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掲載日:2019年3月26日
3月のはつらつ・れんたつ教職員では戸田市立戸田東小学校 小梨 貴弘 教諭の取組を紹介します。
ICT機器を活用して、より魅力的で深い学びを実践する小梨先生。タブレット端末などを使用した音楽の授業の最前線を取材しました。
小学校、中学校、高校、大学と、素晴らしい恩師に巡り会うことができました。それぞれの恩師との出会いの中で、人の心を動かしたり、震わせたりすることのできる教師という職業に憧れを感じたことが、教師を志した一番の理由ですね。
子供が音楽を通して仲間と感動体験を共有し、その積み重ねによって人間的に大きく成長していく姿を、今まで何度も見てきました。どんなにA.I.という技術が進化したとしても、人の手でなければ成しえない、「ヒューマニティ」の育成をめざすのが音楽の授業であって、「人を育んでいる」という実感を強く感じることが出来ることが一番の魅力であると思います。
そうですね。もちろん個人教室でも、音楽を学ぶことはできますが、たくさんの仲間と一緒に音楽をつくり上げていくという経験は、学校でないとなかなかできないものです。学校に音楽の授業が存在する大きな意義はそこなのだと思います。
私が赴任する前から、この戸田東小学校は歌声を自慢とする学校でした。私が着任してからは、毎年、全校で1つの大きなテーマ(「友達」「夢」など)を決め、そのテーマに沿って校内音楽会や毎月の音楽朝会などで歌う曲を選ぶようにしています。
例えば、今年度のテーマは「奇跡の星、地球」なのですが、この場合、歌う曲の題名には必ず「星」や「地球」といった言葉が入っている、という感じです。「地球環境」や「宇宙への憧れ」など、その歌の作者が曲を通して伝えたいことに思いを寄せたり、どのように表現すれば、自分たちの思いを伝えられるか、などを考えたりすることで、より豊かな音楽表現に結びつけているのです。
今年度は、昨年9月に音楽会があったのですが、各学年とも持ち味を生かした素晴らしい演奏をしてくれました。まだ途中段階ではありますが、少しずつ、私の意図が子供たちに伝わってきていると実感しています。
もちろん発達段階に応じてですので、1年生であれば「きらきら星」というように、分かりやすい曲から始めるのですけれども、高学年になるにしたがって、自分のおかれている状況と照らし合わせながら、様々な事象に思いを寄せることができる曲を選ぶようにしています。
また、現在、本校は改築工事中で、昨年9月の音楽会以降、体育館が「ない」状態なんです。ですので、学校で児童が一堂に会して音楽活動をすることが難しくなってしまっているのですが、学校のテレビ放送を活用して「音楽朝会」を行い、テーマに沿った「今月の歌」を歌い、学校全体に歌声を響かせる活動は継続しています。
そうですね。授業に留まらず、学校の音楽活動全体でパソコン、タブレット端末、大型テレビ、プロジェクターなどのICT機器の積極的な活用を進めています。
音楽科でICT機器を活用する場合、児童の視点からですと、「授業をより魅力あるものにする」、「音楽室のユニバーサルデザイン化を進める」、「アクティブラーニングを促進する」といった点で活用の効果があります。また教師の視点で考えると「授業のスピード感を保つ」、「教務の効率化を図る」、「音楽行事を盛り上げる」という点で有用です。
ICT機器の活用で一番イメージしやすいものとしては、パワーポイント等を使用して視覚的に授業内容を提示することなどが考えられますが、戸田市では音楽室などの特別教室にも大きなモニターが入っていますので、音楽を流しながらモニターにパワーポイントで作成した歌詞を映して歌うということも日常的に行っています。
もちろん教科書は見るのですが、本を見ながら歌うと顔が下を向いてしまい、良い歌声が出ないことがあるのです。今までは教員が大きな紙に手書きで歌詞を書いて、なるべく前を向いて歌えるようにしていましたが、そうした作業はとても手間がかかるものでした。しかし、こうした「ICT機器」を活用することで、教材の準備や提示も楽になりましたし、一度作ってしまえばデータとして半永久的に使えることも、大きな利点と言えます。
