第5章 県立学校 第5章は「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」に準じ記載しています。 当指針は民間事業者に対し求められる内容を示したものであり、直接に行政機関に適用されるものではありませんが、法においては、合理的配慮の提供は民間事業者においては努力義務とされているのに対し、行政機関においては義務とされているところです。 このことから、県立学校においては民間事業者と同水準以上の対応が求められることに留意し、取組を進めていくことが必要です。 ※全体像をイメージいただくため、具体例の一部には、「合理的配慮」の一歩先の「環境整備」に該当するもの(=過重な負担が生じるなど、努力目標として捉えるべきもの。例:施設の改修や備品の購入に関すること等)が含まれます。 ■不当な差別的取扱い、合理的配慮等の具体例 不当な差別的取扱いに当たり得る具体例 障害のみを理由として、以下の取扱いを行うことは差別的取扱いに当たり得ます。 ○対応を拒否し、又は対応の順序を後回しにすること。 ○資料の送付、パンフレットの提供、説明会やシンポジウムへの出席等を拒むこと。 ○入学の出願の受理、受験、入学、授業、実習等校外教育活動、入寮、式典参加等を拒むことや、これらを拒まない代わりとして正当な理由のない条件を付すこと。 ○試験等において合理的配慮の提供を受けたことを理由に、当該試験等の結果を学習評価の対象から除外したり、評価において差を付けたりすること。 不当な差別的取扱いに当たらない具体例 ○合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者である利用者に障害の状況等を確認すること。 ○障害のある幼児、児童及び生徒のため、通級による指導を実施する場合において、また特別支援学級及び特別支援学校において、特別の教育課程を編成すること。 合理的配慮に当たり得る配慮の具体例 合理的配慮は、具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものです。 また、設置者・学校及び本人・保護者により、発達の段階を考慮しつつ合意形成を図った上で提供することが期待されます。 以下、記載している具体例は、設置者・学校の過重な負担が存在しないことが前提です。 さらに、これらはあくまでも例示であり、記載されている具体例だけに限られるものではないことに留意する必要があります。 物理的環境への配慮や人的支援の配慮の具体例 <主として物理的環境への配慮に関するもの> ○災害時の警報音、緊急連絡等が聞こえにくい障害者に対し、災害時に教職員が直接災害を知らせたり、緊急情報・校内放送を視覚的に受容することができる警報設備・電光表示機器等を用意したりすること。 ○管理する施設・敷地内において、車いす利用者のためにキャスター上げ等の補助をし、又は段差に携帯スロープを渡すこと。 ○配架棚の高い所に置かれた図書やパンフレット等を取って渡したり、図書やパンフレット等の位置を分かりやすく伝えたりすること。 ○疲労を感じやすい障害者から別室での休憩の申出があった際、別室の確保が困難である場合に、当該障害者に事情を説明し、対応窓口の近くに長いすを移動させて臨時の休憩スペースを設けること。 ◯移動に困難のある児童生徒等のために、通学のための駐車場を確保したり、参加する授業で使用する教室をアクセスしやすい場所に変更したりすること。 ○聴覚過敏の児童生徒等のために教室の机・椅子の脚に緩衝材を付けて雑音を軽減する、視覚情報の処理が苦手な児童生徒等のために黒板周りの掲示物等の情報量を減らすなど、個別の事案ごとに特性に応じて教室環境を変更すること。 <主として人的支援の配慮に関するもの> ○目的の場所までの案内の際に、障害者の歩行速度に合わせた速度で歩いたり、介助する位置(左右・前後・距離等)について、障害者の希望を聞いたりすること。 ○介助等を行う保護者、支援員等の教室への入室、授業や試験でのパソコン入力支援、移動支援、待合室での待機を許可すること。 意思疎通の配慮の具体例 ○筆談、要約筆記、読み上げ、手話、点字など多様なコミュニケーション手段や分かりやすい表現を使って説明をするなどの意思疎通の配慮を行うこと。 ○情報保障の観点から、見えにくさに応じた情報の提供(聞くことで内容が理解できる説明・資料や、拡大コピー、拡大文字又は点字を用いた資料、遠くのものや動きの速いものなど触ることができないものを確認できる模型や写真等の提供)、聞こえにくさに応じた視覚的な情報の提供、見えにくさと聞こえにくさの両方がある場合に応じた情報の提供(手のひらに文字を書いて伝える等)、知的障害に配慮した情報の提供(伝える内容の要点を筆記する、漢字にルビを振る、単語や文節の区切りに空白を挟んで記述する「分かち書き」にする、なじみのない外来語は避ける等)を行うこと。  