埼玉県立がんセンター > 臨床腫瘍研究所 > 研究所プロジェクト紹介 > 小児腎腫瘍の発生・進展に関与するgenetic・epigenetic異常の解明
ここから本文です。
掲載日:2023年9月12日
担当者: 春田雅之、金子安比古、上條岳彦
腎芽腫は小児の腎臓に発生する腫瘍の70-80%を占めます。半世紀前、腎芽腫5年生存率は20%と非常に予後不良でしたが、1980年代から年齢、病期と病理型により治療方針が決定されたこと、および治療法の発展と集学的治療により5年生存率は90%まで劇的に改善しました。しかしながら、腎芽腫患児の20%は再発し10%は亡くなります。更なる治療成績の向上が望まれる一方で、腎芽腫5年生存率は90%を越え、長期生存するので副作用および晩期障害を考慮した治療軽減の重要性が指摘されています。これらの課題を克服するため腫瘍の悪性度により治療を層別化するための新たな分子マーカーが必要です。これまでにいくつかの遺伝子・染色体異常が予後予測マーカーとなることが報告されています。
日本人の腎芽腫発症頻度は白人の1/2程度であり、好発年齢、前がん病変部とされる病理組織型や治療反応性が異なります。これら相違は遺伝的な素因によると考えられます。我々はこれまでの日本人腎芽腫の解析から遺伝子・染色体異常の特徴が欧米人腎芽腫と異なることを明らかにしました(Cancer Sci. 2012 103:1129-35、Br J Cancer. 2015 112:1121-33)。よって、欧米から明らかにされた予後と相関する遺伝子・染色体異常が日本人腎芽腫でも予後予測分子マーカーとして有用であるかどうか、また、日本人腎芽腫の解析から予後と相関する遺伝子・染色体異常を見出すため日本人腎芽腫の遺伝子・染色体異常の解析を実施しています。
また、腎芽腫の既知原因遺伝子の解析から腎芽腫発生メカニズムとしてWT1遺伝子異常にIGF2発現様式異常を伴うことを明らかにしました(Genes Chromosomes Cancer 2008 47:712-27)。しかしながら、腎芽腫の半数以上は既知原因遺伝子に異常が認められず、発症メカニズムは不明なところが多く残っています。よって、腎芽腫発症のメカニズムを解明し、その成果を臨床につなげるため基礎的な研究も実施しています。
日本人腎芽腫における遺伝子・染色体異常による新たなリスク分類
A) 日本人腎芽腫のSNP arrayを用いた網羅的染色体解析
赤;染色体欠失領域、青;染色体増加領域、緑;片親性ダイソミー領域。
B) 遺伝子・染色体異常により高リスク群、中間リスク群および低リスク群に分類
代表する論文成果
1. Haruta M et al. Cancer Sci. 2012 103:1129-35
2. Kaneko Y et al. Br J Cancer. 2015 112:1121-33.
3. Haruta M et al. Neoplasia 2019 21:117-131.
お問い合わせ
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください