○バリアフリーからユニバーサルデザインへ
なぜユニバーサルデザインかというと、その要因はひとえに「高齢社会」である。高齢社会への移行により、ハード面の整備状況が「they(あの人たち)」の問題ではなく「we(我々)」の問題になってきた。これまでは、「they」の問題でなく「we」の問題であると「バリアフリー」をキーワードで説得しようとしてきたが、今やユニバーサルデザインの概念で「we」の問題であることを説得できる。
しかし、抱えている社会的背景、状況は非常に厳しい。今後さらに進展する高齢社会のことを考えると、団塊の世代の人たちは、現在、投資されている(税金等を投入している)インフラ等の整備が15年先に果たして自分が使えるのかどうかを真剣に考えなければならないことに気づくであろう。
○ユニバーサルデザインの必要性
・高齢化
日本の高齢化は、他国に比べて短期間で急激に進んでいる。
・年齢と能力の関係
インフラ整備や社会政策を考えるときに、これまで長期間、想定能力水準(重たいものを持ち上げられる能力、素早く動ける能力等)を55歳までとして考えてきた。今や人生80年の時代であり、想定能力水準を70歳程度にまで引き下げようというのがユニバーサルデザインである。
・使用期間と公・私の関係について
使用期間が短く、私的資金が投入されるプロダクトについては、各自の予算の範囲内で選択肢があればよい。但し、その選択肢は使い易いものでなければならない。ものによっては選択肢がなく(少なく)、高価なものがあり、それがプロダクトの問題である。
住宅は、資金は個人負担であるが長期間使用である。年寄りになって、住めなくなって追い出されることにならないような住宅にする必要がある。そのために、日本には、住宅金融公庫による金利の緩和などというインセンティブ、ツールがある。(外国にはそのような制度はほとんどない。)
インフラは、公的資金が投入され使用期間が長い。インフラは、選択肢がない(One Design For Allである)若しくは少ないので、みんなが使いやすいものでなければならない。
・ユニバーサルデザインの概念について
8割の人に対しては、使い勝手云々という議論はされない。議論されるのは2割の人たちへの対応である。そのうち、1割以上の人に対しては、使い易いように少しデザインを変えることが容易で必要。さらに、一部の人には、自立支援技術(UDとは全く関係ない部分。生活、生存にかかわる部分。)が必須である。昔のバリアフリーの議論はこの考えが整理されていなかった。まず、使いやすさを考えたデザインが大前提、それでもダメな場合には自立支援技術を考えましょうというのがユニバーサルデザインである。
○「いいデザイン」のための6つの要件
「いいデザイン」の要件として6点、1安全性、2アクセシビリティ、3使い勝手、4価格妥当性、5持続可能性、6審美性を考えている。安全性とアクセシビリティと使い勝手までが昔のバリアフリーの念頭にあった概念で、値段(価格妥当性)を度外視していた。ユニバーサルデザインは価格妥当性も念頭に入れる。
○プロダクトの問題
世の中でうまくいっていないのはプロダクトである。それは、若い人だけを念頭に作っても、今は売れているからである。今後、若い人が将来の保障のためにお金を回してものを買わなくなると、ものを買う人は、お金を持っている高齢者(住宅ローンが終わり、教育費負担も終えた人など)である
。しかし、本当に買いたいものにはお金を使える準備ができているのに、買えるもの(使えるもの)がないということになっている。致命的な問題であり、これを何とかしなければならない。
○インフラ整備について
建築物や施設は長期間使用するものなので、今の社会状況(高齢化率)を考えて作っても将来的には遅れたものになってしまう。それは、人の意識が変わるのに30年かかるからである。今の一般の人の意識は、30年前の実態=「高齢化率が7パーセントを超えて高齢者が増えてきた」というものである。そして、現在の高齢化の実態は、30年後になってようやく全員が意識することになる。
これでは遅すぎる。高齢化が急激に進む中では、今、インフラ整備をやって、間に合うかどうかという極めて厳しい状況である。50年後の3人に1人が65歳以上という社会になっても支障がない建物であるかどうかとういことを考えていかなくてはならない。
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*古瀬敏氏プロフール
1948年佐賀県生まれ。1971年東京大学工学部建築学科卒。1972年建設省建築研究所入所後、設計計画研究室長、計画システム研究官、第1研究部長、企画部長などを経て、2001年4月から現職。
専門分野:建築人間工学、建築安全計画、建築環境心理学
ユニバーサルデザイン概念を普及させるのに貢献した業績に対して、2000年6月に開催された第2回ユニバーサルデザイン国際会議において、ロン・メイス記念21世紀デザイン賞受賞。また、2000年7月、安全で使いやすい建築・住宅の計画技術の研究成果に対して、建設大臣賞受賞。
主な著訳書
・建築とユニバーサルデザイン(オーム社、2001)
・安心快適な高齢者配慮住宅(共著、オーム社、2000)
・ユニバーサルデザインとは何か(編著、都市文化社、1998)
・デザインの未来:環境・製品・情報のユニバーサルデザイン(編著、都市文化社、1998)
・バリアフリーの時代(都市文化社、1997)
・人にやさしい住まいづくり(都市文化社、1995)
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