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発表日:2020年5月29日11時
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部局名:環境部
課所名:環境科学国際センター
担当名:大気環境担当
担当者名:米持
直通電話番号:0480-73-8352
Email:g738331@pref.saitama.lg.jp
窒素酸化物(NOx)や微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染は、自動車交通と産業活動の影響を強く受けるといわれています。
政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が令和2年4月7日から5月25日まで発令していた緊急事態宣言に伴う社会、経済活動の自粛は、大気環境に変化をもたらした可能性が考えられます。
そこで、環境科学国際センターでは、緊急事態宣言が発令された4月7日前後(3月1日~4月26日)の大気汚染測定データ(県内83か所)を基に、平日と休日に分け、汚染状況の変化を明らかにしました。
自動車排ガスなど燃焼に伴い発生し、光化学スモッグなどを引き起こす大気汚染物質であるNOxの濃度については、県内の市役所などに設置されている一般大気環境測定局33局では、宣言後に平日で25%、休日で31%減少しました。特に秩父の休日は顕著で、45%減少しました。これは休日に観光地へ向かう交通量の減少による影響と推測されます。
県全体を昨年の同じ期間の変化と比べると、平日に濃度が大きく低下したことが分かりました。
社会的な関心が高いPM2.5の濃度については、一般大気環境測定局のうち県南東部地域(位置図参照)で、宣言の前後で平日、休日とも20%以上減少しましたが、昨年との比較では、大きな変化は見られませんでした。これは、PM2.5の生成が、季節や他の物質の影響を受けやすいためと考えられます。
これらの解析で、社会、経済活動の自粛は、大気環境に大きな影響を与えたことが見受けられました。今回のような厳しい状況で得られた貴重なデータを、今後さらに自動車交通量の変化などと比較、解析することで、社会、経済活動が平常に戻った際にも、次世代自動車の普及をはじめとする大気汚染対策に効果が上がるように活用してまいります。
緊急事態宣言発令に伴う、社会、経済活動の自粛により、発令の前後で埼玉県の大気汚染に変化が現れた可能性があります。
大気汚染は、県内に配置された大気汚染常時監視測定局(以下、「測定局」)で常時測定されていますが、この測定値(濃度)を基に、今回の緊急事態宣言に伴う自粛要請が、埼玉県の大気環境にどの程度影響を与えたか定量的に明らかにすることは、今後大気汚染対策を進める上でも重要と考えられます。
測定局には、その地域の大気汚染の状況を把握するための一般大気環境測定局(以下、「一般局」)と、自動車から排出される汚染物質を把握するための自動車排出ガス測定局(以下、「自排局」)とがあります。これらの測定値(濃度)を基に、以下の方法でデータ解析を行いました。
対象期間:2020年3月1日~4月26日(比較として2019年3月3日~4月28日)
対象測定局:東秩父測定局を除く、県内全ての測定局(下図参照)
対象物質:窒素酸化物(NOx)、PM2.5、非メタン炭化水素(NMHC)、一酸化炭素(CO)
埼玉県の大気状況(埼玉県環境部大気環境課)※測定データは速報値です。
http://www.taiki-kansi.pref.saitama.lg.jp/index.html
(1)埼玉県内の全測定局の平均濃度は、全ての対象物質で、宣言後に低下が見られました。
(2)一般局では、NOx、PM2.5ともに、宣言後に濃度が最も低下したのは県南東部地域で、平均濃度は平日にNOxで5ppb、PM2.5で4µg/m3、休日はNOxで3ppb、PM2.5で4µg/m3低下しました(表1)。本地域は都内に近く、産業活動も交通量も多いために、元々の濃度が高く、自粛要請による影響がより強く表れたと考えられます。なお、PM2.5は環境基準を下回っており、また、NOx(NO2とNOの合計)には環境基準はありませんが、環境基準のあるNO2と比べても低い値です。
表1 県南東部地域のNOxとPM2.5の宣言前後の濃度変化
(3)宣言前後の濃度比(宣言前を1とした場合の宣言後の濃度)では、NOxでより明瞭に低下が見られました。多くの地域で平日より休日の方がNOx濃度は低下し、県北東部、県北中部、本庄で30%以上、特に秩父では45%減少しました(図1)。
図1 一般局のNOx濃度比
(宣言前を1とした場合の宣言後の濃度)
(4)季節による濃度の変化を考慮するため、NOx濃度の宣言前後の濃度比を、昨年同時期(3月3日~4月9日と4月10日~28日)の濃度比と比較すると、平日は県北中部、県北西部、本庄で29%~36%の減少となり、休日は秩父で32%の減少が見られました。秩父は、県南部と比べて元々の濃度は低いですが、休日は自粛により観光地への交通量が減った影響が現れたと考えられます(図2)。
図2 一般局のNOx濃度変化 (昨年同時期の濃度変化を1とした場合の今年の変化) |
(5)PM2.5の濃度を宣言前後と比較すると、平日、休日ともに県南東部地域で、宣言後に20%以上の減少が見られましたが、昨年同時期の濃度比との比較では、大きな差は見られませんでした。PM2.5には、他の物質から空気中の化学反応で粒子となる二次生成粒子の寄与が大きく、季節や他の物質の影響を受けやすいためと考えられます。
(6)自排局のNOx 、PM2.5は一般局と比べて濃度が高いですが、一般局と同様の傾向が見られました。NOxの日最高濃度が20ppb以上低下したのは、全て県南地域の測定局でした。これは、日常的な交通渋滞が減少したためと考えられます。