保護者の方からの信頼が厚いというのがよくわかりました。
子供たちをどう支援していけばよいか、現状に満足することなくさらに学び続ける熱い先生でした。
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