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掲載日:2021年12月22日

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答申第140号 「体力検査の基準(握力、垂直跳び及び反復横跳び)」の部分開示決定(平成21年1月28日)

答申第140号(諮問第156号)

答申

1 審査会の結論

埼玉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成19年11月16日付けで行った、「体力検査の基準(握力、垂直跳び及び反復横跳び)(文情第634号)」(以下「本件対象文書1」という。)及び「体力検査の基準(握力、垂直跳び及び反復横跳び)(文情第640号)」(以下「本件対象文書2」という。)を部分開示とした決定(以下併せて「本件処分」という。)について、不開示とした部分を開示すべきである。

2 審査請求及び審議の経緯

(1) 審査請求人は、平成19年9月18日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し次の開示請求を行った。

  • ア 平成18年度第2回警察官採用試験の教養試験の正答番号が記載された文書、論文試験の採点基準、人物試験の採点基準、体力検査の合格基準、適性検査の合格基準(評価基準)(1類)(以下「請求1」という。)
  • イ 平成19年度第2回警察官採用試験の教養試験の正答番号が記載された文書、論文試験の採点基準、人物試験の採点基準、体力検査の合格基準、適性検査の合格基準(評価基準)(1類)(以下「請求2」という。)

(2) 実施機関は、平成19年11月16日付けで、請求1及び請求2のそれぞれ体力検査の合格基準の部分について、本件対象文書1及び本件対象文書2を特定し、握力、垂直跳び及び反復横跳びの基準を条例第10条第5号に該当するとして不開示とする部分開示決定を行い(以下「本件処分」という。)審査請求人に通知した。

(3) 審査請求人は、平成20年1月15日付けで、埼玉県公安委員会(以下「諮問庁」という。)に対し、本件処分を取り消し、全部開示を求める旨の審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。

(4) 当審査会は、本件審査請求について、平成20年3月26日に諮問庁から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。

(5) 当審査会は、諮問庁から、平成20年5月7日に開示決定等理由説明書の提出を受けた。また、同年6月19日に諮問庁の職員から意見聴取を行った。

(6) 当審査会は、審査請求人から平成20年6月6日に反論書の提出を受けた。

3 審査請求人の主張の要旨

審査請求人が主張している内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 体力検査の目的は、受験者が警察官として必要な身体・体力を有するか否かを判定することであり、その合格基準は、基準を超えることができれば警察官として必要な身体・体力を有し、基準に満たなければ警察官として必要な身体・体力を有していないと評価されるものとして定められるはずである。
そして、握力、垂直跳び及び反復横跳びという体力検査において基準を超えることができるか否かは、通常、その基準を知っているか否かに左右されるものではない。
体力検査の基準を知って、その基準を超えるべく体力増強に努め、その結果、基準を超えることができたとしても、その者を警察官として必要な身体・体力を有するものとして認めることに差し支えはなく、警察官となるべく、体力検査の基準を満たそうと努力するのは、望ましいことであり、有為な人材の確保に資する。

(2) 仮に、基準以上の体力を有することが受験者にとって有利な加点要素となり得るとしても、基準を超える体力を有する受験者を基準ちょうどの体力しか有さないものと評価して、その結果、加点がなされず、その受験者が不合格となっても、大事な試験で手抜きをしたことは受験者自身の責任であり、それによって不合格としても特に差し支えないと考えられる。
もし、基準以上の体力を有する受験者に最大限の能力を発揮して体力検査に望んでもらいたいと埼玉県が考えるのであれば、基準を公開した上で、その旨予め受験者に告知すれば事足りるはずである。
条例は、公文書を公開することを原則とし、「適正な採用試験業務の遂行に支障を生じるおそれ」という抽象的な危険性を根拠に「検査名称等」を「不開示情報」とすることは、「不開示情報」の範囲を著しく広げるもので、知る権利の保障を目的とする条例の趣旨に照らして妥当でない。

(3) 他県においては警察官採用試験における体力検査の基準を詳細に公表している場合(福岡県等)があり、このような他県において適正な採用試験の業務の遂行に支障が生じているとはとうてい考えられない。
公正に行われるべき公務員の採用試験においては、その合否決定過程の透明性を確保するためにも、体力検査の基準を含む合否の基準は可能な限り公開されるべきである。

4 諮問庁の主張の要旨

諮問庁が主張している内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 警察官採用試験では、多様な試験を行い、それぞれの試験結果を総合的に評価しており、体力検査については、受験者が警察官として職務執行をするに当たり、必要最低限度の体力を有しているかを把握するためだけの考査ではなく、受験者が各々有している体力を正確に把握し評価するものである。