また、その際、各媒体間でページ番号等が異なり得ることに留意して使用すること。 ○知的障害者に対し、抽象的な言葉ではなく、具体的な言葉を使うこと。 ○子供である障害者又は知的障害、発達障害、言語障害等により言葉だけを聞いて理解することや意思疎通が困難な障害者に対し、絵や写真カード、コミュニケーションボード、タブレット端末等のICT機器の活用、視覚的に伝えるための情報の文字化、質問内容を「はい」又は「いいえ」で端的に答えられるようにすることなどにより意思を確認したり、本人の自己選択・自己決定を支援したりすること。 ○比喩表現等の理解が困難な障害者に対し、比喩や暗喩、二重否定表現などを用いずに説明すること。 ルール・慣行の柔軟な変更の具体例 ○教職員等が必要書類の代筆を行うこと。 ○障害者が立って列に並んで順番を待っている場合に、周囲の理解を得た上で、当該障害者の順番が来るまで別室や席を用意すること。 ○他人との接触、多人数の中にいることによる緊張のため、不随意の発声等がある場合、緊張を緩和するため、当該障害者に説明の上、施設の状況に応じて別室を用意すること。 ○板書やスクリーン等がよく見えるように、黒板等に近い席を確保すること。 ○入学試験や検定試験において、本人・保護者の希望、障害の状況等を踏まえ、別室での受験、試験時間の延長、点字や拡大文字、音声読み上げ機能の使用等を許可すること。 ○点字や拡大文字、音声読み上げ機能を使用して学習する児童生徒等のために、授業で使用する教科書や資料、問題文を点訳又は拡大したものやテキストデータを事前に渡すこと。 ○聞こえにくさのある児童生徒等に対し、外国語のヒアリングの際に、音質・音量を調整したり、文字による代替問題を用意したりすること。 ○知的発達の遅れにより学習内容の習得が困難な児童生徒等に対し、理解の程度に応じて、視覚的に分かりやすい教材を用意すること。 ○肢体不自由のある児童生徒等に対し、体育の授業の際に、上・下肢の機能に応じてボール運動におけるボールの大きさや投げる距離を変えたり、走運動における走る距離を短くしたり、スポーツ用車椅子の使用を許可したりすること。 ○日常的に医療的ケアを要する児童生徒等に対し、本人が対応可能な場合もあることなどを含め、配慮を要する程度には個人差があることに留意して、医療機関や本人が日常的に支援を受けている介助者等と連携を図り、個々の状態や必要な支援を丁寧に確認し、過剰に活動の制限等をしないようにすること。 ○慢性的な病気等のために他の児童生徒等と同じように運動ができない児童生徒等に対し、運動量を軽減したり、代替できる運動を用意したりするなど、病気等の特性を理解し、過度に予防又は排除をすることなく、参加するための工夫をすること。 ○治療等のため学習できない期間が生じる児童生徒等に対し、補講を行うなど、学習機会を確保する方法を工夫すること。 ○読み・書き等に困難のある児童生徒等のために、授業や試験でのタブレット端末等のICT機器使用を許可したり、筆記に代えて口頭試問による学習評価を行ったりすること。 ○発達障害等のため、人前での発表が困難な児童生徒等に対し、代替措置としてレポートを課したり、発表を録画したもので学習評価を行ったりすること。 ○学校生活全般において、適切な対人関係の形成に困難がある児童生徒等のために、能動的な学習活動などにおいてグループを編成する時には、事前に伝えたり、場合によっては本人の意向を確認したりすること。  また、こだわりのある児童生徒等のために、話し合いや発表などの場面において、意思を伝えることに時間を要する場合があることを考慮して、時間を十分に確保したり個別に対応したりすること。 ○実験などでグループワークができない児童生徒等や、実験の手順や試薬を混同するなど、作業が危険な児童生徒等に対し、個別の実験時間や実習課題を設定したり、個別のティーチング・アシスタント等を付けたりすること。 学校教育分野の留意点 総論 権利条約のうち、教育分野について規定した第24条は、教育についての障害者の権利を認めることを明言し、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、障害者を包容する教育制度)及び生涯学習の確保を締約国に求めています。 これらは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が一般的な教育制度から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な合理的配慮が提供されること等が必要とされています。 