また戸田市ではタブレット端末の整備が進んでおり、様々な教科の授業で使っています。音楽でも活用していまして、このような楽器アプリを使って本物の楽器の疑似体験などをしています。
授業で使用しているお琴のアプリ画面
勿論、本物のお琴の体験も行うのですが、数に限りもありますので、まずはこうしたアプリを使用して、子供たちが本物に触れるための事前練習をしているんです。本物のお琴の体験の際は、タブレット端末のお琴と本物のお琴を比べることで、本物の楽器のもつ音色や響きの良さを、より深く味わってもらうようにしています。
そうですね。また、音楽の授業では、CDやDVDといった色々なメディアを使用するのですが、それらをとっかえひっかえして再生している時間がロスになり、授業の流れが停滞してしまうということがよくありました。これも、パソコンやタブレット端末を用いて様々なコンテンツを一元管理することで、授業をスピーディに進めることができるようになりました。このような活用方法も、音楽の授業にICT機器を導入する大きな目的の一つであると思います。
Society5.0※1や第4次産業革命がまもなく到来するといわれています。そうした時代に順応できる子供たちを育成するために、日本の教育が大きな変革の時を迎えようとしています。このような時代の流れの中で、音楽科も、今まで築き上げてきた「不易」な部分を大切に継承しつつも、「流行」にもしっかりと正対し、授業改善を進める教科であり続けなければならないと考えています。それは、小学校での英語教育やプログラミング教育など新たに学ぶことが増えている中、旧態依然としたままの教科が淘汰されてしまう時代が来るのではないかという強い危機感を感じるからなのです。
「人の心を育む」という音楽科の究極の目的が、学校教育の中で必要不可欠なものであることは先ほど申し上げました。自分にとっての重要なミッションは、音楽が子供達の豊かな心を育む、学校の「教科」であり続けるためにも、A.I.時代に向けた授業改善のために取り入れられる様々な教育手法、例えばプログラミング教育、PBL※2、STEAM※3教育、授業のユニバーサルデザイン、ICT活用などですが、そうしたものに対して、音楽科がどのような関わりをもつことができるのかを検証し、時代に即した音楽科の授業の在り方を考え、発信していくことだと思っています。
※1 サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会。
※2 Project Based Learning の頭文字をとった言葉。自ら問題を発見し解決する能力を養うことを目的とした教育法。
※3 科学、技術、工学、数学(Science, Technology, Engineering and Mathematics)の教育分野を総称するSTEMに芸術(Art)を加えた言葉。
現在、教師という職業は、その大変さばかりが取り沙汰されている感がありますが、どのような社会情勢の中においても、「人を育てる」という崇高な「聖職」であることに変わりはありません。
卒業式の時に子供たちから「ありがとうございました」と涙ながらに言われたり、卒業して立派になった姿を母校に見せにきてくれたりしたとき、この仕事に就いてよかったなと実感します。そこまで子供達を育て上げるまでの道のりは長く、様々な困難もありますが、子供たちが徐々に成長し、立派になっていく…そんな姿を傍らで見守りながら、日々の実践を積み重ねていくことが、教師の「醍醐味」なのではないかと思います。
「教えなければいけない!」とガチガチにならずに、自分自身も楽しみながら「笑顔」と「ポジティブシンキング」を大切にして、教師生活を歩んでいってほしいです。
【インタビューを終えて】
単に最新機器を使いこなすだけではなく、これからの時代に音楽科が何を求められているのか、そしてこれからの時代を生きる子供たちに音楽科として何ができるのかという命題に向き合う小梨先生。その仕事に対する真摯な姿勢に、インタビューをしている間、私も背筋がピンと伸びる思いでした。
音楽科とそれを学ぶ子供たちの明るい未来のためにも、今後もぜひ頑張っていただきたいと思いました。
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