(2) 体力検査の基準を開示した場合、基準をクリアしさえすればよいといった誤解を生じさせるおそれがあり、その結果、受験者が基準以上に有している体力について正確に把握することが困難となり、適正な採用試験の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、条例第10条第5号に該当するとした。

(3) 体力検査の基準が示された場合、受験者が基準以上に有している体力を正確に把握することが困難となることについて、審査請求人は手抜きをした受験者が不合格となっても、それは本人の責任であるから差し支えないと主張するが、やはり高い能力のある者を採用したいと考えている。

(4) 本件対象文書1及び本件対象文書2の数字以外に、伸びる素養や、訓練についていけるような精神的な強さあるいは前向きな姿勢といったものも加味して合否を決定している。したがって、これらは合格の判定基準ではなく、あくまでも採点基準であり、一つの判断の目安である。しかし、これらの文書以外に体力検査について最終的な合否判定を行うための基準はなく、「体力検査実施要領」等の文書もない。

5 審査会の判断

(1) 本件対象文書1及び本件対象文書2について

本件対象文書1及び本件対象文書2は、平成18年度第2回及び平成19年度第2回警察官採用試験の体力検査の合格基準(1類)についての開示請求に対して、それぞれ特定されたものである。

(2) 本件対象文書1及び本件対象文書2の特定について

本件対象文書1及び本件対象文書2を見分したところ、内容は全く同一であり、《握力》、《垂直跳び》及び《反復横跳び》という検査項目ごとに、それぞれ表が記載されている。しかし、これらの表の数値をどのように使用して合否の判定をするのかについて記載がなく、対象文書の記載内容では合格の基準を表す文書といえるかどうかは不明である。この点について諮問庁に釈明を求めたところ、前記4(4)のように、本件対象文書1及び本件対象文書2はあくまで体力検査の判定をする際の目安であり、これらの表に記載された数値を超えたか否かをもって直ちに合否を決するものではないとのことである。そして、これらの公文書以外に警察官採用試験の体力検査の判定において使用されている公文書はないとのことである。
これらのことから、本件対象文書1及び本件対象文書2は、厳密には体力検査の合否を判定する基準とはいえず、合否を判定する基準が公文書として存在しないものと言わざるをえない。かかる事態は遺憾であるが、本件対象文書が、現在のところ警察官採用試験の体力検査の判定の際に使用する基準として唯一の公文書であることから、対象文書を不存在とはせずにこれらの文書を特定した実施機関の対応は、その限りにおいては適当であったと認められる。

(3) 条例第10条第5号の該当性について

諮問庁は、「体力検査の基準を開示した場合、基準をクリアしさえすればよいといった誤解を生じさせるおそれがあり、その結果、受験者が基準以上に有している体力について正確に把握することが困難となり、適正な採用試験の遂行に支障を及ぼすおそれがある。」と主張する。
諮問庁は「体力を正確に把握することが困難」となると主張しているが、実施機関が配付している試験案内等によれば、体力検査はあくまで「警察官として職務執行上必要な身体、体力について」判定するのが目的であって、警察官として最低限必要となる身体、体力を備えているかを判定しようとするものである。
体力検査において警察官として必要な体力を有さない者であれば、たとえ検査の基準を事前に知ったとしても、それによって何らかの手段を用いて合格に至ることがあるとは容易には考えにくい。そのほか、検査の基準を公表することによって諮問庁が主張しているような事態が起こることは想定しえず、適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。
以上により、不開示部分を開示しても条例第10条第5号に該当するとはいえないことから、本件対象文書1及び本件対象文書2は全て開示すべきである。

以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
磯部 哲、白鳥 敏男、渡辺 咲子

審議の経過

年月日

内容

平成20年3月26日

諮問を受ける(諮問第156号)

平成20年4月17日

審議(第二部会第34回審査会)

平成20年5月7日

諮問庁から開示決定等理由説明書を受理

平成20年5月22日

審議(第二部会第35回審査会)

平成20年6月6日

審査請求人から反論書を受理

平成20年6月19日

諮問庁からの意見聴取及び審議(第二部会第36回審査会)

平成20年7月23日

審議(第二部会第37回審査会)

平成20年9月18日

審議(第二部会第38回審査会)

平成20年10月21日

審議(第二部会第39回審査会)

平成20年11月25日

審議(第二部会第40回審査会)

平成20年12月16日

審議(第二部会第41回審査会)

平成21年1月20日

審議(第二部会第42回審査会)

平成21年1月28日

答申(答申第140号)

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