障害者基本法においては、第4条第1項において「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」と、また、同条第2項において「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」とされています。 さらに、国及び地方公共団体は、教育基本法(平成18年法律第120号)第4条第2項において「障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない」とされているほか、障害者基本法第16条第1項において「障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない」とされています。 学校教育分野においては、これらの規定も踏まえて既に権利条約等への対応のための取組が進められており、合理的配慮等の考え方も、中央教育審議会初等中等教育分科会が平成24年7月に取りまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」(以下「報告」という。)及び文部科学省高等教育局長決定により開催された「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」が平成24年12月に取りまとめた「障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)」により示されています。 なお、有識者会議により示された考え方は、特別支援教育及び障害のある学生の修学支援の全体に関するものであり、現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明を受けて行う合理的配慮の提供にとどまらず、これらに基づく取組を推進することにより、当該意思の表明がない場合にも、適切と思われる配慮に関する建設的対話を働きかけるなどの自主的な取組も推進され、自ら意思を表明することが必ずしも容易ではない児童生徒等も差別を受けることのない環境の醸成につながることが期待されます。 合理的配慮に関する留意点 障害のある幼児、児童及び生徒に対する合理的配慮の提供については、中央教育審議会初等中等教育分科会の報告に示された合理的配慮の考え方を踏まえて対応することが適当です。 具体的には、主として以下の点に留意する必要があります。 ア 合理的配慮の合意形成に当たっては、権利条約第24条第1項にある、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするといった目的に合致するかどうかの観点から検討が行われることが重要です。 イ 合理的配慮は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じ、設置者・学校(学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学及び高等専門学校を除く。)をいう。以下同じ。)及び本人・保護者により、発達の段階を考慮しつつ合意形成を図った上で提供されることが望ましく、その内容を個別の教育支援計画に明記することが重要です。 ウ 合理的配慮の合意形成後も、幼児、児童及び生徒一人一人の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に見直しができることを共通理解とすることが重要です。 エ 合理的配慮は、障害者がその能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであるインクルーシブ教育システムの理念に照らし、その障害のある幼児、児童及び生徒が十分な教育が受けられるために提供できているかという観点から評価することが重要です。  例えば、個別の教育支援計画や個別の指導計画について、各学校において計画に基づき実行した結果を評価して定期的に見直すなど、PDCAサイクルを確立させていくことが重要です。 オ 進学等の移行時においても途切れることのない一貫した支援を提供するため、個別の教育支援計画の引継ぎ、学校間や関係機関も含めた情報交換等により、合理的配慮の引継ぎを行うことが必要です。 なお、学校教育分野において、障害のある幼児、児童及び生徒の将来的な自立と社会参加を見据えた障害の早期発見・早期支援の必要性及びインクルーシブ教育システムの理念に鑑み、幼児教育段階や小学校入学時点において、意思の表明の有無に関わらず、幼児及び児童に対して適切と思われる支援を検討するため、幼児及び児童の障害の状態等の把握に努めることが望まれます。 具体的には、保護者と連携し、プライバシーにも留意しつつ、乳幼児健診の結果や就学前の療育の状況、就学相談の内容を参考とすること、後述する校内委員会において幼児及び児童の支援のニーズ等に関する実態把握を適切に行うこと等が考えられます。 