埼玉県立がんセンター > 臨床腫瘍研究所 > 研究所プロジェクト紹介 > がん悪性化に関わるエピジェネティックな修飾機構の分子メカニズムの解明
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掲載日:2023年9月12日
担当: 竹信尚典、佐藤俊平、迎恭輔、杉野隆一、大平美紀、上條岳彦
がんは遺伝子の変異を伴う病気として認識されているが、一部の成人がんや多くの小児がんにおいて、発がんに関わる明らかな遺伝子変異が見つからないことがあります。これらには、ゲノムDNAとともに存在する、ヒストンタンパク質の修飾を介して遺伝子の発現を制御する分子、ポリコーム複合体の働きによるものが含まれると考えられています。ポリコーム複合体には、大きく分けてPRC1とPRC2が存在し、異なったメカニズムで主に遺伝子の発現を抑制しています。
我々はこれまでに、PRC1に含まれ、様々ながんに高発現している分子BMI1が、複数のがん種において、がん抑制遺伝子の発現を抑制することで、がんの悪性化を引き起こしていることを明らかにしました。このBMI1は、がん細胞で発現を強く抑制すると、細胞死が誘導されることから、新規の治療標的として期待がされています。現在は、PRC1に含まれる酵素RING1の阻害剤の開発および、BMI1を始めとしたPRC1分子がどのように細胞死を抑制するのかを検討しています。
一方で、ポリコームのもう一つの複合体PRC2の酵素活性を司るEZH2に関して、神経芽腫における発現抑制を行うことで、細胞の神経への分化が誘導されることをあきらかにしました。また、EZH2の阻害剤は、様々ながんにおいて治療効果が期待されている新しい治療法です。しかしながら、その抗腫瘍効果は細胞によって異なっていることから、我々は、網羅的解析を行ってEZH2阻害剤の感受性に関わる遺伝子の候補を複数見出しました。
さらに、PRC2複合体のもう一つの酵素活性を担うと考えられるタンパク質EZH1のがんでの働きについても解析しています。
がん悪性化に関わるポリコーム分子の図
これまでに我々が明らかにした、がんの悪性化に関わるポリコーム複合体PRC1, PRC2の働き。
主な論文
1. Ochiai H, et al. (2010) Oncogene, 29(18):2681-2690
2. Iwata S, et al. (2010) Cancer Sci, 101(7):1646-1652
3. Kimura M, et al. (2011) Cancer Sci, 102(5):983-990
4. Li Z et al. (2018) Oncogene, 37(20):2714-2727
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