合理的配慮の具体例 当マニュアルの記載例の他、報告において整理された合理的配慮の観点や障害種別の例及び独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が運営する「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」や「特別支援教育教材ポータルサイト」も参考とすることが効果的です。 なお、これらに示されているもの以外は提供する必要がないということではなく、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されることが望まれます。 相談体制の整備に関する留意点 学校教育法第81条第1項の規定により、私立学校を含め、障害により教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒が在籍する全ての学校において、特別支援教育を実施することとされています。 学校の校長(園長を含む。以下同じ。)は、特別支援教育の実施の責任者として、自らが特別支援教育や障害に関する認識を深めるとともに、リーダーシップを発揮しつつ、特別支援学校のセンター的機能等も活用しながら、次の体制の整備を行い、組織として十分に機能するよう教職員を指導することが重要です。 ア 特別支援教育コーディネーターの指名 各学校の校長は、各学校における特別支援教育の推進のため、主に校内委員会や校内研修の企画・運営、関係諸機関や関係する学校との連絡・調整、保護者からの相談窓口などの役割を担う教員を「特別支援教育コーディネーター」に指名し、校務分掌に明確に位置付けます。 また、校長は、特別支援教育コーディネーターが合理的配慮の合意形成、提供、評価、引継ぎ等の一連の過程において重要な役割を担うことに十分留意し、学校において組織的に機能するよう努める必要があります。 イ 特別支援教育に関する校内委員会の設置 各学校においては、校長のリーダーシップの下、全校的な支援体制を確立し、障害のある又はその可能性があり特別な支援を必要としている幼児、児童及び生徒の実態把握や支援方策の検討等を行うため、校内に特別支援教育に関する校内委員会を設置します。 校内委員会は、校長、教頭、主幹教諭、特別支援教育コーディネーター、教務主任、生徒指導主事、通級による指導担当教員、特別支援学級担当教員、養護教諭、対象の幼児、児童及び生徒の学級担任、学年主任、その他必要と認められる者などで構成します。 学校においては、主として学級担任や特別支援教育コーディネーター等が、幼児、児童及び生徒・保護者等からの相談及び現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明を最初に受け付けることが想定されます。各学校は、相談等を受けた学級担任や特別支援教育コーディネーター等と本人・保護者との対話による合意形成が困難である場合には、校内委員会を含む校内体制への接続が確実に行われるようにし、校長のリーダーシップの下、合意形成に向けた検討を組織的に行うことが必要です。  このような校内体制を用いてもなお合意形成が難しい場合は、法的知見を有する専門家等の助言を得るなどしつつ、法の趣旨に即して適切に対応することが必要です。 研修・啓発に関する留意点 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」では、地域住民等に対する啓発活動として、「障害者差別が、本人のみならず、その家族等にも深い影響を及ぼすことを、国民一人ひとりが認識するとともに、法の趣旨について理解を深めることが不可欠であり、また、障害者からの働きかけによる建設的対話を通じた相互理解が促進されるよう、障害者も含め、広く周知・啓発を行うことが重要である」とされています。 この周知・啓発において学校教育が果たす役割は大きく、例えば、障害者基本法第16条第3項にも規定されている障害のある幼児、児童及び生徒と障害のない幼児、児童及び生徒の交流及び共同学習は、障害のない幼児、児童及び生徒が障害のある幼児、児童及び生徒と特別支援教育に対する正しい理解と認識を深めるための絶好の機会であり、同じ社会に生きる人間として、お互いを正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶ場です。 また、障害のある幼児、児童及び生徒の保護者、障害のない幼児、児童及び生徒の保護者ともに、このような学校教育に関わることにより、障害者に対する理解を深めていくことができます。 学校においては、学校教育が担う重要な役割を認識し、幼児、児童及び生徒の指導や保護者との連絡に携わる教職員一人一人が、研修等を通じて、法の趣旨を理解するとともに、障害に関する理解を深めることが重要です。